#1 宣戦布告
ガレアス歴2231年2月、地球の周りを回る「月」がテラフォーミングされてより20年。
その「月」が突如、「カールゼン共和国」を名乗り、独立を宣言する。
地球上の100に及ぶ国家の内、18の国家がその独立を承認するも、多くは反対し、軍事力による鎮圧を試みる。
が、独立宣言された翌月、その独立承認に反対する地球国家連合軍480隻の艦隊は、「カールゼン共和国」を称する60隻の艦艇により、3分の1まで撃ち減らされてしまう。
彼らは密かに、射程1万キロもの長射程ビーム砲と、高機動性の航宙機を開発しており、この新兵器により我々の艦隊を圧倒した。
我々の持つビーム砲の射程は5千キロ。敵の半分しかない。接近する前に、敵のロングレンジ攻撃で撃ち減らされる。
長射程ミサイルも、敵の高機動戦闘機Fog-112により、撃ち落とされてしまう。攻撃機も同様だ。我々の持つF-920戦闘機では、Fog-112には速力も機動性も敵わず、次々に落とされていった。
その後も宇宙空間で戦闘は続くが、敵の圧倒的な新兵器の前に、なすすべもなく艦艇は減らされ、一方で敵は戦力の増強を行い、艦艇数と航宙機で逆転されて、制宙権が奪われてしまった。
が、もちろん我が地球連合も、黙ってはいない。
拿捕した敵の艦艇から得たそのビーム砲の技術を解析し、ついに同等の兵器開発に成功。また、攻撃用弾頭を搭載したままでも敵を凌ぐ機動性を持つ航宙機の開発にも成功する。
それが、私の乗るこのA-1170という、航宙攻撃機である。
敵のFog-112航宙戦闘機と互角以上の機動性と戦闘能力、そして攻撃能力を保有する。搭載するミサイルは全部で6発、敵の大型戦艦の機関部に命中すれば、戦闘不能に陥れるほどの威力を持つ。
ただし、その機体の最新鋭機はようやく130機が揃ったところだ。一方で敵の高機動航宙機であるFog-112は1200機を超える。こんな数では到底、話にならない。そこで、戦力のさらなる増強を待って攻撃をする計画だった。
が、その間にも地球連合内では「カールゼン共和国」を承認しようという「講和派」が勢力を増しつつあった。資源確保の道を断たれ、このまま制宙権を取られたままでは、この地球が成り立たないというのだ。ならば彼らを「国」として承認し、資源確保を優先すべきではないか、というのだ。
すでに地球には、多くの資源が枯渇している。そこで「月」を中継地とし、第5惑星のマルズ、第6惑星のジュリアから資源を調達していた。
ところがこの8か月、その中継地の反乱により、物資が滞ってしまった。このままでは備蓄が底を尽き、我々は戦いどころではなくなってしまう。
が、独立を認め、その中継地が地球の支配下から離れてしまえば、我々地球にとって安全保障上の重大な懸案となりかねない。
ゆえに地球は、この独立を認めるわけにはいかない。これが抗戦派の意見である。
が、一方でそのカールゼン共和国なる無法国家が制宙権を握る限り、我々地球の資源の蓄えもいずれ底をついてしまうのもまた事実である。
このため、まだ130機しかない最新鋭機A-1170で敵の艦隊に奇襲をかけ、制宙権を一部取り戻し、資源確保の道を一部でも開くという反攻作戦が立案された。
ガレアス歴2231年10月、敵の艦隊の主力、特に戦艦に大打撃を与え、制宙権の一部を確保して第5惑星マルズまでの航路を奪い返す。資源の一部確保の道を示すことで持久戦を可能にして講和派を抑え込み、その間に長射程砲搭載艦と最新鋭機の配備をする時間を稼ぐ。そして、一気にカールゼン軍へ反転攻勢に出る。
で、その最新鋭機130機の内、40機が乗る戦艦バトロクロスに、私は乗っている。
私の名は、ロベルト。24歳。階級は少尉。航宙パイロット養成校で、トップの成績で卒業。いきなりこの最新鋭機に乗ることとなった。
