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前編。儀式と少女と怪人と。フラグメント1。

なんちゃって戦隊物です。その手の作品がお好きな方、詳しい方。

どうか、怒りを鎮めてくだされ。どうか。どうか!

 神。世界に無数に存在する、不確かで確かな知的生命体。

 

 連綿と続く世界の歴史の裏では、常に二派の神々が戦い続けていた。

 

 一派。神の造物でありながら、主に対し犯意を繰り返し続ける人類を殲滅せんとするラグナレイド。

 

 一派。人類を見守るべき者として必要以上に干渉せず、しかしラグナレイドの暴虐を見過ごせず、

 一握りの人間に力を与え共に敵を退けて来た、かつては無辜防むこもりと自身を称したシュレディンガード。

 

 最早神々自身も遊戯と錯覚するほどに脈々だらだらと続く戦い。その火蓋は遊戯あそびのように、突然に切り落とされるのだった。

 

 

 けたたましい警報が鳴り響く。無数の蛍光灯に照らされた室内、様々な機械類が並ぶ様はさながら秘密基地の様相だ。

 

 その中、大きなモニターの一点が赤く点滅し、その点滅と同じタイミングで警報が鳴り続けている。

 

「なにごとです!」

 鋭く、しかし澄んだ女性の声。姿は見えず声だけが反響した。

 

 その女声に、慌てた様子で、モニターと睨み合っている、シルクハットをかぶった金髪ショートカットの少女が答える。

 

「お義姉ねえ様、|神力探知機(GPS)に反応です!」

 その報告に驚愕する女声。

「なんですって?! 常ならば、『彼等』が行動するには後数年……」

 そこまで口にして、女声は言葉を切って。

 

「そんなことより。クラスと数は?」

 余計な考えを思考の隅に追いやったか、状況を確認する女声。

 

「クラスエレメル、パターンG、数は1です」

 少女は淡々と、しかし緊張した様子で得られている情報を伝達。

 

「ヘリアルたちは対応が取れないようなら送り込む。いつもと同じですね」

「ええ。お義姉様、エレメルが出現したとなれば」

 少女は冷静に状況を先へと進める。

 

「そうですね。マーニ、選定の儀を。彼女たちは何処いずこです?」

「あの子たちなら、今はお仕事中ですね。呼び出しましょうか?」

 

「ええ、お願いするわ」

 義姉あねの答えに一つ頷くと、少女マーニは右手を伸ばし、掌サイズの物を掴み持ち上げる。その形はすっかり珍しくなった固定電話の受話器のようだった。

 

「今日が土曜日で助かった~」

 そうひとりごちて、マーニは受話器のボタンを一つ押して通話口に口を寄せた。

 

 

「ん? あ、本部したからだ」

 専用の着信音を聴いて、右腕に付けている腕章の表示を見た少女が、ぽつりと呟く。

 

 腕章を外して耳の近くまで持って行ってから、少女は通話開始ボタンを押す。

 

「もしもし?」

 ちょうど目に入った、同じタイミングで動きを止めた小柄な少女と、少し距離を縮める。

 

『サクラ、ウズメ。「オシゴト」してもらうことになったんだけど、下りて来られる?』

 声はマーニの物。その言葉に、同時に腕章を耳に当てた二人の少女は顔を見合わせる。

 

「「了解」」

 短く答えると腕章を付け直し、仕事をしている他のスタッフたちに後を任せ、二人はその場を後にした。

 

 

 ゆらゆらと蝋燭の炎が動く。

 星を描く配置で置かれた五つの火、それ全てを動かす理由ははたしてただの空気だろうか。

 

 コトリ。

 

 なにか、重みのある物が星の中心で音を立てる。続きトクトクとなにかに注ぎ込まれる液体は、火の中心にありながらも色を見せず、その音程を上げて行く。

 

 静かに、しかし独特に香るそれは、意識を揺らがす般若の湯。

 

 またコトリと音がして。そこで初めて「気配」が音を出す。

 

 

