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中編の1。見知らぬトコロの絶対事情。

「と、言うわけなの」

 一番奥の部屋。マーニが機械類を見ていた場所で、一通りの説明を終えた桜が、まもりたちに説明の終わりを伝えた。

 

「つまり、あたしたちは その神様同士の戦いに巻き込まれた。ってこと?」

 首をかしげながら問うまもりに、そう とコクリ桜は頷いた。

 

「先輩とうずめちゃんは、その えーっとなんだっけ? そのシュレディンガーがどうとか言うのに協力してる家系の人だから、手が光ったりしてた。ってことですか?」

 てんまの確認には、兎栖命がそうですと頷く。

 

「でも、そんな力があっても その、じんぎって言うののパワーを受けてないから、あの牛みたいなのは倒せない。

だから、じんぎが選んだわたしたちが必要。ですね」

 かがみの考察には、マーニがはいと首肯した。

 マーニ以外にも、この部屋の中には数名の人がいるが、彼等はまもりたちの様子を気にしながら口を挟まないでいる。

 

「それで、あの牛さんたち ラグナなんとかを止めないと、人類が滅ぼされるから、貴方たちはそれとずっとずっと昔から戦ってる……なんだか、マンガみたいな話だね」

 てんまのまとめに、神杯じんぎに選ばれた少女たちは、うんうんと何度も頷いて同意している。

 

「あたしもね、最初聞いた時は苦笑いだったよ。でもさ、こんな施設とか、自分の手が光に包まれたりとか、人っぽいけどちょっと違うシュレディンガードの人達見たら、信じるしかなくなっちゃってね」

 桜の言葉に兎栖命が頷く。

 

「人と?」

「ちょっと違うんですか?」

「皆さん、人にしか見えませんけど」

 まもり てんま かがみの順番で、割り振られたように発された言葉にはいと頷き、

 

「わたしは元ラグナレイドの一因ですし、こちらの方々はそれぞれが神々です」

 マーニは自分と周りにいる人々を、ぐるりと腕で示しながらあっさりと言ってのけた。

 三人から「えええ?!」と言う驚愕の声が上がるのはむりからぬことだろう。

 

「ってわけだよ三人とも。それに、儀式をしたのはあたしとうずめちゃんなんだ」

「え?」

 まもりの驚きには動かず、桜は言葉を続ける。

 

「その儀式は滞りなく成功、示されたのが三人だったの。まもりんとてんまちゃんの顔が見えた時は、うずめちゃんと顔見合わせちゃった。

それに、自分たちがしたことの結果でもなきゃ、あたしたちだって納得しなかったよ」

 はぁ、と肩を落とす桜。普段見ないシリアスな様子に、まもりとてんまは その真剣差と、このことを告げた重みを肌で理解した。

 

 

「あの、いいかな?」

 カチャカチャ、そんな音を伴ってマーニが遠慮がちに声をかけ、椅子を回転させてまもりたちに向く。

「なんですか?」

 雰囲気の硬さに、まもりが丁寧語で応じた。

 

「これ、ね。神杯の力を引き出すための……その、変身アイテムなんだけど。……いる?」

 赤 青 黄色。三つの異なる色とデザインのブレスレッドを見せながら、マーニは控えめに尋ねた。

 マーニやシュレディンガードの面々は、桜と兎栖命うずめがまもり てんまと仲がいい琴を知っている。

 

 だから、渡さなければならない物であっても、むりやりと言う思いにはならないのだ。

 

 

「変身」

「アイテム……」

 まもりとかがみは、その響きにピクリと眉を動かした。

 

 食いついた、そう判断できるじわっとした声色を聞いて、てんまは目の前のシルクハットの女の子が興味を引くように、変身アイテムと言う言葉を選んだ そう直観した。

 

「あったばっかりのまもりちゃんとかがみちゃんの趣向を理解したなんて。この子、すごい」

 もごもごと、自分でも聞こえるか怪しいボリュームで、てんまはマーニを見ながら呟いた。

 

「人類のために、あたしたちが力になれる、か」

 あ、これ、絶対喜々として受け取る、そうてんまは心の中で頭を抱えた。

 顔を伏せているまもりが否定の意味を持っていないことを、今のひとことで確信したからだ。

 