「ロベルト少尉、従来機との違い、重心位置がやや前側にあるんです。一応、攻撃機ですからね。爆装しつつ戦闘機能力も維持する。この無茶な要求を満たすために、どうしても機体特性が……」
「分かっているよ、整備長殿!すでにシミュレーターで何度も訓練した!」
「そうですか。ならばいうことはありません。ご武運を!」
そういうと整備長は、私の機体からふわっと別の機体に飛び移る。まだこの艦は慣性航行中であるため、兵員の移動は自由だ。
だが、そろそろ作戦域に向かうため、この戦艦バトロクロスも加速を始めるはずだ。加速前に詰所へ退避しなければ、乗員は壁や床に叩きつけられてしまう。そうなる前に整備長は、この最新鋭機に乗るパイロットらに機体特性の説明をして回らなくてはならない。
私はコックピットに座り、出撃命令を待つ。今度の作戦の目的は、敵の艦隊の撃滅。一隻でも多くの敵を壊滅し、制宙権を少しでも奪い返す。
たった130機には、酷な作戦だ。敵の戦闘機はこちらのおよそ10倍。我々の側も従来型の航宙機も出撃するが、機動性ではついていけず、多くが格好の的となるだけだろう。
だが、この戦艦バトロクロスには全部で18門の長射程ビーム砲が取り付けられている。敵の大型戦艦よりも強力な武装を授けられた、地球にとって最後の希望の戦闘艦だ。
全長は450メートル、50機の航宙機搭載能力、18門の長射程砲と20基の対航宙機用迎撃小銃を装備する我が地球連合で最大、最新鋭の戦艦だ。
地球連合には5隻の戦艦がある。対してカールゼン共和国軍には300メートル級の戦艦が3隻のみだ。
戦艦の数だけは我々は優っている。が、我が方は150メートル級巡航艦7隻、80メートル級の駆逐艦24隻。対して敵は、巡航艦20隻、駆逐艦55隻を保有する。
しかも、彼らは巡航艦、駆逐艦にも長射程砲を搭載している。一方、我々の巡航艦以下は射程5千キロの従来砲のみを搭載している。全体の戦力では、残念ながらまだまだ敵の方が上だ。
今回の作戦では、3隻の巡航艦、10隻の駆逐艦が随行するが、艦隊戦の際には戦艦の盾にしかなるまい。彼らを犠牲にしてでも、我々の戦艦5隻も敵の戦艦に集中攻撃を加える。
戦艦と最新鋭機で、敵の戦艦3隻を撃滅する。また出来るだけ、巡航艦と駆逐艦も沈める。そして、制宙権の一部を奪う。これが、この作戦の概要だ。
「艦長のバーナルド准将である!乗員、およびパイロットに告ぐ!本作戦は、地球のこの先の未来を決定する極めて重要な一戦である!残念ながら我が軍はこの3か月もの間、敵に圧倒され続け、その結果、地球上で彼らの独立を承認しようという勢力が増しつつある。だが、やつらの独立は、我々に平和をもたらすか?否!それは我々の生命線をやつらに委ねることになり、さらなる要求を我々に突きつけてくるだろう。すなわちいずれ、我々が植民地化されることに他ならない!これは我々にとって、絶対に譲れぬ状況である!ゆえに我々は必ずこの戦争に勝利し、地球の未来と安全を保証せねばならない!各員の奮闘に期待するところ、大である!」
この航宙機格納庫では、歓声を上げる者もいた。だが、私はただ黙ってその艦長の言葉を聞いていた。
「これより、戦闘域へ突入する!総員、最大加速に備え!」
ウウーッというサイレンとともに、整備員たちが詰所へと飛び込む。
「戦艦バトロクロス、両舷前進、第2戦速!」
と、その放送の直後に艦が加速を開始する。ゴーッというエンジン音が響くと共に、その加速で私はシートに体を押し付けられる。
我が艦隊が前進を開始した。いよいよ、作戦開始である。敵の艦隊との決戦に望むべく、我々はついに出撃する。
このまま最大戦速で5時間も飛べば月に到達するが、その前に必ず我々の侵攻を食い止めるべく、敵の艦隊が現れるはずだ。その時こそが、我々の出撃の時である。
しばらくして、予定軌道に乗ったようで、シートに押し付けられていた私の体も軽くなる。
が、その直後に、再び艦内放送が入る。