「うずめちゃん。練習通りやれる?」

 問いかけたのは茶髪ショートの少女、五剣桜いつるぎさくら。はいと答えるその声は、聞くまでもなく緊張している。

 

 幼さの残る声の主は、白いシュシュで纏めたツインテールの黒髪、前髪で目が半分隠れた少女。岩戸兎栖命いわとうずめ

 

「じゃ。いくよ」

 一呼吸置いてから静かに言う桜。そこには兎栖命を気遣いながらも、勇気付けるような柔らかさがあった。

 

「うん」

 和らいだ兎栖命の声に、桜は小さく頷く。

 

 

 そして静寂。二人を照らす蝋燭の火の燃える音が、僅かにするだけの空間。

 それも一呼吸の間。

 

 二人の少女の頷きを合図にして。

 ーー祝詞うたが、始まった。

 

 

「「おにに遭うてはおにを斬り」」

 衣擦れと共に動く影は、まるで舞うように。液体の注ぎ込まれた物を挟んで左右で向かい合って、虚空を手で切る動きをして。

 

「「宿敵かみに遭うてはその野望じゃを払う」」

 動きを止めず続く少女二人によるそれは、まるでわらべ歌。

 

「「天網恢恢その糸なる者。きょうたる神酒かみじゅ道標みちしるべ」」

 あるいは悲しきてまり歌。

 

「翳す定めは天水護剣てんすいごけん

 衣擦れは止み。桜の声の後、彼女の立つ右側から、無色の液体を注いだ場所に、なにかがチャポンと放られた。

 

 光り輝くその入れ物は、中に一人の少女を映し出す。光に照らされた入れ物外いれものそとの少女二人は、互いに顔を見合わせた。

 

「込める定めは空奔豪火くうほんごうか

 今度は兎栖命が左から、同じことをする。

 

 再び水中に映った先ほどとは別の顔。またも顔を見合わせる二人。

 

 

「「映す定めは大衛陸斗だいえいりくと」」

 二人同時に声を出し、放り込まれるそのなにか。三度目映ったまた別の顔に、二人の少女は頷いた。

 

「「神杯じんぎの内より出でたる光。無辜防むこもりたらしむ力をここに示さん」」

 頭上 ちょうど二人の間ーー神杯グレイルの上で、両手を重ねる二人の少女。

 

 その打ち合った柏手に似た音に答えるように、神杯グレイルに注がれている神酒しんじゅが輝き始め、

 

 それが赤 青 黄色の光に、輝きをたもったままで変化。

 

 その色が混ざり合い溶け合いながら広がり、部屋全てを虹色に塗り潰した。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「いってきまーっす」

 ガチャリと玄関扉を開けて、少女が元気よく家の中へと挨拶を放り込んだ。

「さて、と」

 少女は、徐に左手に持っていた物を口にくわえ、走り出した。

 

「いふぃふふふぃーふぁー(息苦しいなぁ)」

 少女がくわえているのは食パンである。

 

 

 ここ、|某県(それがしけん。こう見えても立派に県名である)の中央都市であるナカノハラのみならず、全国の少女たちの間でにわかにブームが起きていた。

 

 それは、パンを咥えて走りながら登校するブーム。そうすることで素敵な出会いがあると言うことらしい。

 ラブコメの王道から外れて久しいシチュエーションだが、むしろ現代っ娘たちは一周して新しく映るようである。

 

 しかしこの少女、実際やってみて パンを口いっぱいに頬張りながら走るのは、かなり息苦しいことを理解し咀嚼を始めた。

 

「ん、もう。パンのカスが制服にくっつくわ口ん中パサパサするわ、いいことないじゃないっ!」

 オリーブ色の制服をはたきながら、事実は二次元には届かじと悟りの胸中。

 

 前側を勢いよく叩いたので、二年生の証の白いリボンが型崩れしてないか確かめながら、それでも走るのを止めない。

 

 

『おうジョーチャン。ゴメンナサイで済んだら警察さついらねえって言葉、知ってるよなぁ? まあそのゴメンナサイすらできちゃいねえが』

 不穏な声が少し先から聞こえた。

 