 

 カチャリ。

 

 

「トラブルダイバー、浅野まもり。そのあだなにたがわず、謹んで お受けいたしますっ」

 ガバっと上がったまもりの顔は、喜色満面であった。

 

「流石トラブルダイバー。誰かのためなら即時即決、首どころか全身喜んでマグマに飛び込むバカ無謀。まったく、今日一日だけで 何回溜息ついたことやら」

 言葉に違わぬ呆れ顔で、てんまは心の底から疲れた息をまた吐いた。

 

「変身、アイテム……」

 熱に浮かされたように呟きながら、スローモーションのような遅さで手を伸ばすかがみ。

 

 その腕の動きが、少し進んでは僅かに戻っているのを見て取ったてんまは、心の中で同意に頷く。

 

 

「すぅ……はぁ……」

 腕を止めて思いっきり息を吸ったかがみは、

「っ!」

 きつく目を閉じ、覚悟を決めたようにブレスレッドを受け取った。

 

「あなたは? どうする? もらっとく?」

 複雑な表情で問いかけて来るシルクハットの女の子。目を見て少し考えてから、てんまはしぶしぶ 恐る恐るに残った青いブレスレッドをカチャリと受け取った。

 

「結局もらわなくっちゃいけないんだったら、二人といっしょにもらっておきます」

 てんまの決意のこもった小さな頷きに、マーニは安堵した息を一つついた。

 

「これからよろしくね、三人とも」

 マーニに頭を下げられて、

「「「よ……よろしく、おねがいします」」」

 ニュアンスはそれぞれ違うものの、言葉の間も含めてまったく同じタイミングで会釈を返す三人なのであった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「やだ」

「ちょっと、まもりちゃんっ?」

「ありえないです。その色を託されておいて、そのリアクションはっ」

「そうだよ。詳しく知らないわたしだって、その色がリーダーになることぐらい知ってるもん」

 

「それはあくまで特撮の話。あたしは引っ張るよりも引っ張られたいの。縁の下の力持ちなの。後ろでいいの。

ほら、ちょうどあたしたちのブレスレッドって信号機みたいだし。赤は一番後ろでちょうどいいんだよ、うん」

 

 自己完結したまもりに、

「それはないと思うよ「それはないです」」

 二人は同時にそう抗議した。

 

 

 あれから数日。ブレスレッドを受け取ってからと言うもの、放課後はまもりが引っ張って行く形で、対ラグナレイド組織、シュレディンガードの秘密基地に訪れてはいろいろとレクチャーを受けていた。

 

 そうしていよいよ、ブレスレッドの力を引き出す 変身口座を受けた後、最初に訪れた部屋である、指令室に三人はいる。

 

 

「姦しいですねぇ」

 騒がしい様子を横目に、マーニは朗らかにモニターを見ながら言う。

 

 月曜以後も、日に一度 確実にミノタウロスはピザを強奪しては歓喜の一声を上げており、なにがしたいのかわからないのと 常に後手に回らなければならず、毎度間に合わない現状にシュレディンガードはやきもきしていた。

 

 

「三人の立ち位置、言い合いになるほどのことか?」

 一方ヤマトは、疲れた吐息交じりに、左手で自分の額を抑えながら言った。

 

「戦隊ヒーローにおいて、色と立ち位置の関係は重要なんですっ」

 レクチャーを受ける過程で、ある程度親しくなっているまもりたちとヤマトだが、かがみがこれほどの権幕を見せたことはこれまでなく、ヤマトはただただ目を丸くするしかない。

 

「なににおいても赤は先頭の。リーダーじゃないとしまらないんです。

それをまもりさんが拒否するんですよっ。同じ特撮ヒーロー好きとして嘆かわしいんですよっ」

 

 ギリリと右の拳を握り込むかがみ。普段目立たず大人しいと推測しているヤマトにとって、

 豹変とも言うべきこの態度は、最早「お、おう……」とソロリと後ずさる他なかった。

 

「かがみさんが、こんなに情熱的になるなんて。人間って、ほんと 面白いですね」

 マーニはなおも朗らかな調子である。他の、人にしか見えない神々もクスクスと柔らかに笑っている。

 

 

 ジリリリリリリ!