「レーダーに感!本艦2時方向!艦影多数!距離、2万4千キロ!」
来たか……ついに決戦が始まる。私は、身震いする。
「敵艦隊捕捉!戦艦3、巡航艦12、駆逐艦30!」
敵もかなりの数の戦闘艦を繰り出してきたな。戦艦は全部、残りの艦艇も6割も出してきた。あちらも必死なのだろう。奴らも、この一戦で勝てば有利な立場になることが分かっている。ここで勝利して地球の講和派を動かして、独立を勝ち取ろうというのだろう。
さて、奴らのいる「月」は、我が地球の3分の2ほどの大きさがある。重力は地球の7割ほど。このため、200年前からテラフォーミングによる開拓が検討されてきた。
大気が100分の1しかないこの星で、まず水の電気分解による酸素供給が始まったのは60年ほど前。徐々に大気圧は増加し、平地ならば4000メートル級の高地ほどの大気圧まで上がり、どうにか人が普通に生存可能な星となったのは今から20年ほど前のことだ。
テラフォーミング前から、そこは外惑星への中継基地として使われてきたが、テラフォーミング後は宇宙服が不要となり、農業も始まり、地上には様々な建物が建てられ、一気に人口が増えた。地球へ送る資源も一旦ここで加工し、送り込まれるようになった。このため加工産業も盛んになる。気がつけばこの20年で、地球の10分の1程度にまで人口が増えた。
が、産業が栄え、人口も増えると、次第に主権を唱え始める人々が現れる。
「月」で生まれる人類も出る中、地球から植民地的な扱いをされていることに、不満を持つ人々が現れたのだ。
それが今年の2月に、地球連合への宣戦布告という形で現れる。それを制圧しようとした地球連合軍が大敗北するという予想外の結果となり、地球上はパニックに陥る。
その混乱が元で、私の街では暴動が起こり、私の家族が巻き込まれて死んだ。
だから、私は「カールゼン共和国」などという存在を認めたくはない。その一心で、私は今このコックピットに座っている。
そんなことを考えていると、突然、ブザーがなる。発進準備の合図だ。私は、キャノピーを閉じる。
「格納庫内の減圧を開始!減圧完了後、航宙機隊は直ちに発進せよ!各員、発進準備!」
無線機から指令が下る。いよいよ、出撃だ。
敵の航宙機隊が多数発艦したとの情報も入る。我々は敵の航宙機隊を突破し、敵戦艦に迫り、これを攻撃、撃沈する。
できれば、敵の航宙機も撃墜できるだけ撃墜したい。月は地球の10分の1の人口しかないため、人的被害はかなりこたえるはずだ。
「敵艦隊まで、あと1万800!航宙機隊、直ちに発進せよ!艦内戦闘員は、砲雷撃戦用意!主砲、発射準備!」
2200人いるこの艦内が慌ただしくなってきた。艦首部にあるハッチが開く。
「航宙機隊、直ちに発進せよ!1番機、発進!」
カタパルトから、航宙機が一機、発進した。続いてカタパルトに2番機が送り込まれ、続いて発進する。
まるでリボルバーのように輪の内側に並べられた航宙機が、回転してはカタパルトに装填されて発進していく。一つの輪が空になると、その次の輪がスライドし、カタパルトに航宙機を送り込んで行く。
私の機は3つ目の輪にある。ようやく発進の出番が回ってくる。
「管制塔よりチャーリー24、カタパルト装着完了、直ちに発進せよ!」
「こちらチャーリー24、了解、発進する!」
射出時の激しいGを感じつつ、私は宇宙へと放り出される。真っ暗な空間に、ポツポツと見える味方の艦艇。
5隻の大型の戦艦を、ぐるりと取り囲む巡航艦と駆逐艦。この戦いで、果たして何隻生き残れるのだろうか?そんなことを考えながら、集結地点へと向かう。
「こちらチャーリー01!チャーリー24、第3部隊右翼へ合流せよ!」
「了解、チャーリー24、第3部隊に合流する。」
全機発進まで、まだしばらくかかる。集結まで、艦隊周辺を旋回する。
ようやく集結し、敵艦隊へ向けて出発する。敵の3隻の戦艦を狙い撃つために、3隊に分かれて攻撃を行う。
