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中編の2。変身! グレイルレンジャー!

「誰もいない遊園地って、怖いよね」

 地上に出て早々、てんまがどちらにともなく呟くように言う。慌ただしく鳴る六つの足音は、裏方側から表側の園内に向かうために駆けているからだ。

 

「そうだね。地下にみんないるって言っても、やっぱり怖いよねぇ」

 まもりの返しに何度も頷くかがみ。

「わたし、お化け屋敷でも、駄目なんですよ。お二人がいるから、今は大丈夫ですけど……」

 

「そうなんだ。しがみつかれる相手が羨ましい」

「まもりちゃん。発現が男の子みたい」

 てんまが苦笑しながら言うと、

「そんなこた、あたしは気にしないのです」

 ときっぱりまもりが返した。

 

「まもりさん。縁の下の力持ちって言ってましたけど、縁の下にいたら、我慢できなくて飛び出してきそうですよね」

 そんな様子を見たかがみが、楽しそうに微笑した。

 

 三人がこんな風に雑談しながら園内を走っているのは、

 誰もいない夜の遊園地でこれから戦わなければならない

 と言う未体験満載の状況に立たされているからだ。

 

 緊張感をどうにかしようとしているだけで、決して余裕だからではない。

 

 静かな夜の遊園地と言う薄気味悪いシチュエーションの、その薄気味悪さを自分たちの声で少しでも緩和したい気持ちもある。

 

 

 ピピピピピピピ ピピピピピピピ

 

 

「うわっ?」「えっ?」「なに?」

 突然鳴った着信音のような電子音に、三人は一路足を止めた。

 

「この、腕の奴からだ。えっと、ここを押してっと」

 腕章のワイングラスのようなマークを押し込むまもり。

 ピっと短く鳴って、電子音が止む。二人もまもりに倣った。

 

『よし、受信成功したね』

 腕章から桜の声がした。成功しました~、と返すまもりに、よしよしと満足そうな桜の声が返って来る。

 

『こちら牛さん追撃組。園内に全員到着、広場に向かって』

「わかりましたー」

 なんとも楽しそうなまもりは、「ところで先輩」と話を続ける。

 

『なにまもりん?』

「うん。うずめちゃんは通話しないのかなーって」

『今うずめちゃん、話すどころじゃないからね』

「そうなんだ」

 

『うん。任務継続中だから、後は広場でね。見えにくいようなら、空に伸びる炎を目印にして』

「あ、はい」

 サラっと出た任務と言う言葉に不意打ちを喰らってしまい、思わず丁寧語になってしまったまもりである。

 

 楽しげなフフフと言う笑い声の後で、通話終了のプツリと言う音が腕章から聞こえた。

 

 

「よし、いこう」

「うん」「はい」

 どこが縁の下の力持ちなんだろう、そう思いながら二人はまもりが走るのに続いた。

 

 

「空に伸びる炎って、なんのことだろうね?」

 返事をした者の、桜の言う物がいったいなんなのか、まもりはわかっていなかった。

 

 それは二人も同様だったが、

「あれじゃ、ないかなぁ?」

 てんまが指さした方向には真っ直ぐ空に伸びる茜色のなにかがある。それは、たしかに空に伸びる炎のように見えた。

 

「よし。あれしか道しるべもないことだしっ」

 言ってまもりは加速。二人も続く。

「あの、もしかしたら。あれ、巨大な人玉の可能性、ないでしょうか?」

 不安そうに、足音に負けそうなぐらいのボリュームで恐る恐る言ったかがみ。

 

「人玉ってまるっこいんでしょ? なら大丈夫だよ」

「そうそう。目印って言ったぐらいだし、距離を考えたらあれがそうだって。心配いらないよかがみちゃん」

 

 二人に心配いらないと勇気をもらって、

「そう……ですか」

 大きく一つ頷くかがみの視線は、

「そう……ですよね」

 茜色のなにかをしっかりと見据えた。その足運びも力強い。

 

 

「わっ、かがみちゃんいきなり前出てどうしたのっ?」

 まもりと、

「いきなり強気」

 てんま、二人に驚かれたかがみ自身が、

「えっ?」

 一番驚いている。

 

 

