信教の自由
「王様!異界の住人の召還に成功しましたぞ!」
「おお!やったか!」
王様と呼ばれた人物は顔を輝かせた。王様と言ってもまだ若い少年である。先王が急逝して国を継いだのがつい一ヶ月前。葬儀を終えたのはつい先日。彼は今大変に困り果てていた。国内には国を乗っ取ろうとする輩がひしめいていて、国外には国を攻め取ろうとする輩がひしめいている。彼の味方は少なく、紫のローブを纏った呪い(まじない)師はその数少ない人間の一人だった。
「どこ?ここ?」
さっきまでバスに乗っていたはずの寺の息子ケイブンは紫のローブの中年と、頼りなさそうな少年と対面していた。
「異界の者、余を助けてくれ!」
「異界の者」と呼ばれてケイブン少年もピンと来た。これはさては異世界だなと、そして僕は異世界に召還された英雄なんだろうなと……そう考えたが、いかんせん体がない。いや、見えるのだが、実体が無い感が凄い。試しに手近なものをつかもうと窓際のカーテンへ近付こうとするが移動もできない。足元を見ると魔方陣のようなものがあってその上に浮いている状態のようだ。
「僕、生きてるん?」
呪い師は首をかしげた。あまり把握していないようだ。
「多分、死んではいないと思われる。」
ケイブン少年はなんとなく活躍できない匂いを嗅ぎ取った。どうも、そういうことらしい。
「異界の者よ!余に何か知恵を授けてくれ!余の……我がイミスタン王国の窮状を救ってくれ!」
ケイブン少年は、自分を「余」と呼ぶこの少年が王様である事を察しつつ、この王様は何となく断りづらいオーラを出すのが得意な人物だなと考えた。
「僕ができる範囲でなら……」
ケイブン少年は呪い師と王の二人から色々様子を聞くことになった。小一時間ぐらい話を聞くとケイブン少年はおっかなびっくりこう言った。
「この国は信教の自由を保障すれば少し良くなるんじゃないん?」
「シンキョウのジユウ?」
ケイブン少年は説明を始めた。
「僕のうちは代々『ブッキョウ』っていう宗教で、この髪型もそのせいなんだけど、僕らが住んでいる国は国は『シントウ』って宗教なんだけど、『ブッキョウ』も同じぐらい大事にしてもらってて、他にも『キリストキョウ』も『イスラムキョウ』も色々あるんだけど、別に『シントウ』じゃなくても好きな場所に住めるし、好きな仕事ができるんよ。何なら、いろんな宗教の代表が平和について話し合いしたりするし。」
王と呪い師は開いた口がふさがらない。
「そ…そ…そんな方法が!?そんなことしたら国の中で戦争が起きてしまわないか!?」
ケイブンはそこは否定した。
「ちゃんと法律を守る宗教じゃないとダメだよ。法律のほうが宗教より強いから。」
驚きの波がもう一度来た。
「えー!!法律のほうが宗教より強い!?」
二人は口をパクパクさせている。
「お…王子!…いや、王様!法律が国教を上回るらしいですぞ!!」
王子はなにやら自分の手のひらを見つめている。
「…でも、確かに!…法を守る宗教が全て平等になるとすれば、虐げられる人も減る、何より外国で迫害されている民がわが国に身を寄せるかもしれない!しかし、今、わが国を牛耳っているのは宗教家どもで、彼らに法律で対抗などできるとは思えぬ…」
ケイブンは自分の意識が遠のくのを感じた。
「王様、僕もう時間切れっぽいわ。」
「待ってくれ!肝心な『法』の話が…あぁ!!」
魔法陣の前に佇む二人。
「『信教の自由』などどうやって実現すればよいのだ……『法を奴らに守らせる』などできるわけが無い……」
がっくりうなだれる王様。
「……あれ?ここどこ?」
3年1組シマダが現れた。