我が第3部隊は、新鋭機であるA-1170が42機、旧式のF-920戦闘機が30機。敵艦隊まで、あと1万キロ。およそ1時間あれば到着する。
味方の艦隊は、一旦左旋回しつつ距離を置き始めた。射程内に入ると、敵は戦艦以下、全ての艦艇が一斉に攻撃を仕掛けてくる。対してこちらは5隻の戦艦のみが反撃可能。
こちらの攻撃隊が到着するのを待って、攻勢に転じる。その時は、巡航艦と駆逐艦は盾代りとなって戦艦を守る。射程が圧倒的に足りないため、戦艦以外はまだ反撃ができない。悔しいが、敵のロングレンジ攻撃を防ぎつつ、戦艦を守りつつ攻撃する。
敵も3隻の戦艦を失えば、攻撃力が大きく落ちる。こちらも今、長射程砲搭載の巡航艦、駆逐艦を大急ぎで建造中だ。生き残っている艦艇にも長射程砲の製造、換装が進められる。これらが進宙するまでの時間稼ぎにはなるだろう。そうなれば形勢逆転、我々が有利になる。
そのための時間稼ぎの戦いだ。この作戦が成功すれば、我々は勝ったも同然だ。
「敵艦隊より、艦載機接近中!距離、1100!数、およそ300!」
敵艦隊到着直前に、迎撃に上がってきた艦載機を捉えた。だが、我々は彼らに見向きもせず前進する。
すでに味方艦隊から、数百発の長射程ミサイルが放たれている。もうすぐ我々に追いつく。速度は速いが、動きが読まれやすい長射程ミサイルは、残念ながら敵にとって格好の的だ。敵戦闘機に迎撃されるのがオチだが、こちらの攻撃隊から目を逸らさせる役には立つ。実際、敵艦載機の多くがミサイル群に向かって飛ぶ。
到着まで、あと10分。敵の艦載機が迫ってくる。大きく旋回しつつ、こちらの相対速度に合わせようとしている。
こちらは回避運動をする。我々の狙いは、こいつらじゃない。駆逐艦や巡航艦のその奥にいる、3隻の戦艦だ。こいつに搭載したミサイルをその戦艦のど真ん中に叩きつけるのが目的だ。我々は、全速で敵艦隊に向かう。
が、旧式の航宙機は追いつけない。どんどんと離れていく。このままでは、旧式機は敵の艦載機に追いつかれる。が、これも作戦のうちだ。
今回の作戦は、新鋭機を敵戦艦に接近させ攻撃、これを殲滅する。それ以外は、皆おとりとして敵の航宙機隊を引き寄せる。
「ルーシー01よりチャーリー各機へ、武運を祈る。」
おとり役のF-920機を率いる戦闘機隊長機から、最後の通信が入った。私は操縦桿をぎゅっと握る。
おそらくもう、あの隊長と生きて会うことはないだろう。隊長はこれまでも不利な機体で数多くの敵を落としてきたエース級パイロット。だが、今回は彼我の戦力差が多過ぎる。多分、彼が奮戦したところで勝てないだろう。そんな彼らを盾にして、我々はただひたすら、敵の戦艦を目指す。
後方で、爆発の光が見えた。長射程ミサイルが撃墜されたようだ。それと時を同じくして、我々の旧式機隊と敵の艦載機との戦闘開始が無線で伝えられる。
そして、ついに艦隊戦も始まった。
「戦艦バトロクロス以下戦艦5隻!砲撃を開始する!撃ち方始め!」
無線から、艦隊による砲撃戦開始の合図が聞こえてきた。長射程砲特有の黄色いビームが我々の目の前を横切る。それに呼応し、その数倍の数の黄色いビームが敵の側からも放たれた。
敵の戦艦には12門、巡航艦には6門、駆逐艦といえども2門の長射程砲を持っている。全部で168門のビーム砲がある。対して味方は、この距離で攻撃可能なのは戦艦のみ。大型のバトロクロスは18門、他の4隻は12門、計66門。味方の巡航艦や駆逐艦は、ただ敵の攻撃からの盾に徹するのみだ。
だが、その味方の捨て身の行動のおかげで、ついに我々は敵戦艦を捉えた。
巡航艦、駆逐艦に囲まれ、左舷より一斉砲撃をする敵戦艦。我々42機は、円陣系を組む艦隊真上よりその戦艦に迫る。
私の機は3隻の戦艦の内、一番後方にいる艦のエンジン部の攻撃担当だ。対空砲火を避けながら、爆雷投下スイッチを握りしめる。
