後編。ド素人でも戦隊ヒーロー、生身乱闘編。フラグメント2。
「二人とも、大丈夫!?」
走って来たのはブルー、少し息を上げている。
「ブルーこそ、よく無事で!」
タタっと走り寄ったレッドは、ブルーの左手を剣を左手に持ち替えて握りしめた。その声は、聞いただけで大喜びである。
「一撃で倒されるヒーローなんて、かっこわるいもんね」
こちらも笑みの声色で答えたブルーだが、それでも声には少し痛みが残っている。
『先輩方、もう一撃です。まだ足りません!』
「え? もう平気なんじゃない?」
『いえ、ラグナレイドはしぶといですよ。怪人たるエレメルの、その自己治癒能力の高さは首をかしげたくなるほどですから。
特に属性一致の場所におけるエレメルの回復速度は冗談のようです』
今度はマーニの声だ。
『もう一撃、三人の力を合わせた一押しが必要です』
「合体技。そうですね、戦隊ヒーローの怪人へのとどめは、合体武器による一撃と相場が決まってます」
あっさりとイエローが納得に頷き、レッドもそうだったと頷く。
「これ以上は、なんか……かわいそうな気が」
一人だけ躊躇するブルー。そこにマーニが諭すように、しかし毅然と言葉を叩きつける。
『てんま。ここで敵 ミノタウロスを逃せば、傷を癒しまた行動を開始します。今回は食べ物の被害だけで済みましたが、次もこうとは限りません。
忘れないでください。ラグナレイドの目的は人類の殲滅ですよ。一つを逃せば犠牲はその何十倍、何百倍です。
その犠牲者の中にあなたの大切な人達が含まっていたら?』
言われて息を飲むブルー 小田てんま。
『機会を逃してはいけません。ラグナレイドと戦うということは、そういうことなのですよ』
「大切な人が……もし、この牛さんに殺されたら……」
マーニの言葉を反芻し、それを思い浮かべるてんま。
「……わかりました。どうすればいいんですか?」
力強く頷いて問いかけたてんま、その仮面の裏の瞳は、悲愴と決意に燃えている。
『まず、ヤキウチガンの上側を、バスターモードの声と共に引っ張ってください』
「はい。バスターモード」
ガチャリと言う音と共に、スライドが最も体に近い位置で固定される。
「こういうのって不思議な力的な物で、勝手に合体すると思ってたけど」
「はい、手動変形合体なんですね」
感心する二人をよそに、バスターモードの変形合体は続く。
『まもり、フェンサーソードを鞘ごと今引っ張った部分に差し込んでください』
「えっ、えっと」
レッドは背中から鞘を抜き取り、そこに剣を納め、ヤキウチガンの引っ張られたスライドの下側へと差し込んだ。柄はブルーの側にある。
「こう?」
銃身が延長されたような形になったバスターモードのヤキウチガン。
ここからどうなるのか、三人はまったく読めず、ただただ指示を待つ。
『差し込めたらまもり、手甲を外してください』
「これ、外れるの?」
ガチャガチャと装備を取り外しにかかるレッド。どうにか手から外すことに成功。
『外せたら向かい合わせるようにして組み合わせ、それをヤキウチガンの銃身 前側に噛ませてください』
言われたようにしたことで、ちょうどイノリロッドが収まりそうな隙間のある銃身となった緑の手甲。
『ガチリと音がしたら、後はかがみがイノリロッドを前側から差し込めばバスターモードの完成です』
「わかりました」
言ってイエローはヤキウチガンと向き合う位置に移動し、イノリロッドを先端が銃口から見えるように差し込み、ガッチリと噛みあった。
「それ以上、やらせるわけにはいかないンモー!」
「えっ、もう復活したの?!」
すっくと立ちあがり、戦意と怒りを瞳に宿した牛人間。そんな様子にレッドが驚愕したのだ。
「う、うぅぅ……お……重くて動けない……!」
『まもり、かがみ。てんまを手伝って。それぞれ自分の武器を持つ形で支えて』
「あ、はいっ」
「ブルーのフォローはまかせろー」
三人が密着した状態で、レッドはスライドを両手で掴み、イエローはイノリロッドをやはり両手で握り。
そしてブルーはグリップを持って必死で立っている。
「バカめ! そんな隙だらけでどうするンモー!」
『全員で意識を集中して。虹色の光が見えたら、同時に言霊を放ってください 森羅万焼バスター、と』
マーニの言葉を聞き終えて、三人は意識を集中させた。目の前の敵を倒すために。
「ブモオー! 喰らえ!」
ドス、ドス、ドス。徐々に加速して来る牛人間。しかしこちらの光はまだ色が赤青黄色と三食だけだ。
「これで終わりだンモー!」
「「「見えた! 虹色の光!」」」
「モー烈!」
「「「森羅万焼バスター!」」」
「ラリアット!!」「「「バスター!!」」」
右腕を引き切り、今まさに振るおうかと言うところに、螺旋に渦巻く虹色の光が、その身体を穿つため、轟然と突き進む。
「ン゛モ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
無数の爆発に飲み込まれる牛人間 グラウンドエレメルミノタウロス。
