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カノンとあいつ  作者: TAO
1/9

めざめ












挿絵(By みてみん)







雨だ……。



───咄嗟にそう思わせた。







布団の四隅がどこへ行ったか知らないが、歪な格好をした身体が、二の腕を痺れさせている事と、その苦痛も手付かずに、現状を出来るだけ速やかに把握したいという欲求だけが、朦朧とした意識に抗おうとする。



それからもうひとつ、


………微かに雨の気配がする。







ベッドから起き上がってカーテンの隙間に見る濡れたベランダは、やはり左腕を放置したままの私の安い妄想に過ぎないのか、図体を持て余す苛立ちはとうに始まっているというのに、それでも苦痛は、まだだ…!と言ってくる。


仕方がない…。


未だ焦点の定まらない薄目を鬱陶しく閉じる。


ここから幽体が抜け、のそのそと歩き出すのを黙って見ているしかない。


ベランダに面したサッシを、思い切って10センチ程開けてみるのだ。





嫌な雨は、空を真っ黒にして、ぐずぐずと私を不快にするのだろうか。


水を含んだ風が足元を撫で、うっすらと差し込む光は 床の白い埃を、そこだけ浮かせて見せるに違いない。












───やる事は決まっている。





排泄の後洗面所に向かい、いずれは空腹を満たす…。


これは仕方のないことだ。


みんなこうやって生きている。



例えさっきまで居た世界が“此処”とどれ程掛け離れていたとしても、この辻褄の合わない不可解をぶら下げたまま、それが綺麗さっぱり消え失せるまで、今は唯、ひたすら動き回ることだ。


目覚める為には、みんなこうするのだ。







やおら寝返りを打つ。


褥瘡じょくそうになる程虐められた左肩に素早い血液がサッと行き渡る。


敷布のよじれが二の腕に刻んだレプタイルを、ざらざらと掌に確かめる。




この場に及んでしまっては、夢の残滓ざんしおろか、ここにはもう、苦痛に晒された頭陀袋ずたぶくろがドロリと横たわるばかりだ。




嗚呼…と鳴いて、ふぅ~と溜め息………。


ベッドから床に膝を投げ出し、猫背の頭を項垂れると、何処からも訪れない救いと知っていて、それでもじっと待っている……。


私のような、えらと肺を使い分ける珍種にとって、ここは踏ん張り処なのだ。


腿に肘を突き立て、両手で顔を覆う。


横目で知る時刻は午前11時過ぎ。


テーブルに散乱するコンビニのレジ袋と弁当の食べ残し。


付きまとう訳の判らない焦燥感…。


何故かその感情だけが、日に日に手付かずのまま、今日もちょこなんと鎮座している。




日曜日の、それも惰眠を貪った揚げ句、目覚める以外に手立てが無くなってしまった極楽トンボは、……一体何を焦るのか?


答の出た試しがない。






目覚めるとは、そういうことだ。











∞ ── ∞ ── ∞ ──





∞ ─────── ──────── ∞









空は晴れていた。







雲が綺麗。








───そうだ!


これまでにもそうしてきたように、私はあの綺麗な青い空に報いる為だったら、なんだってやれる、……可愛い女なのだ。



根拠のない勇気に心がザワザワする。



お気に入りの更沙のブラウスを鷲掴みにした時、乾いた風がシュッ-とほっぺたをさらって行った。






あいつ……


今頃、夢の断片が頭を過る。


痛くなるくらい目をギュッと瞑る。



ザブザブ空回りする、水を張った洗濯機の音。



遠く聴こえる、水道工事のトカトントン。






焦らなくていい………


そう自分に言い聞かせる。





なんなら、一日中こうしていたって……。


じっとして、じっとして……。



光を透かした赤い瞼越しに、心地よい風が二度三度、何か言うみたいにして通り過ぎてゆく。










やがて、ここに舞い戻った私に、肩をすくめて笑うあいつの声がフッと聴こえてきて…………

さっきまで歯抜けだらけだったジグソーパズルは、見る見るその空白を埋めて行った。








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