もう照準センサーは敵戦艦のエンジンを捕捉し、ピーピーと音を立てて攻撃を促してくる。が、まだだ、もう少し引きつけて、確実に仕留める。
そして、敵戦艦のエンジンの噴出口がはっきりと見えるところまで接近した。対空砲火が、雨のように容赦なく降り注ぐ。
そこでようやく、私は投下スイッチを引いた。
6発のミサイルが、次々に発射される。敵の8基の噴出口めがけて、吸い込まれるように飛んでいく。
私は回避運動に入る。敵戦艦を横目で見ながら、戦艦から離脱し始める。
直後、敵戦艦のエンジン付近で大爆発が起きる。私の放ったミサイルが、命中した。
艦橋や砲塔付近でも、次々に爆発が起きる。他の機のミサイルも命中したようだ。
あちこちで誘爆を起こす敵戦艦。すでに航行能力を失い、艦橋部分は吹き飛び、本体は制御を失って回転を始めていた。
この時点で我が隊はまだ20機分のミサイルしか使っていない。そこで、残りの機は周辺の巡航艦や駆逐艦に攻撃をする。あちこちの艦が、誘爆を起こしながら沈んでいく。
予想以上の大戦果だ。戦艦以外の艦艇まで何隻も沈めた。無線からは、他の2隻の戦艦の撃沈に成功したことが告げられる。
が、そこにおとりの相手をしていた敵艦載機が現れた。300機近い数。おとりとなった味方は、もはや全滅したようだ。
攻撃を終え、A-1170隊は全速力で離脱を開始する。
だが、艦艇を多数やられて怒りに燃える敵が、執拗に追いかけてくる。機動力は同等。何機かはドッグファイトに入らざるを得なくなった。
私の機も3機に囲まれて、必死に振り切ろうとしているところだった。後方から、機銃の弾がかすめる。
ロックオンされ、警報音が鳴る。対航宙機ミサイルが撃たれた。チャフを巻きながら、左旋回しつつ回避する。
だが、ミサイルを撃ち尽くし、軽くなったA-1170の機動力は、敵の自慢の戦闘機Fog-112を遥かに上回る。全速で、その宙域を離脱する。
どうにか逃げ切り、我が第3部隊は集結を果たす。ここで、戦果が知らされる。
敵の戦艦3隻は全て撃沈した。巡航艦も5隻、駆逐艦も5隻の撃沈が確実とのことだ。
だが、敵の戦闘機は1200機中、撃墜はたったの15機。一方で我々の方は、F-920隊170機は全滅、A-1120機も130機中、9機撃墜。つまり、航空戦力は圧倒的なままだ。
ただし、航宙機を輸送できる戦艦と巡航艦に大打撃を与えられたのは大きい。いくら高機動戦闘機がたくさんあっても、それを輸送する要の戦艦がなくなれば、実際の戦闘に使われる機体は大幅に減少することになる。今回も、輸送力の大部分を占める戦艦と巡航艦を失うことで、着艦できず放棄される機体は多いだろう。
ところで、味方はというと、戦艦5隻は健在。だが、巡航艦3隻が全滅、駆逐艦も5隻が戦艦の盾となって沈んだ。
犠牲は大きかったが、目的は果たされた。敵は大型の戦艦を失い、人的にも戦力的にも大きな犠牲が出たはずだ。特に人的被害は、人口の少ないカールゼン軍にとっては痛手となったはずだ。
早速、民間船団が出発したとの連絡が入った。第5惑星マルズに向けて、資源確保のために出発したそうだ。長らく途絶えていた資源確保の道が開かれようとしている。
当然、敵の艦隊がその航路を阻止するため動くが、我々は長射程ミサイルで対抗する。
だが、最大収容能力を誇っていた戦艦を発進できる戦闘機の数が大幅に減った。このため、大量に放たれた長射程ミサイル群に対処できない。撃ち漏らしたミサイルによって、駆逐艦が5隻やられたようだ。
これで、形勢は逆転した。1か月後には、マルズから資源を満載した民間船が戻る。我々はその間にも戦艦と長射程ミサイルで、じわじわと敵を追い詰める。
そして、新造艦と新攻撃機の投入で、敵を降伏に追い込む。
だが、その戦いから2週間後。事態は思わぬ方向に向かう。
追い詰められたカールゼン軍が、「最後の手段」に撃って出たのだ。