「よし、到着ー!」

 広場に入った三人は、そこに展開されている状況よりも前に、茜色の正体に目が点になってしまった。

 

「うずめちゃん……だったんだ」

 呆然と呟くまもり。

 

「こないだの手の色。あれ、炎だったの?」

 動きを止めたことで感じるようになった内側からでなく、じんわりとうずめの方から発生している熱に、思わず左腕で前髪を掻き上げて言うてんま。

 

「本格的に、異能だったんですね」

 一度見ていたが、この前とは比較にならない濃度の濃さに、やはり呆然と呟くかがみ。

 

 

「先輩方、合流です」

 そんな声に振り返り三人を確認した兎栖命うずめは、そう言うと茜色を急速にしぼませ、ふぅぅと大きく疲労の息を任務完了とばかりに吐き出した。

 

「オッケー、じゃ みんな引っ込むよ。後は三人に任せよう」

「えっ? 桜先輩、手伝ってくれないんですか?」

 

「変身した後の三人なら大丈夫。あたしたちは邪魔なオブジェにしかならないし。じゃ、後 よろしくー」

 部活の後始末を任せるかのような軽さで言い残し、桜たちはまもりたちが走って来た方向へとゾロゾロ駆けて行き始めてしまう。

 

「あっちょっと?!」

「まってみんなっ!」

「そ、そんな……」

 自分たちをまったく気にせず走り去っていく先達たちに絶望する三人。

 

 だが、

「待てンモー!」

 この状況を作り出した現況の声で絶望が別の方向に移り変わった。

 

「ん? なんだお前たち」

「「「気付かれたっ」」」

「オレサマを虚仮に舌奴等を血祭りにあげる前に、肩慣らしにお前たちで運動するとするかンモー」

 なんの躊躇も遠慮もない。それどころか、目の前の牛は愉しそうですらある。三人は寸分たがわずまったく同じことを思い感じた。

 

「恐怖で動けないか、それじゃ面白くないンモー。変身とか言うのをするまで、待ってやるンモー。そうじゃなきゃ運動にすらなりゃしなそうだンモー」

 悠然と腕組みする牛人間。

 

 そんなことを言われてはいそうですかと行動に移れるほど、三人に胆力は備わっていない。

 

 

 怖い。どうしよう。でも、動かなくっちゃ。おこった神はなにをするかわからない。じゃあひょっとしたら待つって言うのも気まぐれかもしれない。

 

 

 三人の思いが一つになったその瞬間。一つ頷いた少女たちは、拳を握りしめている右腕を徐に肋骨の高さまで上げ めいっぱい左に伸ばした。

 

 手の甲を牛人間に向けていることで、そのブレスレッド グレイルチェンジャーの装飾を見せることになった。

 

 

「ンモ!?」

 なにかに気付いたように声を上げたミノタウロスは、

「来い ヘリアルども!」

 慌ててなにかを呼び寄せる。

 

「「「神杯装甲グレイル」」」

 

 牛人間のしていることなど気に止める余裕のない三人は、腕輪の力を開放するため動き出す。

 

 

 肩幅まで足を開くのと同時に右腕をめいっぱい右へと薙ぐように振るい、

「「「開放展開チェンジ!」」」

 下腹部前に移動した右腕を、拳を開き指をくっつけた形で 今度は天へと振り上げた。

 

 それが完了した直後。三人は、まもりが赤 てんまが青 かがみが黄色の光に包まれた。

 

 

 光が収まると、そこには。

 

 青い上下に、赤いフリルが肩 腕 ロングスカートと多数についているゴスロリファッション。

 胸の部分には髑髏を逆さにした聖杯、そこから炎が吹きあがっているデザイン。靴は赤い無地のスニーカー。

 

 グローブは赤。顔は青い仮面に赤く丸い目 額にチェンジャーの装飾である勾玉。左腰には大型の銃型の物をローライドに装備した、そんな姿になったてんま。

 

「銃王」

 チェンジャーと胸の髑髏を隠し、

「聖圧」

 自分の体で十字架を作り、

 

「グレイル」

 左腰の銃器 ヤキウチガンを両手で抜き放ち、そのまま正面に構える。

「ブルー!」

 声と同時にヤキウチガンの銃口内に、紅の光が充填されて行き、

 名乗り終えたところでてんま ーーグレイルブルーは両手でトリガーを引いた。

 

