シュール
ねえ……………
「ねぇ准?」
………と、准が私と同じだけ表情を強張らせる。
見つめ合うお互いの瞳の中を往き来する──“まさか”
…………でも
もういいんだ!
私、決めたよ?
「准、あなた今、何処に居るの?」
今私を突き動かそうとしているのは、目も眩むような残酷で意地悪な衝動……。
准が忽然と変容してゆく様を、私は目を逸らさずに見届けなければならない。
これは多分、准が私にくれた最後の宿題だから。
目の前の准の格好をしたマネキンが、瞳孔の開いた真っ黒な瞳をゆっくりと持ち上げる。
怖い…………!
「ごめん、少し急ぐんだ…もう行かないと」
言いながら、女の子に触れていた指先が神経質に震え始める。
…………何?
「急に何?
行くって、何処へ行くの?」
「それは聞かない約束だろ?」
「准、何言ってるの!?
ふざけないで!」
肩をすくめたまま鼻白む准。
その腰に、必死にしがみつこうとする女の子。
私を真っ直ぐに見る、准の大きく見開いた瞳。
テーブルの蝋燭が、丸い炎を一瞬、機敏な生き物のように窄め直す。
……もう何も言ってはくれないんだよね?
あの時だって………
さよならも言ってくれなかった。
准が ─────
──── 消えてしまう!
「あなたは私とずっと一緒に居てくれるって言った!
……そうだよね?」
なんで?
「結婚したら女の子が欲しいって………
名前は僕が付けるんだって………」
私には未来がはっきりと見えたの……
そこには…そう、この子だったわ?
准も私もこの子の側でいっぱい笑ってるの。
だって………
「この子はこんなに准の事が好きなのよ!?」
ねぇ、違うの?
「准にパパになってほしかったんだよ!?」
黙ったまま首を垂れて、女の子の髪を慈しむように撫でながら、瞳に浮かべた涙は今にも零れ落ちそうに………
─── 時間だけが、あなたを見極めようと、厳かな沈黙を横たえている。
口角に悲しく浮かべた微笑みを守ろうとする余り、貝を作る女の子の頭を咄嗟に胸に引き寄せようとしたその刹那………
准の狼狽えた瞳から涙が溢れ、中空に幾つもの白い光が零れ落ちる。
私の、ようやく塞き止めていた涙腺はたった今潰え始め、痙攣を始める横隔膜に、上ずった声の欠片さえもが、力無く漏れ出そうとする悲鳴の方へと忽ち取り込まれてゆく。
でも、
── 私にはもう誤魔化す事なんて出来ない……。
分かったわ……。
准………ごめんね?
もういいの………。
─── 准はあの日死んだ。
そうでしょ……准?
何であんな事したの?
私、怖かったのよ………
電話が鳴ったの。
冷たい雨の日だった。
なんで?
私もう、忘れようとしてたのに…………
誰のせいでもなかったのよ?
「准?」
「ねぇ准…………」
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