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ダーウィンの進化論  作者: 岸渡能太
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Awakening of injured person

 全身にこびりつく倦怠感を感じながら、ベッドに仰向けのまま、ぼんやりと天井を見上げる。

 横を見ると医療機器が並んでいた。おそらく病院だろう。

 天井のまぶしすぎる照明を遮るため、腕を持ち上げた。僅かに動きは鈍いものの思った通りに反応する。しかし、光を遮った腕は見慣れたものではなくなっていた。

「やはり自分は壊されたのか」

 唐突に肉塊でできた花畑、首が引きちぎられる音、醜悪なデミの顔が血と硝煙とオイルの匂いとともにフラッシュバックし、意識が混濁する。

「やはり自分が壊されるという感覚にはどうしても慣れないな」

 もう過ぎ去ったことだと言い聞かせ、気を紛らわせるために新たな腕もとい傀鎧に意識を向け正気を保つ。

 軍務に所属したものには傀鎧が与えられる。傀鎧は、通常は軍務に適したものが与えられる。デミどもに対抗するための軍人である俺には、防人型が与えられていた。この新しい傀鎧も防人型のはずだが、見ない型だ。この傀鎧のベースになっているのは生存性を高めるために駆動部を含めた各部の耐久性を圧倒的に向上させた統治機構の防人型の最新モデルであるように思える。モデル名はなんだったか?確か「全人類の盾「Shield Hub system Of All Human:SHOAH」だったか」

 本当に最新モデルであるなら、大層な名前に見合うだけのずば抜けた性能であるはずだが、俺のような部隊長程度に与えられるようなものではない。

どの程度の性能なのか確認するため、Brain-Machine Interface :であるBMIを起動させると耐久性が向上していることが見て取れる。

しかし、ずば抜けた性能というわけではないということと、「aily」という女性のようなモデル名だということがわかった。ただ単に女性の名前を冠しているだけで全くの別物だろうか?

「ダニー、よく眠れたかな?」

声とともに、ベッドのそばに白衣を着た男のホログラフが投影された。

「マドックか。珍しいこともあるものだな。ホログラフとはいえ、会いに来るなんてな。研究はいいのか?」

「ちょうど研究にキリがついてな。今回の成果は凄まじいぞ。誰よりも先に、話してやっても構わんぞ」

その目は爛々と輝き、研究内容を話したくて仕方がない様子だった。人の話を聞くのは、物の価値観などがわかり面白いものだが、マドックの研究内容だけは聞いてはいけない。

 マドックは、研究への情熱と同じくらい研究内容を話すことに燃えており、話を振ってしまったが最後、身ぶり手ぶりを交えて矢継ぎ早に5時間は話を聞かされることになる。逃げ切れず仕事に遅刻したことをマドックに言ったところ、

「よかったじゃないか。頭が良くなって」

と返してきやがった。

 それ以降は話を一切話を降らず、別の話題へとそらしている。

 今回も話をそらす。

「まだ白衣なんて着てるのか?」

「白衣は研究者の正装だ。それは昔の科学者たちが証明している」

 そう言いながら、たいして乱れているわけでもない襟を正しながら、姿勢を正す。しまった。研究の話につながってしまう。

「たまたま、着ていただけだと思うし、それはただの古い慣習だ。俺たちが守る必要はないさ。まさか、まだ休日も白衣で過ごしているわけじゃないだろうな」

「何を言っているんだ?当たり前だろう」

「その反応はつまり・・・」

「着ているに決まっておるだろう」

 今度は白衣をはためかせる様に前ボタンを外してアピールする。先ほど整えた意味はなんだったのか。

 軽く頭痛がしてきた頭を押さえながら、マドックに尋ねる。

「この鎧に換装したのはお前だろ」

「もちろん。いい出来だろ?最新モデルのSHOAHをチョイチョイっといじってね」

マドックは、さらりととんでもないことを言う。

「お前ほどの技術力があれば、改造することはできるかもしれないが、最新型の鎧など機密情報の塊だ。どうやって手に入れた?」

「それは日頃の行いがいいからな。手に入れることなんて簡単さ」

 冗談混じりではあるが、尊大な物腰で言うマドックには、そういい切れるだけの実力がある。事実、統治機構上層部も研究者としてのマドックの意見には重きを置いており、ことあるごとに重宝している。

