ケンカ
「うわ、皆寝ちゃってるじゃん」
キヨセは小声でそういった。
「僕ら中学生だから、別に専門があるわけじゃないんですが、なんか石鹸の話して来いって言われたから、来ました。」
「『セッケン』ですね。さっきの話だと、兵士達も普段からセッケンで体や服を洗うようにしておくと、病気になりにくいと言っていた。」
キヨセは「ふーん」と言って少し物思いに耽った。
「そうかもしれないですね。まあいいや、とりあえず、僕は理科得意なんですが、流石に石鹸の作り方は知らないので先生に聞いてから来ました。なんか根本的には油に木の灰を混ぜると作れるそうです。」
「それだけ?」
キヨセは頷いた。
「難しい言い方でいうと油脂にアルカリを反応させれば良いそうなので。アルカリは『灰』って意味だから結局おなじ意味ですね。上手くできると水に溶けて泡が出るんですよ。」
「灰を混ぜただけで油が水に溶ける?」
「熱もかけないといけないかも。確か先生そういってた。あと石灰って分かります?石灰でもいけるんですよ。」
ズエラは半信半疑だが、外の衛兵に声を掛けると、材料を揃えた。衛兵が一人加わって、この世界で初めてのセッケン作りが始まる。
「当然、僕もやったことは無いので。」
それでもキヨセは化学のセンスがあった。実体では無いため、操作は全て衛兵やズエラ、起きてきた呪い師がやったが、セッケンっぽい質感にたどり着く気配が見えた。
「あー、時間切れか!」
キヨセは悔しそうに消えていった。作業に駆り出された衛兵は道具一式を部屋から運び出しながらも手ごたえを感じていた。多分この粘り気が『セッケン』になるのだろうと。