花火みたいだ、そんな不謹慎なことを感じる三人は、バスターモードが解除されパーツがバラバラと地面に落ちる音で我に返った。
「やったの……かな?」
いそいそと装備を整えながらレッドが呟く。
「流石にあんなの喰らったら、倒してるはずだよ」
ブルーもヤキウチガンを腰に戻す。
「これまでが戦隊ヒーローのお約束に、かなり沿った流れになってる……。となると」
水を差さないよう、囁くように呟きながら イエローもイノリロッドを回収した。
『いえ先輩方、残念ながら駄目みたいです』
「ええっ? なんで!?」
驚愕と不満の声を上げたのはレッドだ。
『原因は一つ。森羅万焼バスターは強力ですが、必ずエレメルと同じ属性を内包します』
マーニが解説している。
『その属性は、彼等にとっては栄養源です。したがって、どうしてもあれだけで完全な撃破には至らないのです』
「そっか。だからとどめって言わなかったんだ」
ブルーが感心と納得を声に出した。
『そしてそれは、完全撃破への布石』
「どういうことですか?」
イエローの問いに、あなたがその手を打つのです、そうマーニが指名した。
「わたし? いったい、なにをすれば?」
『』利き手で額の鏡に触れながら言霊を紡ぐのです。「オオミカ・ミカガミよ。彼の者を天網に捉えよ。太陽の波動」と』
「わかりました。……いきます」
一つ頷き、イエローは手折れている敵を見据えて言葉を発した。力強く。
「オオミカ・ミカガミよ。彼の者を天網に捉えよ。太陽の波動!」
声が終わると、イエローの額の鏡から黄金の光がミノタウロスへと伸びた。
注ぎ込まれた波動は、三人が予想もしていなかった変化を牛人間へと与えてしまった。
「ね、ねえ? なんか……おっきくなってってない?」
「う……うん。わたしにも、そう……みえる」
レッドの呆然とした呟きに、ブルーも同じように頷く。
「……はっ。これは、まさか!」
しかし一人、イエローだけは違っていた。
「う うおー!」
ついさっき倒されたことが嘘かと思うほどに雄々しく立ち上がったミノタウロスは、
「力が。力が溢れて来るンモー!」
みるみるその体を巨大化させて行く。
「「えええ!?」」
今や見上げても膝すら見えない大きさになってしまった。
「やっぱり。怪人は、ただでは死なない。まさか、わたしが巨大化係だなんて……!」
喜びとそれと同時に狼狽した声で、イエローは自らしたことに驚愕 困惑している。
「ハハハハハーッ! 大馬鹿どもだンモー! わざわざオレサマを強くしてしまったんだからなぁ!」
上機嫌で高らかに、最早上空と呼んでも過言ではないところから歓喜の声を上げたミノタウロス改め、天網地転士ミノタウロス。
「こ、こここ こんなのどうしろって言うのよっ!」
「これじゃ、もう。太刀打ちできない!」
絶望と動揺を隠せないレッドとブルーの二人。
「マーニさん、ないんですか? 巨大ロボは? こうなったら巨大ロボ戦ですよねっ!」
しかし、困惑狼狽しながらも、テンションが上ずったままのイエロー。
『はい、ありますよ』
「おお、あるんだ!」「おお! あるんですね!」「ええっ? あるの!?」
あまりにもあっさりと告げられた対抗策に、一方はテンションを上げて 一方は驚愕した。
『なければこんな手段はとりませんからね』
なおもサラリと、微笑しているような柔らかな声色である。
「さぁて! 手始めに好き放題やってくれたお前らを、ペーッチャンコに踏みつぶしてやるンモー!」
「えっ!」
「早く、早くしてください!」
「このままじゃ、ロボが出る前にやられちゃいますっ!」
『まもり、今度はあなたの出番です』
阿鼻叫喚の三人とは対照的に、冷静すぎるマーニの声。
「え? あたし? なにすれば?」
危機的状況においても、脳内通信は平常運転。錯乱による難聴を許さず 少女たちに冷静差を引き戻してくれた。
『決戦領域転送。逆鱗に左手で触れながらアバロニック、そのまま更に右手で額の剣に触れてテレポーテーションと発してください。
そうすれば準備の第一段階は完了します』
「何個も段階があるのっ?」
「早くしてっ! 牛さんの足が上がり始めてるっ!」
「う、うんっ、わかったっ!」
慌ててブルーに答えたレッドは、言われた通りの動作を始める。
「決戦領域」
左手で逆鱗に触れながら発し、更にそのまま右手で剣に触れた。
「転送!」
突然ザーっと、周りに大雨が降り出したような、噴水が噴出したようなそんな激しい水音が鳴り出した。
「ブッ! なにンモー?!」
「周りが、キラキラしてる」
「綺麗ですね。こんな時に言う言葉じゃないかもしれませんけど」
「綺麗だね。それはいいんだけど、あたし いつまでこのポーズしてればいいの?」
『あ、ごめんなさいまもり。もう平気です』
ポーズ解除の許可が下りて、ふぇーっと手をダランとするのと同時に緊張のほぐれた息を吐いた。
「あ、水音が小さくなってく」
「転送完了、かな?」
「ですね」
青 赤 黄色とそれぞれ頷いて状況確認。新たな戦場に、三人は緊張感を覚えるのだった。
そして、完全に水音がなくなって広がったその場所に、少女たちは目が点になることになる。