朝の海辺で出逢った少女は
お題:蓋然性のあるガールズ 必須要素:衝撃の展開 制限時間:15分
朝の海は美しい。朝焼けを映した海面。潮風を切って飛ぶ鴎。新しい一日の始まりを告げる波音。
私がそうして砂浜を歩いていると、向こうから一人の少女が歩いてきた。ジャージ姿で、肌は日焼けしているように見えた。
なんとなく、目が合う。
「おはよう」
笑顔を浮かべる彼女の声は、どこかで聞いたことのあるような声だった。
「おはよう……ございます」
私は思わず敬語をつけてしまって、少し気まずくなった。でも彼女はそうでもないらしい。
「あなたはこの近くに住んでるの?」
「うん。毎朝、こうして散歩してる。あなたは?」
「私も。毎朝、ここを散歩してる」
「そうなんだ」
今まで会ったことはないのが、少し不思議だった。
「あなたの白いワンピース、似合ってるね」
「ありがとう。お母さんに買ってもらったんだ」
「へぇ、いいお母さんだね」
「うん。でももういないの。去年、病気で」
彼女は少し取り乱した様子だった。
「そうだったんだ。聞いちゃってごめんね」
「いいの。あまり友達にも話せてないし」
それからしばらく、二人で会話した。色々なことを。
ふと彼女が立ち上がった。
「私、そろそろ行かないと」
「そっか。でも、また明日会えるよね」
「うん。きっと」
「それじゃ」
歩いて去っていく彼女の背中を見送りながら、思い直して声をかけた。
「ねえ。名前はなんていうの?」
「私? 私はね――」
そうして私は彼女と別れた。
もう会えないかもしれないと思いながら。
だって彼女の名前は私と同じだったのだ。
多分、どこかの並行世界の、お母さんが亡くならなかった場合の私、だったのかもしれない。