 

 引かれたトリガーを受けて、紅の光は、一条の線となって敵陣へと飛翔し、一人の黒子 ヘリアルに命中したのを受けて爆発した。

 その爆発によって、十ほどの先兵たちが姿を消した。

 

「なにンモ!?」

 驚愕するミノタウロスを無視し、彼女たちの名乗りは続く。

 

 

 次の名乗りは並ぶ三人の真ん中、黄色い戦士からだった。

 

 黄色い無地の心臓の部分に、赤い四角い枠で囲まれた土でできたような質感の聖杯。両肩には赤茶色の丸いデザイン。

 下はスカートのようになっている黄色の袴、そこから見える足は黒の網タイツ。

 

 靴は馬の蹄鉄のような分厚い鉄製の覆いのついた茶色い靴、グローブも茶色い。

 顔は黄色い仮面に茶色の横楕円の目 額にチェンジャーの装飾である鏡。

 

 手には巨大な黒い錫杖を持った、そんな姿のかがみ。

 

「祈王 太 平」

 今の言葉の間で、両手で抱えるように持った 巨大な錫杖イノリロッドで虚空に山の字を描いた。

 

 回避を試みようと体を揺らすヘリアルたちだったが、どんなコースで飛んで来るのかわからない攻撃では対処の使用がない、そう判断したのか動きを止める。

 

「グレイル イエロー」

 今ので大の字を同じところに描いた。名乗り終えたところで錫杖の先端に黄色い光が生まれた。

 

 それを右下から感じる微弱な熱で理解したかがみ ーーグレイルイエローは、イノリロッドを頭上へ振り上げた。

 

 イノリロッドに蓄積されていた光は、一度夜空に消えた。

 この場の全員が空を見上げた。それを待っていたかのように、消えた光が雨のように敵陣へ降り注ぐ。

 

 奇襲の光撃を受けて、またヘリアルたちが虚空へと還る。

 

 

「ぐ、なんて奴等だンモー」

 頭を両手で覆い光撃の頭への被弾はさけたものの、チリチリと焼けつくような痛みに、ミノタウロスは顔をしかめ悔しそうに吐き捨てた。

 

 しかし 名乗りはまだ終わっていない。

 並ぶ三人の一番左。まもり いや、レッドが残っているのである。

 

 

 胸に聖杯が装飾なくデザインされた赤い鎧、肩パットには青い玉が彫りこまれている。喉のところに一枚の逆立った緑鱗。

 

 足は青いブーツ、手袋も青く 二本の角があしらわれた緑色の手甲が装備されている。装甲のない部分は黒くジャージのようになっている。

 

 仮面は赤く、釣りあがった目のようになっている目は青く、額にはチェンジャーの装飾である剣が刃を上にした形であしらわれている。

 

「竜王」

 左手で逆立った鱗 逆鱗に触れ、

「一閃」

 右手で額の装飾に触れ、

 

「グレイル」

 背中に背負った剣、フェンサーソードを左手で抜き放ち、

「レッド!」

 鍔に左を向いた竜の顔がデザインされたその剣の柄を両手で握る。

 

 透き通るような青い剣身から、剣身をそのまま光にしたようなエネルギーが溢れ出す。

 

 竜の顔を敵に向け、フェンサーソードを大上段へ。そして右足を一歩踏み込むほどの力で振り下ろした。

 

 迸った刃型のエネルギーは、黒子達をまた数人排除した。呼び出されていたヘリアルたちは、三人の名乗りだけで既に半壊。

 

 

「おのれンモー!」

 戦わずしての戦力半減は、ミノタウロスからすれば予想しえない大損害である。

 

「お前たち。いったい、何者だンモー!」

 憎々し気に睨み付けられていることにも構えない三人は、意図せずミノタウロスに答える形で言葉を発することになった。

 

 

 

「「ようひかりで明日を守る!」」

 ブルーとレッドが同時に言って、

「「「聖王戦隊!」」」

 戦士となった少女たちは、

「「「グレイルレンジャー!」」」

 力強く得物を天へと掲げて、開放の儀式を完了した。

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