 

 

 突如、けたたましい音が指令室にこだました。その音は目覚まし時計のようであり、電話のベルのようでもある。

 その音には、まもりたちのみならず指令室にいる全員がビクリと身を震わせた。

 

「なに? このすごい音っ」

「み、みみがいたい……」

 耳をふさいだまもりとてんま、そして音の出所でどころをキョロキョロと探すかがみ。

 

 ガチャリ。マーニが手を伸ばし取り上げたそれは、桜と兎栖命に連絡をしたあの電話のような物で、それによってけたたましい音も止んだ。

 

「もしもし?」

「「「電話?」」」

 

『もしもし、こちら桜アンド兎栖命うずめ、牛さん発見ー! 現在ニャンゴッズたちと挟み込む布陣で追跡中っ!』

 

「ほんと? 状況は?!」

『猫神様たちの陽動も手伝って、アマテランドに進行中。三人に出撃準備をおねがいして。戦ってもらうから』

 

「「「えええ!?」」」

「わかったわ。ティターにゃが赤くて助かったわね」

 

『まったくもって。じゃ、切るね』

「ええ、気を付けて戻って来て」

『りょーっかい~』

 桜の返事の後で、プツリと音がした。それを確認したマーニが受話器を置く。

 

 

「そろそろ閉演時間だから、ちょうどいいわね。みんなが付くまでにはお客さんは捌けてるはず」

「あの、戦うって……ほんとですか?」

 かがみが問いかける。

「はい。あなたたちの力でなければエレメルは倒せない。教わったはずですよね?」

 

「それは……そうですけど」

 マーニの答えに言い澱むかがみ。自分の右腕に付けているブレスレッド ーーグレイルチェンジャーを見つめて、神妙に一つ息を吐いた。

 

「立ち位置決まってないのになぁ」

「そこじゃないだろ、明らかに」

 まもりの呟きに、ヤマトはお手上げのポーズで突っ込んだ。

 

「最厄まもりさんが言う、てんまさん わたし まもりさんの順でいいですから、外に出ておきましょう」

「そうだね。って、わたしがリーダーなの?!」

 

「うん、それでいこう」

「ええ!?」

 驚愕するてんまをスルーし、一人だけノリノリのまもりである。

 

 

「一つ、忠告しておきます」

 さきほどまでと違って、真剣な調子でマーニが声をかける。

 それも、椅子をクルリ回転させて、まもりたちの方に顔を向けて。

 

「なに? 改まっちゃって?」

 不思議そうに尋ねるまもりに、一つ頷いてその内容を説明するマーニ。

 

「くれぐれも、相手の前で変身してください。神とは形式を重んじる生き物です。特にわたしたちと違って、人間に触れていない神々ならなおのこと。

いかった神は、なにをしでかすかわかったものではありませんから」

 

 三人それぞれの左腕に、桜と兎栖命がしていたのと同じ、通信機能を持つ腕章 ーーブレスレシーバーを付けながら、

 マーニは遠い目をして呆れたように言う。

 

 それに、とヤマトが補足するため口を開いた。

 

 

「戦隊物のお約束、背景の爆発。シュレディンガードの戦士でもそれは発生するんだ。

神杯じんぎの力を変身者に合わせて調節するための、余剰パワーの放出って形でな」

「なるほど、それはなんとも画期的理由付け」

 感心するまもりに、更にヤマトは続けた。

 

「その力を、後ろに捨てるのは……もったいなくないか?」

 含みを持たせて言うヤマトに、変身者たちは興味ありげにヤマトの瞳を見つめる。

 

「名乗る時、各々の武器にその力を集めるイメージをして、その武器を相手に振るうんだ。そうすりゃきっと、雑魚のヘリアルどもなら数を減らせるぜ」

「つまりは、エネルギー攻撃を名乗ると同時にぶちかましてやれ、ってことです」

 マーニが楽しそうに小さく笑う。三人は、おおと感心してどよめいた。

 

 

「自分の装備と名乗り口上。覚えてるか?」

 ヤマトに問われた三人は、一斉に頷くと同時に肯定の返事をする。

「なら、問題ありませんね。それでは三人とも。健闘を祈ります」

 

 

 

 心配を含んだ柔らかな声色に、三人は頷くと、指令室から走り出て行った。

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