兵站って難しいよね
「どうも、スノハラです。ミリオタです。」
スノハラはヒロポン3世が事の経緯をズエラに話しているさ中に現れた。
「ミリ…オタ…」
スノハラは表情を変えずに。
「軍事オタクです。軍隊が好きなんです。私から色々話すよりもこの世界の軍隊の話聞きたいです。」
と言った。国王に促されてズエラが話を始めるとスノハラは時折簡単な質問をはさみながらもじっくり聞いている。ある程度聞き終えると、今度は自分から話し始めた。
「一応我々の世界の軍隊がどうなっているかの話をさせていただくと、まず、空を飛びます。そして船が海面の下を泳ぎます。山や谷を越えて火の矢の様な物が飛んで、敵の町を一瞬で焼き尽くします。」
「すごい!そんな事ができたら無敵だ!」
スノハラはさらりと
「ムリですね。」
と言った。一同しょんぼりしている。
「多分、皆さんが生きている間は無理であと1000年ぐらいかかるでしょう。でも、皆さんでも作れる強力な兵器は教えられますよ。」
スノハラはバリスタとカタパルトの仕組みを説明した。
「すごい!ヒロポン3世陛下!これがあったらわが国は世界の覇権を握れますよ!!」
「やめたほうが良いでしょう。」
スノハラは再び気勢を削いだ。
「お主はいちいちケチをつけおって!」
ズエラが憤るのをペーガと国王がなだめる。
「スノハラ殿、余はあまり戦を好まないのだが、ここまで強力な兵器を持ってしてもまだ、足りないものがあると申すのか?」
スノハラは頷いた。
「兵站論が足りないんです。」
「ヘイタンロン?何の武器だ?」
スノハラは首をひねりながら表現を考えている。
「多分、今も昔も最強の切り札なんだよなぁ……」
ズエラはスノハラの喋り方が苦手なようでイライラしている。
「いや、ちゃんと話します。兵站っていうのは一言で説明しにくいんですが、計画的な補給と支援の道筋なんです。」
「はあ?そんなことは言われなくてもやっておるぞ?」
スノハラは勤めて丁寧に話している。それがズエラにも伝わったようで、ズエラも多少表情を軟化させた。
「私たちの世界でも、長い間、軍人は皆『自分達はちゃんとやってる』って考えていたんですよ。ところがそれが本当に『ちゃんとやってる』とどれぐらい凄いのか最近やっと分かってきたんです。ここ200年ぐらいかな?まず、前線で兵士が骨折したとしますね?そうしたらまず、前線の真後ろにある病院が治療を行ないます。」
「前線の真後ろに病院!?」
スノハラは頷いた。
「はい、船が丸ごと病院になっています。当然前線でも応急処置はしますが、そこできちんと治療してから本国に送り返すか、その場で治療を続けるか選びます。私たちの世界では殆どの骨折は治療すれば治るので…骨折以外の怪我をした兵士でも上手くすると10人中8人ぐらいは半年せずに前線に戻ってきますよ。」
「10人中8人!!」
スノハラはにやりと笑った。
「怪我をして家に帰ってしまうはずの兵士がベテランになって戻ってくるわけです。」
ズエラは視線を彷徨わせながらその場面を思い浮かべる。たくさんの顔が脳裏をよぎる。
「そして、前線の兵士達は基本的には少し下がったところにキャンプがあるので、そこの兵士と入れ替わりながら戦います。全て順調に行けばですが、基本的にはそうです。キャンプには酒場も床屋も飲食店も揃っています。休日にはスポーツを楽しむ事もあるんです。」
ズエラが眉をひそめた。
「そんな不真面目でいいのか?」
「敵の前線に食べきれないほどの食料と酒場と床屋があったらどう思いますか?それを自分の兵士が見たら?食料や床屋を運ぶ余裕があるってことは矢はどうでしょう?当然たくさんありますよね?そして、傷を負わせた敵があっという間に帰ってくる。新兵ではない経験を積んだベテランが帰ってくるんです。敵は前線を維持したままこちらの様子を窺っています。こちらの兵士は疲れ果て、粗末な食べ物に腹を下す兵士が続出します。雨が降ったらどうでしょう?雪が降ったら?」
ズエラはうな垂れた。
「心が折れてしまうわ……」
スノハラはなぜかもみ手をしながらズエラに語りかける。
「敵はいつでもたくさんの物資を運ぶ準備が整っています。雪が降ったらすぐに暖かい外套と毛布が本国から届くんですよ。彼らは毎日、何を食べようか迷っています。ジューシーな鶏肉を食べようか?たまには魚もいいな?そんなキャンプが前線にあったら、国の若者はどうします?」
ズエラは惨めな顔をしている。
「志願する…」
スノハラは勝ち誇った顔をしている。
「しますよね?イキのいい若者がどんどん志願して、軍の責任者は体格が良い人間だけを選び抜いて訓練するわけです。どっちの国になりたいですか?冷たい雨に凍える兵士に湿気てかび臭いパンだけを渡して『根性を出せ』と言う国と、そうじゃない国と?」
ズエラはもう答えない。
「軍隊は戦う以上にモノを運ぶ組織です。物を運ぶ方法を改良し続けることです。あとは、何を運ぶかです、兵士用に保存ができる一食分の食事を何種類も開発して備蓄するんです。あとは、兵士は清潔にしておくことです。」
スノハラはそういいながら消えた。次に出てきた保健委員のミシマは「私スノハラきらーい」と言いながら出てきた。