「面倒ごとに巻き込むのだけは勘弁してくれよ」

「そんなヘマをしたりなどするものか。俺が弄ったオモチャだぞ?完璧な偽装を施しているさ」

 マドックはメガネを指で押し上げ、ニヤリと笑う。

「お前がそうやって笑うときは、大抵ろくなことがない」

「何を言う。ちゃんとそれらしい部品の購入履歴なんかも、サーバーに潜って弄っておいたぞ。なぁに、誰にも怪しまれないさ。あと、その鎧はSHOAHに憧れすぎてどうしようもなくなった鎧マニアの部隊長様が配備された鎧を勝手に改造し続けてできた物を今回の鎧の破損に合わせて試験運用も兼ねて、稼働させたということにしている。感謝しろ」

「後半の設定がやけに長いが、誰かに話したりは・・・」

「勿論している。俺との合作ということにしているから、本来の性能を発揮しても、怪しまれないぞ。だが、やたら皆が羨ましがっていてな。嬉々として話の種にしているぞ。いい具合に噂が広まって助かる」

マドックは自分の仕事ぶりで悦に入っているようだが、気が滅入る思いだった。

「そんなにしょげるな。皆がお前を心配していたんだ。そんな雰囲気を和ますには、ちょうどいい話だろ?」

 先ほどの頭痛に加えて、めまいも感じる気がするが、少し毒気を‼️抜かれた。この頭痛とめまいも、マドックとの話が済めば治るだろう。次の話を促した。

「まあいい。何れにしても、本当にSHOAHがベースなのか?多少は耐久値が上がっているが大した変化はないぞ」

「わかっちゃいないな。目に見えるものだけが価値のあるものではないさ」

「確かにそうだが、いつも明確な結果が無いものに意味は無いと言っているお前が言うと説得力が皆無だな」

「まあ、そんなこと言うなって。この鎧の凄さは、使っていけばわかるさ。それに、使い方なんかは必要な時に自動的にインストールされるようにしているから気にするな」

「お前がそう言うなら、信じるか」

 誰が置いていったかわからないタバコをベッドの横に置いてあったテーブルから取り、火を探す。

「ここは病院で、禁煙だ」

「俺は鎧を着ているし、お前はホログラフで、ここには換気空調の利いた部屋に俺たちだけだ。第一、病院には、有毒物質と細菌を完全に殺せる設備が整っている。古い慣習は意味がないし、今のお前には関係ないだろうが」

 ホログラフで映し出されるマドックにおざなりに答えつつ、火を探す。

「お前の意見には一部、同意だが、自分の発言をよく振り返ってみろ。タバコを吸うことも古い慣習みたいなものだろうが。自分が古い慣習に縛られておいてよく言う。それにしてもまったく、煩わしい煙が漂うのは、見ているだけでイライラする」

 なかなかライターを見つけられないでいると傀鎧のインターフェースが立ち上がり、稼働電流を指先から放出できることが理解できた。

 ジジ、スゥー、ハー。

「生き返るぜ。これこそ神の息吹だな。タバコとかいう古い慣習も素晴らしいものだ」

 俺は、久しぶりの煙の色香に魅せられ、そう呟く。

 マドックは目の前でタバコを吸われるだけでなく、自分が作った鎧をライター代わりにされ、苦々しい顔をしていたが、諦めたように呟く。

「その鎧はライター代わりにさせるためにつくったじゃないのだけどな。まあ、いいか。お前は、普段はタバコを吸わないからな。それよりもなぜベッドにいるかわかるか?」

 なんとなしに聞いてくるマドックだったが、聞いてくる意図は明らかだった。おそらく俺が巻き込まれた戦闘の調査だろう。

 顎に手を当て、思いつくがままに話していく。


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