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6 私の、仲間!

「早くしろトビ!捕まえるんだ!」


 まるで、狩りでもしているかのようにブライスの声が山に響く。

 確実に近くに来ている。

 でも、盗賊のトビはもっとそばにいる。あいつから逃げきらないと、どのみち捕まってしまう。


「そろそろ、終わりにするか」


 息が上がり、ヨタヨタと走っている私とは正反対にまだまだ余裕のトビ。

 私は、もう限界を通り過ぎて唾液も喉を通らない。


「やだ・・・やだよ。ニック、・・・おばさん。」


 枝に足を取られ、私は体制を大きく崩す。


「あ゛うっ」


 私が体制を崩すと、トビの放ったナイフが足に刺さる。

 私は急な激痛に耐え切れず、その場に崩れ落ちる。

 体が地面に激しくぶつかり、全身に傷ができた。

 もう、治癒魔法を使うほどの集中力も、気力もない。

 もともとDランクなのだから優れた治癒魔法でもないし。


「やっべ。刺しちった。お前がふらつくから刺さっちまったろ。早く抜いて治せ、俺が怒られちまう」


 暗闇の中ゆっくりとその姿を現すトビ。

 私は、もうトビの相手をしているほど余裕がなかった。

 限界以上に走り、足が痙攣し、呼吸が乱れ、激痛の中意識を保つだけで精一杯だった。

 足からは、生暖かいものが流れ出ている。

 でも、それすらもう気にならなかった。


(ニック・・・おばさん・・パパ、ママ・・・)


