後編。ド素人でも戦隊ヒーロー、巨大激闘編。フラグメント1。
「ここって……?」
だだっ広い空間だ。広場と言うよりは荒野である。暗さに目が慣れている三人は、景色を注意深く観察してみた。
「なんか、岩がゴロゴロしてるような?」
レッドに続いたブルーの言葉。
「巨大戦闘にあつらえたような場所ですね」
イエローも不思議そうに言う。
『そのとおりです大和かがみさん。ここは、このためだけの空間、凄なる決闘上。過去の戦いの跡です』
誰? 三人は一斉にそう問いかけた。声の主は、マーニが義姉と呼んでいた声であり、三人は初めて聞く声だったのだ。
『神杯の持ち主であり、シュレディンガードの長。アマテラスと申します』
「え? リーダーってマーニさんじゃなかったんだ」
意外を微塵も隠さない声でレッドが言うと、
「わたしもそう思ってた」
「わたしもです」
口々にブルーとイエローが同意に頷いた。
『あなたたちについては、マーニたちに任せていますからそう思うのもしかたありません。ですが、この空間に来たとなれば、わたくしの力が必要になります。
ゆえに顔を いえ、声を出させていただきました』
「「「そうなんだ」」」
「いったいなにごとかと思ったンモーが、どうやらお前らは自分から逃げ道をなくしたようだンモー。つくづくバカな奴等だンモー」
ミノタウロスが、遥か上から含み笑いで声を出した。ボリュームは小さめで、距離があることがわかって三人は少しだけほっとした。
「そうだ。そうだよね? せこ牛の言うとおりだよ、どうするのこんなとこに連れてきて?」
しかし現状をきっちりと認識したレッドが、困惑の色を焦りに乗せる。
『大丈夫です、対抗策はそこにあります。あなたたちの後ろに』
「「「後ろ?」」」
言われて振り返った三人。しかし、そこにはただ巨大な長方形の岩がドッシリと鎮座しているだけだ。
「これが、対抗策……ですか」
怪訝な声で問いかけるイエローに、アマテラスははいと肯定。
『近付いてくれれば、それがなにかわかります』
半信半疑で岩に近づく三人。すると、まるで自動ドアのように、岩の三か所がシャッターじみて上にスライドした。
「これ……は?」
疑念をそのまま乗せたような、自信の無い呟きをするイエローに、アマテラスは調子を崩さず答えた。
『それぞれの色の場所に入ってください。後は見てわかります』
言われて三人は、左にブルー 右にイエロー そして真ん中にレッドが、空間へと、恐る恐る進んだ。
三人がシャッターの先に入ったのを確認したようなタイミングで、それは下がって来て外界と少女たちを隔ててしまった。
「わっ、まぶしっ」
シャッターが閉じて僅か後、蛍光灯のような強い明かりが点き、思わずレッドは目を閉じた。
他二箇所からも同じような声がしたため、みんな同じ状況なんだろうとレッドは理解した。
「これ……椅子?」
とりあえず腰掛けて見た。するとシャッターよりこちら側の天井から、なにかが降りてきて、レッドの行動範囲を狭めてしまう。
「なんか、差し込めそう?」
下りて来たそれには、言葉の通りなにかを差し込めそうな溝があった。
『そこに各々の得物、ではあなた方はわからないでしょうか。武器を差し込んでください』
アマテラスの指示通り、レッドは鞘側からフェンサーソードを溝に差し込み、ガチっと言う音を聞いた。
『全員差し込めましたね。なら、得物の右横からせり出したボタンを、同時に岩塊転生と言いながら押してください。それが、あの巨大エレメルとの戦闘準備になります』
「また同時か。うまく合わせられるかなぁ? みんな、聞こえる?」
試しに声を賭けてみたら、
「うん」
「聞えます」
と、武器を差し込んだところから聞こえた。
「よし、じゃああたしがせーのって言うから、合わせて」
「わかったよ」「わかりました」
「よし。じゃ、いくよ。……せーのっ!」
「「「岩塊転生!」」」
声と同時に三人は、得物を差し込んだ物の溝右に出っ張っていたボタンに、掌を叩きつけた。
『育代幾年巡り行く』
「なに?」
「なにごとだンモー?」
『輝夜と昼陽照らせし人の地』
「今度はマーニさんだ。ってこれ、外に聞こえてるの?」
『影と巌に身をひそめ』
「うずめさんまで? なにかの呪文、でしょうか?」
『無辜の民衆守り継ぐ』
今度は桜の声だ。邪魔されなきゃいいんだけど、と心配そうにブルーが呟く。
「なんか、この呪文みたいなのが始まってからゴゴゴゴゴーってずっと鳴ってるんだけど、これ なに?」
『神の土塊集いしは』
次はヤマトである。
「ガチャン ガチャンって、岩とは思えない音もしてるしね」
『『天の暴虐撃ち祓う』』
アマテラスとマーニがハモる。
「巨大戦闘なら。これは……ひょっとして、合体中かもしれませんよ」
「え? こんなのが?」
『『巨然の兵出でし刻』』
桜と兎栖命。
「それぐらいしか、考えられない……かも」
ブルーが自信なく言う。
『岩の鎧を爆ぜさせて。威風堂々顕現す!』
「ヤマトさん、気合入りましたね」
「もしかして……合体完了?」
「なにが起きてるかわかんないから、モヤモヤするなぁ」
まるでてんまの言葉に答えるように、五人同時に詠唱を終える。
『『『『『天凄! グレイセーバー!』』』』』
その言葉が終わると、三人を隔てていた壁が、またもシャッターじみて開き、三人の座席を一繋ぎに連結。
