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4 つまんない

 目を覚ますと、そこは見慣れない馬車の上だった。

 体が小刻みに揺れる感覚で目を覚ました私は、荷台に座るブライスと盗賊のトビの前で寝ていたようだった。


「す、すいません・・・その・・あの」


「驚いちゃったよね。急にあんな血だらけで現れたら」


 ブライスが笑いながら寝起きの私に声をかける。

 私は、気を失ってしまったことが恥ずかしく、情けなく何も言えなくなってしまう。


「でも、魔法で傷を治せるなんて、たいしたもんだ!」


 馬車を操るシュウが会話に入ってくる。

 まぁ、そう言っていただけるとありがたいですけど。


「あまり、世話を焼かせるな」


 トビが少し苛立ったように呟く。


「あはは。すいません。でも、あんな怪我、もうしないでくださいね!」


「おうおう、気をつけるわ!」


 シュウは聞いているのかいないのか、適当な返事だった。

 もう血を見たくないから言ってるのに・・・。


「でも、こんな馬車、どこで用意したんですか?」


 私の問いかけに誰も答えなかった。

 ただ、馬の歩く音だけが聞こえる。


(あれ?なんか、いけないこと聞いちゃった?)


 私は目の前の2人や、シュウの方を見てみるも返事はない。


「さっき森で商人から買ったんだよ。ティナが倒れちゃったからね。移動も楽だし便利かな?って」


「そ、そうだったんですか!!・・・すいません、いきなりご迷惑をかけてばかりで・・・。」


 この馬車は私のために買ってくれたんだ。

 だから、お荷物の私が馬車を買った理由を聞いたからみんな怒ったのかも知れない。


 大柄で、ちょっと怖かったけど案外気さくなシュウ。

 いつも周りを見ていて、何を考えてるかわからないけど怒らないブライス。

 カイルは、まだよくわからないし、正直怖い。

 トビは、なんか短気で口や目つきが悪い。

 2日間の感想。


 でも、贅沢は言ってられない。私みたいなお荷物でも大事に(?)あつかってくれてるし。

 馬車を手に入れたことで、今日は一気に山を下りることができた。このまま行くと明日には麓の町に着きそうだ。



 夜。2回目のキャンプ。

 馬車を止めて、私たち5人は今日も野宿することになった。

 昨日の夜と同じく、少し開けた場所で火を焚き、その炎を囲むようにみんなが座る。

 まぁ、トビは横になってるし、カイルは少し離れた木の根元にいるし、なんか協調性のないパーティー。


「みんなは、仲がいいんですか?」


「仲がいいって言うか・・・どうなんだろう?」


 困ったように笑うブライス。


「仲は微妙だが、みんなそれぞれの役割を持って、うまくやっとる!」


 シュウはこんな時も、大きな鎧を着ている。


「それ、重くないですか?」


「そりゃ重いよ!お嬢ちゃん2人分くらいはあるんじゃないか?でも、役目ってものがあるからな!」


 シュウは腕や足、お腹にできた傷跡を私に見せてくれた。


「みんなを守るのが俺の役目だ。」


 彼は自慢げに腕の傷を私に見せると、満面の笑みで笑っていた。

 きっと、この人は優しいんだろう。なんとなく、本能がそう言っている。

 それとは逆に、カイルは怖い。本能が、そう言ってる。


「もうなれたかい?みんなには」


「え、は、はい。だいぶ・・・」


 ブライスの言葉に動揺し、トビとカイルの姿を視線で追ってしまう。

 なんとなく気まずくなった私は、そのまま目を伏せてしまう。


(あぁー。ニックと一緒にいたほうが楽しい)


 後悔の気持ちが湧いて出てきた。

 ホームシック。なのかもしれない。

 見ず知らずの人と冒険。しかも2人は怖い。

 楽しい会話、美味しいご飯、そんなのは夢のまた夢だったのかも・・・。


「私、水浴びしてきます。そばに川があったし」


 私はため息をこぼしながら1人川に向かった。



 川の水は心地よかった。

 肉体的にも、精神的にもだいぶ疲れきった私は、この瞬間が本当に至福の時だった。

 村にいれば、あったかいご飯、お布団、お風呂もあって生活できた。

 今は【海が見たい】。と出てきたことを少し後悔している。


 川で泳ぎながら星を見たり、座り込んでぼーっとしたり、いろいろ考えてみると私には冒険は不向きだったのかもしれない。

 明日麓の町についたらみんなと分かれて、村に行く人を探そうか。

 それで、村に戻ったらおこづかいで貯めたお金で報酬を払えば・・・。

 おばさん、怒るだろうな。

 ニック、ちゃんと言ってくれたかな。

 考えれば考えるほど気が重くなって胸がモヤモヤする。

 体が急に重たく感じて、ため息が出る。


「つまんない・・・」


 私は言わないでおこう。と思った不満の言葉を漏らしてしまった。

 なんか、もう何もかも嫌になってきた。


(よし、帰ろう!)


 私は村に帰ろう、と心に決めると川から上がり、みんなのもとへ向かった。

 明日になれば町に着く。

 そこまでは・・・何があってもとりあえず我慢しよう。

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