開幕
構想はあったもの、書くのを避けていた作品です。よろしくお願いします。
ザッ•••ザザ、ザーザザッ
なにが•••起きた•••。
四肢の感覚はなく視界はひどく乱れ、思考は散り散りになり纏まらない。直前に体を襲った激しい衝撃のせいだろうか、どこかが故障してしまったのだろう。
体を揺らす激しい振動と僅かに機能している聴覚が低くうめくような重低音をとらえる。ここはまだ戦場なのだろう。
前後不覚のこの状況ではいつ死んでもおかしくない。焦燥感に駆られながらに打開策を考えていると生命維持装置の機能低下を告げる信号が脳に届いた。
生命維持装置の機能低下の信号のため思考はより一層乱れたが、その反動だろうか?視力が回復してきた。
自分の体を見やると両腕が破壊されていることが確認できた。脚の状態は見ることはできないが腕と同じく感覚がないことから、おそらく似たような状況だろう。諦観に似た境地に達しながらも生き残る術を探すため、周囲に視線を巡らす。天井には配管やケーブルがのたうち回っている。
視線を横に向けると生物の痕跡などなかったはずの無機質な通路が毒々しく彩られていた。視界の大部分は、デミ共のものと思われる赤色の血に染め上げられ、原型をとどめない様々な形の肉塊が床を覆い尽くしていた。それこそ視界の不調が相まって、赤色の花畑が眼前に広がっているのかと勘違いしてしまうほどに。
視界の端の床には機械の破片が所々に散乱しており、随伴機が散ったことが見て取れる。
ここはまだ戦場のただなかであり、いつ死んでもおかしくない状況にあると改めて理解した。一刻も早くこの場から逃れるために足が壊れていないことを願い、力を入れるが全く動かない。
やはり腕と同じく破壊されているのだろう。
焦燥に駆られる中、先ほどから鳴り響いていた重低音と激しい振動が遠のいていった。戦闘が終結したのだろうか。周囲の状況に意識を向ける中、さきほどまでなかった影を視界の端に捕らえた。
その陰に気付いた瞬間、激しい衝撃が頭部を襲った。執拗に何度も、何度も頭を打ち付けられ、意識が遠のいていく。首が引きちぎられていく音を聞きながら、人間を破壊する陶酔感に酔いしれる涎を垂らしたデミの醜悪な顔だけが目に焼きついた。
そして、首が千切られ、何者かに抱かれる感覚を感じながら、完全に意識を手放す前に女性の声が聞こえた気がした。
ひどく澄んだ、美しい声だった。