7 人間不信
朝が来た。
私は1回も眠れなかった。
目の前では焚き火が静かに消えて行き、真っ暗な闇があたりを支配する。その闇の中からいつ、トビが顔を出して私を捕まえに来るかと思うと怖くて眠れなかった。
私は一晩の間、ヴァンにしがみつくような感じでくっつき、暗い闇の中震えながら身を隠した。
「お前、1回も寝てないのか?」
目を覚ました彼は大きなあくびをしながら言った。
「えぇ。怖くて」
眠さと、精神的にきついのとで私はどうにかなりそうだった。
それでも、朝が来て隣にはヴァンがいてくれて自分が無事だと思うと少し眠くなる。
「とにかく、町に行こう。ここだと、狙われやすいからな。一度落ち着こう」
「や、ヤダ!!」
歩き出すヴァンの腕を両手で力いっぱい引き止める。
「町には、行きたくない・・・。きっと、いる」
「そんなこと言ったって・・ここにいても仕方ないだろう。町の中ならいきなり殺されたりしないだろ。普通」
「嫌だ!怖いの!もう行きたくない!」
ダダをこねている。それは自分でもわかった。
でも、昨晩の恐怖が抜けない私は彼にダダをこねて困らせることしかできなかった。
「・・・置いてくぞ」
彼は低い声で私に冷たく言い放った。
「わがままを言うな」
「ヴァンも、きっとブライスの仲間なんだ・・・。」
「俺は違う。もし仲間なら昨日お前を引き渡している」
「だって!行きたくないって言ってるのに!どうして行くの!?嫌よ!もう・・・怖いの」
「俺が守ってやる」
「嘘だわ・・・もう、誰も信じたくない」
「俺が守るから、100万払いな。それが嫌なら・・・この腕をお前の治癒魔法で治せ。それが俺からの契
約だ」
「けい・・やく?」
「あぁ。俺が故郷に帰るまで、お前を守ってやる。1人で帰るより、回復役がいたほうが俺も安心だ。お前は俺を治せばいい。簡単な仕事だ。俺がお前に依頼しているんだ」
「それって・・・依頼者の頼み方なの?」
「うるせぇ。」
1人で故郷へ帰るついで。
治らない腕が治ればいいし、無理なら大金を払え。
言い方は怖いし、なんだか依頼っていうか脅迫?強要?
「どうする?俺は行くぞ。お前は?」
「私は・・・。絶対に守ってくれる?」
「約束は守るさ。」
「じゃあ。行く。」
彼は一瞬笑うと、肩から下げていた大きな袋の口を開けて私を手招きする。
大きな袋って言っても、そんな・・・いや、まって。袋よ?
「なに?・・・えっ?」
「こん中に入れ。見つからないだろ」
確かに見つからないけども・・・。
私は彼の突拍子もない考えが理解できなかった。
いきなり女の子に袋へ入れって。何考えてるのかしら。
「売らない?」
「しつけぇな。見つかりたくないんだろ?これで宿まで行けば誰にもバレないだろうが」
これ以上なにか言うとホントに怒りそうなヴァン。
私は仕方なく袋へ入る決心をして、袋の方へ歩いていく。
中にはなにか布が入っている。
・・・汗臭い、っていうか、埃臭いっていうか・・・。
「へ、変なことしたら魔法で燃やすからね」
「へーへー」
私を袋の中へ押し込み、口を縛る時見上げた彼はめんどくさそうに私の髪を汚い布で包みこんだ。
次の瞬間、体がふわっと浮いた。
「お前、見た目ほど軽くないな」
「し、失礼よ!!そこまで重くないわ!!それにお前じゃなくてティナよ!ティナ!!」
「へーへー。泣き虫ティナちゃん。黙ってろよ。見つかっから」
こいつ、大っきらい!!
私は揺れる袋の中、袋越しに感じるヴァンの体温が気持ちよくてゆっくりと眠気が襲ってきた。
外には静かな世界。
聞こえるのは、一定のリズムでヴァンの息使いと歩く音だけ。
そのまま、私はゆっくりと意識を失った。