更に、得物を差し込んだところも連結し、上からモニターが降りて来て合体、ようやく三人に外の様子がわかるようになった。
「えっ?」
「牛さんと、顔の高さ……いっしょ?」
「これが……巨大戦闘、ですか」
「グレイセーバーだと? だがしょせんは土塊ンモー。オレサマの力でぶっ壊してやるンモー!」
「わっ! どっどうするのこれ?」
『みなさん、得物を差し込んだところに、手や足が入れられるところがあるの、わかりますか?』
「あ、ほんとだ。もしかしてここに手足を突っ込んで、感覚的操作ってこと?」
『そうです、動きはイメージが全てです』
「ロボなのに機械っぽいとこ、あんまりないんだね」
ブルーに言われて
『昔から存在している物なので。それでも改良した結果なんですよ』
とアマテラスは微苦笑した。
『まもりさんが基本操縦と、水属性攻撃である竜水瀑布を。
てんまさんは射撃武器であるグレイバーストを、かがみさんはバリアをお願いしますね。
使いたい時はそれぞれ得物を取り出して生身で戦った時のように使ってください』
「「「了解」」」
「いくわよ、せこ牛!」
【カメラ】外から視点【チェンジ】
「ようやくかンモー」
グっと地面を強く踏んでから、
「待ちくたびれたンモーっ!」
猛然とミノタウロスが、グレイセーバーへと突進する。
「ぐっ!」
それを受け止めたグレイセーバー、今の声はレッドのものだ。
そのままミノタウロスがグレイセーバーの前腕をガッチリと掴み、力比べの状態になる。
「えっ? なんで左腕生えてきてるの?!」
「お前らがオレサマに変な光を当ててくれたおかげだンモー。
光に包まれた時、腕がニョッキリと生えて来たンモー。感謝してるンモーっ!」
「うわぁっ!「わっ?「きゃっ!」」」
力比べに負けたグレイセーバー、たたらを踏まされてしまい隙だらけになった。
「喰らえンモー!」
左腕を後ろにそらすミノタウロスは、
「超!」
続けて右腕も後ろへそらした。
「イエロー! バリアをっ!」
「あ、はいっ! ヘイz」
「モー烈!」
バリアを展開するより早く、ミノタウロスの初撃、左腕のラリアットが振り抜かれた。
「うわーっ?!「わっ!「きゃっ!?」」」
一番勢いの強い段階で叩きつけられた腕の衝撃で、バランスを崩してしまうグレイセーバー。
「ラリアットー!!」
間髪入れずの二撃目、左腕の勢いを殺さないまま一回転しての右腕によるラリアット。
バランスを立て直すより前に再び殴りつけられ、グレイセーバーは三人同時の悲鳴を伴って吹き飛ばされ、地に背を付けることになった。下敷きになった岩が派手な音と共に砕けて散る。
「フッ。月明りがまぶしいぜ」
「なにかっこつけてるのレッド! 起き上がらないとっ!」
「そうですよっ」
「そうはいかンモー」
ドスン ドスン、悠然と近付くミノタウロスは、すっかりと余裕の声色だ。その一歩一歩が大地を揺らす。
「たしか、小娘どもは。そこだったンモー」
歩調を緩めたミノタウロス。その動きはまさに、狙いを定める構え。
月光を浴びて、二本の角が鈍く黒光りする。その光は凶器のそれで、グレイセーバーの銀のボディとは正反対の危険な輝きだ。
「っ、イエロー!」
「わかってますっ!」
悲痛な声を発する倒れた巨人に、巨牛は構わない。
「この角で、操者を串刺しにすればそれでラグナレイドの勝利だンモー!」
余裕の巨牛は、これでとどめと疑わず、思いっきり体を反らした。
「ブンモオー!」
全体重を乗せた雪崩のような頭突きが、グレイセーバーに ーー三人の少女に迫る。
「防御結界!」
その声が終わるのと、巨大な赤茶色が銀の巨人に覆いかぶさったのは同時だった。
「ブゴアアアアッ?!」
ギリギリで間に合った光の壁に弾き返されたことで、ミノタウロスは天高く そして後ろに吹き飛んで行った。
数秒後、雷が落ちたような凄まじい音が少女たちの鼓膜を打った。
小さくバラバラと言う音が続く中、グレイセーバーは立ち上がる。
「まにあいました~」
「あぶなかったー。ナイスイエロー」
「生きた心地がしなかったよぅ」
安堵に綻ぶ三人の声。しかし、小さな地響きを感じて、まだ敵が倒せていないことを理解した。
「ブルー、打って」
「うん。グレイバースト!」
恥ずかしそうに「って、二人のノリ、移っちゃった」と呟くブルー。それとは無関係にグレイセーバーの左手は、右の赤い二の腕から火の属性を扱う射撃武器グレイバーストを抜き取り構えた。
「ただ打つんじゃしまんないから、なんか言おう」
「えっ、そっ そんなこと言われても。
わたし二人みたいにスラスラ出てこないよ?」
「乗りかかった船だよブルー、勢い勢い!」
「んもぅ、簡単に言ってくれちゃって……」
などといつもの調子でやっていると。
「お前ら。ずいぶんと、余裕だな、ンモー」
ミノタウロスが、地響きを伴いながら、ようやくと言う干満差で体を起こした。
「ほら、早く!」
「え。ええっと……うーんと……。いっけー! ヤキニクブラスター!」
悩みに悩んで出た声に答えるように、グレイバーストが火を噴いた。
「えー」
「ブモアーッ!」
銃口から放たれた極太ビームは、炎浄消砲の時と同じように、ミノタウロスの額に命中した。
「その名前はちょっと……」
ネーミングセンスにブーイングを喰らったブルーは、
「ひどいよ、センスないって言ったのにその反応……」
声だけでわかるほどに、そのカラーの如くブルーな気分になってしまった。