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カノンとあいつ  作者: TAO
2/9

ゆめのつづき












挿絵(By みてみん)







――☆―― ――★――

──☆──









私達のデートは、決まってあいつの遅刻から始まった。


そのくせ、いつもニヤニヤして近づいて来る。



出逢った頃はすねたり怒ったりしたけど、私にとって、准を待つ間のその数十分は、とても満たされたキラキラした時間だった。



大切な事は、大抵後になってから気が付く。






…っ、来た!











──────ф────



───ф───────



───────────────ф







「何がそんなに嬉しいわけ?」


「クリスマスだろ?…今日」


「馬鹿じゃない? 昨日花見に行きたいって言ってたよね?」


「花見?……誰が?」


「もういいよ、…で、どうする?」


「どうって?」


「お腹空いてる?」


「な、鞄貸しなよ………

俺持つよ」


「ねえ、聞いてる?」


「あァ」


鞄を取り上げ、たすきに掛ける准の顔を、口を片方だけ曲げて覗き込む。



「わたし腹ぺこなんだけどナ?」


「あァ…」



………………? ?



何かおかしい………。




仕事帰りに待ち合わせている筈なのに………


准の格好……


……何で?



「君が前に言ってた、…ほら、パスタの旨い店?

……この辺じゃなかった?」


“君”?


“パスタ”…?




ねえ、どうかした?


─と言いかけて、思わず言葉を呑み込む。




── 直感する。


頭をもたげようとする、記憶と現実の不条理な軋轢あつれきは、多分私をこの場所から、いとも容易く放擲しうるものだ ──と。









それはとても恐ろしい瞬間だった。


















───── ф ────









挿絵(By みてみん)





ずんずん進んで行く准の背中をぼんやり見ていると、不思議な気持ちになる。


でもその違和感は、もう私に何かを問うことをやめていた。


私達はまるで、音も無く湖面を渡る仙人のように、騒がしい陋巷ろうこうの雑踏を、まるで滑るようにすり抜けて行った。





気が付くと、道の両脇には商店も疎らで、そのひとつひとつからは一様に、淡い桃色の光が路面へと漏れ出している。



人影は無い。



鬱蒼と繁る木々は次第に、等間隔に灯るその淡い光を、より疎らに点在させてゆく。




そうだ…………




私には分かっている。




やはり此処は…………




あの森……なのだ。









私が就職の内定を貰えずに煮詰まっていた時、あいつが連れて行ってくれた高野山の奥の院。


多分、私達はそこに向かって歩いている。




あの日も、黙々と歩き続ける私達に言葉は無かった。


どこに辿り着くのか、何をしようとしているのか……。


私達が日常で繰り返してきた些細な問い掛けも、ここに在る雄弁な静寂の前では、唯の愚問にしか聴こえて来ない。



湿った腐葉土の匂いは、既視感をたっぷりと湛え、目の前を歩くじゅんが、急に愛しくてたまらなく思えて来る。



駆け出して背中に飛び付きたくなる衝動は、あの時と全く同じものだ。



ジャンプして、飛び付いて、ヘッドロックして……


わかったよ…って言うまで、絶対に離してやらない。






………なんにも分かってないくせに ───。












〇 ○ ○ ○


〇 〇






見ると、モスクのような形の、こじんまりとした建物を背に、准が微笑んでいる。



「ここなんだ………」






道の両脇に、私達の逢着を指南する桃色の灯りを失ってからというもの、しかしここの蒼い光だけは、決して私達を見失う事無く、ずっと輝いていてくれた。





後ろを振り向くと今来たみちは既に消えていて、木々の隙間に夕映えの名残を見つけることはもう敵わない。






漆黒の森に浮かぶその瀟洒な建物は、見とれる程美しい光を発しながら、それでも、眩しさは少しも感じさせない。




これは……………




私はこの時に ───

夢を見ている自分をほんの少しだけ俯瞰する事が出来た ────


危うい眠りを呼び覚ましたりしないほどの、


── ほんのささやかな気付き ────








挿絵(By みてみん)
















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