 すると、

「こらー!」

 なにも考えてないようにしか見えない様子で、脊髄反射に走る速度を上げた少女。

 

「なにやってんのよ朝っぱらから!」

 少女の猛烈なアピールに気付いたらしく、けだるそうに制服を着崩した、いかにも柄の悪そうな男子学生が胡乱に少女を睨みつける。

 

「って、どっちもうちの生徒じゃないっ! 余計に許せんわね。そんな古き良き不良行為は!」

 

「やかましい! こいつがアホ丸出しでパンくわえながら走ってたせいで、俺たちゃ派手に地面に背中ぶつけて大変痛かったんだ。それを謝ってもらおうってんだ。なにがおかしい?」

 

「そうなんだ」

 少女が状況確認のため不良生徒と思しき男子二人と、表情が完全に固まってしまっている黒髪ストレートの少女を見る。

 

 

「……」

 その黒く美しい長い髪に見とれてしまった少女。

「っじゃなくてじゃなくてっ!」

 すごい勢いでかぶりを振って本来の目的に意識を戻す。

 

 不良たちは、突然気持ち悪くなりそうなほど激しく首を左右に振り始めた少女の奇行に固まっている。

 

「なるほど。たしかに、アンタたち二人の言うことはその通りみたいね」

 地面に殆ど食べられずに残ったままの食パンが一枚。もったいないなぁ、とそれを溜息交じりに見つめる。

 

「ただ。今その子、なにか言おうとしてるよね?」

 かすかに聞こえている、あー とか うー とか言う声を、少女は耳敏く聞き取っていた。

 

「知らねえな、そんなこた。言い逃れしようとしてんだろうよ?」

 

 

「わざと。ひっくりかえってました。しかも、思いっきり背中を地面に叩きつけて」

 口をパクパクさせながら、なんとか必死にか細い声でそれを伝えた少女。

 

 思わずそれに「あっこらてめえっ!」と反応してしまった不良生徒の片方。

 

 

「ふぅん」

「なんだよお前? 俺達の言葉は疑って、そっちの奴の言葉はそのまま信じるのか?」

「そうだぞ、男女差別はよくねえんじゃねえか?」

 

「そっちこそ……」

 茶髪をポニーテールに纏めた方の少女の顔が、憤りを帯びた。

 

 

「弱い者いじめしかやれることがないのかアンタたちは!」

 言葉の直後、風を切る太い音と同時に鈍い音がした。

 

「あぎゃーっ!」

 同時に鳴ったことでシュドッ! と言う謎の音になった一撃。まったくの不意打ちだったそれを受けたよく喋っていた不良が、そんな声を上げてもんどりうった。

 

「なにぃっ?!」

「それにっ!」

「ほぎゃっ!」

 もう一人の、便乗してしか言葉を発していなかった方も、驚いた声で吐き出した息を吸う暇もなく、変な声でもんどりうった。

 

「ふぅ。まったく」

 パンパンと手の埃 もとい、まだついてるような気がしているパンのカスをはたき落とすしぐさをした少女。

 

「乙女のささやかな恋への期待をアホとは。そんなんだから不良に身をやつすのよ」

 どうやら返す体で二人目を蹴倒したようである。

 

「ブームに乗ってみたはいいけど、出会ったのは不良と女の子、かー。眉唾だなー」

 

「ぐ。ち、ちくしょう……!」

 最初に倒した方が、起き上がり 茶髪の方を睨みつける。

 

「なに? まだやる?」

 挑発的に睨み返す少女。

 

「お……覚えてろー!」

 いったいいつの三下モブキャラだと突っ込まれそうな台詞を吐いて、あっさりと撤退する不良。

 

 それに二人目が四足歩行並みに低い体勢で、

「ま、まってくださいよーっ!」

 と上ずった叫び声を上げながら、最初の奴を追って逃げて行った。

 

 

 

 そんな不良二人を見送りながら、

「また、つまらぬ者を蹴ってしまった」

 とドヤ顔ドヤ声で言い放つ茶髪少女であった。

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