第1話《過去の終わりと事の始まり》
「つまり‥‥引っ越すって‥‥こと?」
突然告げられた言葉に僕は動揺を隠せなかった。
父から突然の引越し宣言をされたのだ。
「すまないな秀樹‥‥突然こんな話をして‥‥」
「いいんだよ、父さんが悪いんじゃないよ。」
父さんの仕事の都合で引っ越す事になったそうだ、これは仕方が無いことだ。
仕方が無いことだけれど、僕はこの街が好きだし、自分の通ってる学校が好きだ、クラスメイトも好きだ。
そう考えると、とても寂しくなって目から熱いものが出る。
『何泣いてるんだよ僕‥‥しっかりしろ、僕はもうすぐ高校生なんだぞ。』
僕は中学三年生で、今は二月、もうすぐ卒業式なのだ。
だけれども、引っ越す事になったので皆と一緒に卒業式を迎えることは出来なさそうだ。
僕は両親と話を済ませると、すぐに自分の部屋へと入った。
自分の部屋に入った時、ふと鏡を見ると自分の泣いた姿が写っていた。
両親には笑顔で振舞ったのだが、いつから涙が出ていたんだろうか。
いくら中学三年生だからと言って、悲しいものは悲しいし、寂しいものは寂しい。
僕は涙を拭ってベッドに潜ると、枕に顔を押し付けた。
押し付ける動作の時に、一瞬チラッと大好きな僕の街が見え、さらに寂しさが増す。
『‥‥卒業式‥皆で一緒に迎えたかったな。』
なんだか泣いてる自分なんて情けない、羞恥心が込み上げてくる、だけど枕から顔を離すことができない。
「キャンキャン!」
聞き覚えのある鳴き声を聞いてハッとした。
ベッドの下から愛犬のパインが顔を覗かせていた。
「パイン‥‥僕‥とても悲しいよ。」
僕は童心に返って、パインを優しく抱き寄せた。
パインはとても暖かくて、モフモフしていた。
僕はそのまま眠ってしまった。
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「‥‥‥‥」
今日がとうとう最後の中学校の日。
僕は明日、すぐに出発なのだ。
いつも何の感情も持たなかった通学路が、なんだか尊く、そして寂しく感じる。
もうここを通るのは最後なんだ、と。
「‥‥‥‥はぁ‥‥」
1歩1歩が重い、学校に入るといつものように皆笑って登校していた。
僕だけがこんな顔なのかな。
廊下を歩く、吐いた息が白くなるのを見て、何だか寒さが増した気がした。
ふと人の気配がしたので前を見ると、髪の長い女の人が立っていた。
ここの学校の子じゃないとすぐに分かったが‥‥なんだかとても懐かしい感じがした。
この人‥‥どこかで会ったことある。
どこがで見たことある。
僕は声をかけようと歩み寄ると、向こうも同じように歩み寄ってきた。
『‥‥なんだろうこの人‥』
近づく度に冷や汗が出る。
本能的に拒絶しているのか、足も震え始める。
『‥‥なんて声をかけよう、どうしてここにいるの?‥‥違うな‥‥』
少し下を向いて歩き、相手の足が見えるところまで歩いて顔を上げた。
『っ!!』
彼女の目はとても冷たい目をしていた。
肌の色は真っ白で、生きているという感じはどこからも出てこない。
冷たく大きな目で僕のことをしっかりと捉えていた。
『なっ‥‥なんだこの人‥‥!!』
僕はその目や彼女を見て後ろに後ずさったが、彼女はお構い無しに歩み寄ってくる。
『来るな‥来るな来るな‥‥』
とても強い恐怖心が僕を襲う、この感じ‥‥どこかで‥‥。
僕は体が硬直して、これ以上後ずさりできなくなった。
彼女は僕の目の前まで歩み寄ってきていた。
僕は招待のわからない謎の恐怖に襲われている、この女の人はいったい。
僕は様々な考えを巡り巡っていた。
考える度に冷や汗が出る、嫌なことしか考えられない。
『嫌だ‥‥嫌だ‥嫌だ嫌だ嫌だ!!』
何が嫌なのか自分でもよくわからない、だけど僕はこの女の人をとても強く拒絶している。
女の人は僕に顔を近づけ、少し口を開いた。
『噛まれる‥‥?口からなにか出る??』
嫌なことしか考えられないため、口に関してのマイナスなことが頭の中を埋めた。
彼女は口をもう少し開いて、苦しそうな声で言った。
「あの学校に行って‥‥」
彼女はそう僕に告げた。
『あの‥‥学校??』
あの学校、の事より、僕はこの声を聞いたことがある。
この声‥この顔‥この感じ。
そうだ、思い出した。
この人は‥‥
彼女はそのまま廊下の向こうへと姿を消した。
「ま‥‥待って!!」
彼女の正体に気づいた僕は彼女を追いかけるように廊下の向こうへ走り出した。
やっと会えた!
言いたいことが山ほどある!
