ヤマシタは100数えるのに2分ぐらいかける
イミスタンの王宮内に不穏な気配を察知した者がいた。イミスタン軍の女将軍ズエラだ。
「衛兵、なんだ夜中に騒がしい。」
衛兵はズエラに睨まれて縮み上がりながら答える。
「ペーガ様が陛下の部屋にいったっきり帰ってこられず……中ではドタバタ音がするし…」
「ドタバタ…音?」
ズエラは王の執務室に入るとそこでは謎の踊りを踊る一同がいた。
「腕を大きく上げて!背伸びの運動!」
3年1組体育委員のヤマシタだ。
「おお!ズエラいいところにきた!お前も異界の知恵を吸収しろ!」
ペーガも必死になって踊っている。
「こうやって全身の筋肉を満遍なく使うんです。健康になりますよ。」
ヤマシタは息一つ乱れない。ズエラも数々の兵士を見てきたが、この運動量で息が乱れないのはよほど強靭な肉体をしているということだ。但し、ヤマシタは実体はここには無い。
「じゃあ次は体幹を鍛えるプランクをやってみましょう!」
呆気にとられてズエラが見ている目の前でイミスタン国王ヒロポン3世が床に這いつくばった。
「ズエラ、お前もやるのだ!」
ズエラはクーデターを狙っている野心家ではあるが、国王が地面に伏しているところで立っていることはさすがにできない。言われるままに姿勢を作る。
「はい、ではこの状態からつま先を立てて…かかとから肩まで一直線。」
「なんだ、そんな事か。」
ズエラが思わず呟いたが、王もペーガも書記も無言で姿勢を作っている。
「このままキープ!それでは100数えますよー!」
ヤマシタがカウントしていく。
「……!!」
ズエラの表情が変わった。横を見ると王も必死で耐えている。そして、異界から召還されたヤマシタは涼しい顔で数を数えている。ズエラは文句の一つも言おうかと思っていたが、もはや口を開くと姿勢が一気に崩れそうで、全身の古傷と骨と節がきしむ。
「…60…61…」
ズエラは額から大粒の汗を滴らせながらヤマシタの顔をチラチラ見る。ゆっくり数えるあの少年が憎らしくて仕方が無いのだ。
「…70…71…」
ペーガが崩れる。
「これが…異界の運動…」
ズエラは「王子がとっとと崩れてくれれば」と願いながら王の横顔を見ると、顔を汗まみれにしながら耐えていた。
「…100!!」
ヒロポン2世が崩れる。ズエラも控えめに崩れた。
「どうですか、いい運動になったでしょ?体幹を鍛えるとハッピーになりますよ!」
ヤマシタは少し汗をかいて息を弾ませている。
「ここまでやってから、走りに行きます。」
「ウソでしょ。」
「本当です。僕の日課です。」
そういってヤマシタは走っていってしまった。




