異界からの客
「貴方の教え子は凄い。」
モリは肯定も否定もしなかった。
「私だけの教え子ではないんです。彼らは6歳の頃から今……14歳から15歳の今に至るまで数々の教師について勉学に励んできたんです。9年間です。彼らは今の段階で人生の半分以上を学問に捧げています。」
「それで、国が成り立つ?」
モリは深く頷いた。
「それがわが国の原動力です。」
「恐ろしい……」
王は心底そう思った。イミスタンでは8歳から家業を手伝うのが普通の庶民の慣わしで、殆どが読み書きはできない。
「そして、今のところ彼らの全員が3年間『コウコウ』という学校に通い、彼らのうちの半数近くがその後のさらに4年間『ダイガク』に通うのではないでしょうか?彼らが働き始めるのは恐らく18歳から22歳です。」
その場の全員がため息をついた。
「それはやりすぎでしょう?」
「分かりません。お恥ずかしながら、私はまさに『ダイガク』を卒業してから働いているのです。我々の国の法律ではそうしないと学校の教師になれないのです。」
ヒロポン3世は自然に笑いがこみ上げてきた。何もかもが馬鹿馬鹿しく感じて出た笑いか、異質すぎる異界の客と自らの世界とのギャップに心が壊れつつあるのか。
「可笑しいですか?」
モリは少し心配そうだ。
「違います。何と言うのかその、あなた方の世界から国を救う優れた知恵を頂こうと思ったのが発端ですが……知識は劇薬です。教えてください。『国民に主権』どうやって実現しているんですか?」
「選挙です。」
「『センキョ』?」
ペーガが手を挙げた。
「イモ教では選挙を行ないます。非公開ですが、大司祭が何らかの事情で働けなくなったときに次の大司祭を選ぶときに選挙をします。根競べです。」
モリは「なるほど私たちの世界で言うところのコンクラーヴェですね」と答えると続けた。
「18歳以上の国民は自分の代表になってくれる人物を立候補した人間の中から選挙で選びます。各地の選ばれた立候補者は集められて『議会』になります。」
書記が声を挙げた。
「『ギカイ』は『リッポウ』するところです!法律を作るところ!繋がった!……あ、すいません……」
王は手と表情だけで「構わないよ」と伝えた。
「その通りです。多分、その話は郡がしたんでしょうね。彼女は公民好きですからね。」
ズエラが質問をした。
「その仕組みだと、意見が合わないやつが出てくるんじゃないか?」
「その通りです。異なる意見を発する人間を尊重するのが民主主義の特徴の一つと言ってもいいでしょう。大してイミスタン王国のような国は『王政』と呼ばれています。」
その質問を皮切りに、その場の全員から矢継ぎ早に質問が飛び始める、モリは極力、分かる表現で答えていく。しかし、時間が迫っていた。
「モリ、私はどうすれば?」
モリは「陛下のお心のままに」と答えて去っていった。