 起き上がることもできなくなった私は、迫り来るニックから離れようと最後の力を振り絞り這いながら先へと進む。


「トビっ!どこだ!!」


 ブライスの声が、すごく近くでした。

 昼間なら、もう見えているだろう。

 私は、自分の人生が終わった。そう確信した。


「ブライス!こっちだ!足をやったからもう逃げられねぇ」


「あんま傷つけんなよ!大事な商品だ!」


「大丈夫だ。治癒魔法ですぐ治る」


「そうだったな。こいつ、これでも回復役ヒーラー様だからな」


 私が這いながら進んでいる姿を満足そうな笑顔で見下ろすブライス。


「いや、来ないで、やめて!やめてよ!だ、だれか・・・」


 私はその顔を確認すると急いで逃げる。

 芋虫のように、地べたを這いつくばりながら彼らから逃げた。

 怖くて、涙なんて出ない。

 あるのは、捕まった後の現実の世界。

 私が、私でなくなってしまう。

 その恐怖のみ。

 私が振り返り、彼らの姿を見ようとした瞬間。

 私の体は沢に落ち、斜面を転がるように落ちていった。



 気が付くと、そこは湖のほとりだった。

 目の前には炎が揺らめいている。

 焚き火だ。

 誰か・・・人がいる。


「い、いや!!助けて!!たすけて!!殺さないで!!」


 私は意識を取り戻し、沢に落ちる前のことを思いだした。

 目の前にいるのがトビやブライスだったら・・・。

 そう思うと私はいてもたってもいられずにその場から逃げ出そうと試みた。

 全身、痛い。

 足だって痛い。

 どこから落ちてきたか知らないけど、正直もう動きたくもない。

 でも、ここにいたら死ぬ。


「誰も殺さないよ。少しは落ち着け」


 焚き火の向こうから、小さな声がした。


「あまりうるさくするな。傷に触るぞ。少し休めよ」


 焚き火から這いながら逃げ出す私を、炎の向こうから一人の男の人が見ていた。

 銀色の髪。ブライスと同じくらいの年頃の人。

 愛想がいい。とは言えないけど、ブスッとしながら喚く私を迷惑そうに見ている。


「だれ?あなた」


「まずは、自分から名乗れよ。お前が急に落ちてきたんだから」


「落ちてきたって・・・どこから」


「そんなの知らねーよ。でも、俺からしたら急に目の前に来たのはお前だ」


「・・・ティナ。ティナよ」


 私は逃げるのをやめて、その場に留まり男の人の声に耳を傾ける。


「俺はヴァン。なんでそんなに怯えてる?」


「なんでって・・・それは」


 私は口を閉ざしてしまう。

 あまりの恐怖に、何を言っていいのか。

 あれが現実だったのかわからなくなっていた。


「話したくないならいいけど。」


「違うの・・・。嘘みたいで、私、何がほんとかわからなくて。どうすればいいのかわからなくて」


 今さら、涙が出てきた。

 さっきまで、追いかけられていた時は涙なんか出なかったのに。


「おい、泣くな!泣くんじゃない!」


 声を上げて泣く私に、ヴァンは困ったように顔を上げる。

 私は怖くて、怖くて、痛くて、今みたいにブライスやトビがいないこの空間が本当に嬉しかった。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい」


 私は彼が困っているとわかりながらも、止まらない涙を抑えきれないでいた。




「落ち着いたか?」


「うん」


 私はヴァンに抱き上げられると、焚き火のそばに横にしてもらった。だいぶ、今は落ち着いてきた。


「癒しの光よ」


 私は足の傷を治癒魔法で癒す。

 傷が深かったせいか、なかなか治らなかったけどここでは焦る必要がないのでゆっくりと回復に専念できた。


「驚いたな。魔法が使えるのか」


「Dランクですけどね」


 私はヴァンが応急手当をしてくれた包帯をはがすと、傷のあった場所を触ってみる。

 傷跡もないし、大丈夫そう。

 全身も痛いけど、大きな怪我はないから今は少し休むことにした。


「上で、なにがあったんだ?」


「私は、パーティーに騙されたの。」


「騙された?」


「うん。神官様がリーダーのパーティーだったんだけど、私を麓の町まで連れて行って売るつもりだったんですって。水浴びしてみんなのところに戻ったら、そう話してた。」


「・・・」


 彼は黙って話を聞いていた。

 私も、特にいうことがなく黙って炎を見ていた。


「どうして、冒険なんかしてる?」


「どうしてって・・・海が見に行きたかったの」


「うみ?」


「うん。私、両親をモンスターに殺されたの。小さい頃にね。それで、幼馴染のお母さんが引き取ってくれたんだけど、なんか、自分でも何かできるってところ証明したくて・・・。村から出たことなかった私が、海を見に行って帰ったら、すごい冒険だなって。魔法もあまり使えないけど、なにかひとつ。やり遂げたいなって思ったの。でも、どこのパーティーも受け入れてくれなかった。」


「それで、人売りの神官パーティーに騙されたってわけか」


「だっ、・・もう少し、言い方に気をつけてよ!私だって好きで騙されたんじゃない!」


「へーへー。」


 彼は子供をあしらうかのように適当な返事だった。


「あ、あなたはどうして旅をしているの?」


「故郷に帰るためだ。」


「故郷って?」


「大陸の西に位置する港町。コーシンだ。」


 コーシン。ここから西へ行くとある。でも、結構な距離が・・・。


「歩いて・・・行くの?」


「あぁ。あまり金がないからな」


 彼は左に置いてあった枯れ枝を右手で掴むと炎の中にへと雑に放り込む。


「なんで、左手を使わないの?」


「うまく、動かないんだ。」


「動かない?」


「あぁ。昔、折った時にクソ医者が適当にしたもんだから骨が変なふうにくっついてな。金もないし、治癒魔法も受けられない」


 ・・・


「・・・もし」


 私は、一人が怖かった。

 この闇の中、またトビが狙っているかもしれない。

 私は、逃げるしかできない。

 また、あんな痛い思いはしたくない。


「私がその腕治したら、治癒魔法を使ったら・・・私を守ってくれますか?」


 たとえ、Dランクの回復魔法でも、困っている人を助けてあげられる。

 困っている私を助けてくれるなら、私はこの人を助けてあげたい。

 もう誰も信じたくないけど、今私が頼れるのはヴァンだけだった。

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