さっきまでの恐怖は飛び、喜びの気持ちに包まれた。
『やっと‥やっと会えた!!』
僕は笑っていた、無我夢中で廊下の奥へ奥へと走った。
途中で上靴が脱げたがお構い無しだ。
僕は靴下で真っ白な廊下をペタペタと走る。
その時突然、ブワッと下から風に吹かれた感覚がした。
下を見ると、廊下に大きな黒い穴が空いていた。
その穴はまるで生きているようで、僕のことを落とそうと風で吸い寄せてきていた。
『く‥‥や‥やめろ!!僕は彼女に会わなければ行けないんだ!!』
そんな気持ちはこの穴には伝わらず、僕はその穴に真っ逆さまに落ちていった。
真っ暗な空間をただただ落ちていく、穴から廊下の天井の景色が見える。
『もう少しだったのに‥!!』
その穴をただただ見つめながら落ちる。
あぁ‥‥結局僕は届かないのか。
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「秀樹!秀樹!?早く起きなさい!!」
母親の怒号が聞こえる‥‥早く起きねば‥‥。
『なんだかとても嫌な‥‥いや‥‥嬉しい‥‥よく分からないけど、変な夢を見た気がするけど‥‥思い出せないな。』
引越し先で寝るのはこれで3回目‥‥引越し先の家はとてもいい家で住み心地もいい。
窓からの景色もいいし、部屋一個一個も大きい。
「もうここの街に来て3日か‥‥それにしても、なぜ母さんはあんなに怒っているんだ‥‥?」
『待てよ‥‥?』
僕は急いでカレンダーを見た。
『僕がこの街に来て3日‥‥そして母親のあの怒りを見ると‥‥』
トントントンと指で日付を追っていく。
「うわあああああああ!!しまったあああああああ!!!」
そう、今日は新しい学校の投稿日だった。
『やばいやばいやばいやばい!!初日に‥というかどんな日でもだけど遅刻はやばい!!』
僕はアタフタと制服に着替えた。
新しい制服はピンとしてあってシワが全くない。
藍色の綺麗なブレザーだ。
『って!そんな感想を言ってる暇はない!!』
僕はその制服を焦りながら着る。
机の上にあった生徒手帳を手に取り、中身を確認する。
名前:佐久間 秀樹
学年:高校一年生
『よし‥‥』
確認するとその生徒手帳を胸のポケットにしまった。
僕はバッグを持って階段を駆け下りる。
「おはよう!」
僕はアタフタと急いで食卓に座った。
「登校日だって言うのに‥‥アンタまさか寝ぼけて忘れてたとか?」
母親に朝から図星を突かれ、僕は横目で黙々と朝ごはんを口に運ぶ。
外はとても晴れている、冬だというのに今日は暖かいらしい。
「よっしゃ、行ってきマース」
僕は食い終わったのと同時に立ち上がって椅子の横に立てかけてあったバッグを取って玄関に向かった。
「ちょ!アンタお弁当!!」
「あぁぁー!忘れてた!!」
こんなバタバタした朝久しぶりだ。
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外に出ると確かに少し暑い‥‥という感じだった。
走ったらうっすらと汗をかく‥‥くらいだろう。
『流石に手袋とネックウォーマーはいらないな。』
手袋とネックウォーマーをバッグにしまって新しく通う学校へと向かって歩き出した。
親から渡された地図を見ながら登校、ぶっちゃけ今から行く学校の形すら頭に浮かんでこない。
というか偵察やら情報やら確認していない、引越しで忙しくてそれどころじゃなかったのだ。
「えーっと」
キョロキョロと周りを確認していると、スーパーを見つけた。
『あ、今日のデザートでも買っていこうかな。』
僕はデザートが大好きで、食後の後は必ずデザートを欠かせない。
だが今回はバタバタしていたので家からデザートを持ってくるのを忘れてしまったのだ。
『よし、寄って行こう、チーズケーキかなんかでも買おう。』
僕はバックから財布を出してスーパーの中に入った。
自動ドアが開いて中に入ると、平日の朝なので人は少なかった。
周りを見て回っても‥‥まぁ20人程度だろうか。
『空いててちょうどいいな‥‥さーてさっさと買っちゃおっと。』
奥へ奥へと進むと乳製品のコーナーへと来た。
『ほぉ‥甘くて美味しい牛乳か‥‥これをお供にして一緒にスイーツ‥‥うん‥‥なかなか。』
その時、突然大きな爆風と大きな音がスーパー中に鳴り響いた。
『‥‥えっ‥』
僕はその爆風に飛ばされ、ツルツルとした床を滑る。
「なっ‥‥なにがっ!!」
そのまま滑っていって、冷凍食品のコーナーの壁にぶつかる。
『一体何が起きたんだ‥‥!』
入口の方を見ると煙がたっていて、その煙の中に数人の人間が立っていた。
『‥‥なんだ‥‥なんなんだ‥‥』
煙が消えていくと、その煙の中の人間が現れていく。
『‥‥あれは‥‥』
腕に腕輪の装置‥‥あれはまさか。
《bracelet device》‥‥!!
「よく聞け民間人どもぉ!!このスーパーは俺らが占領したぁ!!全員大人しく俺の指示にしたがぇぇぇぇ!!!」
その中でも荒そうな男が大きな声を上げた。
これは‥‥この状況はまさか。
『立て篭もりかなんかでもするつもりなのか!?』
新しい学校に通う初日でとんでもない事に巻き込まれてしまった。
『考えろ‥‥考えろ考えろ‥!!!』
僕の平凡だった日常は、ここからダンダン変わっていくことになる。
To be continued…