8ゲーム目
3人はラフィネに案内されて、村までやってきた。
「....。これは....」
クノイチが驚きの声を上げる。
「ひどいな....」
先程のテンションとは全く変わった声をアリスがだす。目の前には、家々が隣り合い、思った通りの村風景ではなく、半壊している家や黒煙を出している家、畑の水は干からび、なんとか育っていた作物も何かによって荒らされていた。ラフィネは痛々しげな表情で言った。
「1日前からこんな状態なんです。夜中に魔物がやってきて....気づいたらこんな有様です。これじゃ、私たちは生きていけません。」
「....それはどんな魔物かわかるか?」
王覇がふと口を開いた。
「畑の足跡からしてオークだと思います」
ラフィネの言葉に3人は畑へ踏み込む。足跡は、人ぐらいの豚のような足跡だった。
「こ、こんなにオークって大きかったか?」
アリスは顔を引き釣らせた。
「この大きさからして、キングオークだと思います」
ラフィネはアリスに説明する。キングオーク。『ライトオブディレクション』ではゲームを始めて真ん中辺りに初めて現れる。そんなことを思いながら王覇は言った。
「『ライトオブディレクション』とストーリーが違う....」
「確か、『ライトオブディレクション』だと普通のオークだよな?」
アリスが確認するように言う。クノイチが頷く。2回聞いた単語にラフィネは首をかしげる。
「あの、『ライトオブディレクション』ってなんですか?」
その言葉に3人は詰まった。言っていいのか。そんな言葉が浮かぶ。この世界はゲームだ。とか、言ったところで変人扱いされるかもしれない。まして、この世界は本当に『ライトオブディレクション』の中なのだろうか?以上の結論から3人は目配せをし隠蔽することにした。
「『ライトオブディレクション』?なにそれ?私知らなーい」
アリスがそう言う。
「そうそう、そんなことより、キングオークがどこから現れたかわかりますか?」
クノイチがうまく話を転換した。
「どこからですか?....とりあえず、足跡を辿りましたら、森に着きました。ついてきてください」
ラフィネはうまく、クノイチに誘導された。3人はラフィネの後ろをついて行く。そこで、王覇とアリスのこづきあいが始まる。
「おい、アリス。何ださっきのはあの棒読みはバレるかも知れなかったぞ。普段の言葉遣いと全く違うじゃねえか」
「し、仕方ねーだろ。急だったんだし。そもそも、キングが先に口にしたのが悪いんだろ。俺はつられちまったんだよ」
「....だからと言って、あの棒読みはないだろ。しかも一人称も変わるとか、キョドっている証拠だ」
アリスは頬を膨らませた。
「しょうがないだろ!?そもそも誤魔化すとか苦手なんだよ」
「そんなに苦手ならなぜ、口を1番に開いた。クノイチがなんとかしてくれなきゃ終わってたぞ」
「あーあー、うるさい!」
アリスが耐えかねたのか急に叫んだ。
「おまっ、何してんだよ!?ラフィネがこっち向くだろうが!?」
「黙れ!」
アリスが王覇を背負い投げした。突然に宙がひっくり返った王覇は驚きでしばらくGのように硬直していた。それを見たクノイチは静かにため息を吐いた。
「あのー....」
ラフィネはついて来ない3人を不思議に思ったのか戻ってきた。そして、王覇を見て
「一体、何があったんですか?」
冷たい声でそう言い放った。
しばらくして気を取り戻した王覇は何も言わずに歩き出した。もはや女3人は気にしなかった。
「ところで、行き当たった森はなんていう名前なんですか?」
「?ハジマリの森です」
ハジマリの森は『ライトオブディレクション』で最初に出てくるダンジョンだ。生息する魔物はマスコットちゃんとチェリーボーイ。ボスはオークだ。極めて簡単なダンジョンであり、最初に役立つアイテムがあるため最初のうちに何度も潜ることがおすすめだ。ただし、一番最初は味方の騎士が1人もおらず、プレイヤー自らが命を賭してダンジョンに潜らなくてはならず少し難しい。しかも、プレイヤー自身は職もなく、ステータスが残念なのである。そんなことを思い出した王覇はふと疑問に思う。
「俺ら、普通に職についているよな?」
自分たちがプレイヤーなら当然職はないはずである。だが、どうだろうか。王覇は不明であるが、アリスは盗賊上がり、クノイチは忍び見習いである。どうやら、まだこの世界には不明が多いということだ。ふと、ラフィネと目が合う。ラフィネはどこか遠慮げに微笑んだ。しかし、その微笑みの美しさは画面越しよりも素晴らしい。王覇は思わず魅入ってしまう。
「んじゃ、ササッと行こうぜ」
アリスの言葉で我に返る。
「お、おう。行こう!」
王覇は慌てて歩き出す。おかしい。ファンクラブには入ってないんだが....。そんなことを頭に浮かべながら突き進む王覇にアリスが疑問を持つ。
「あいつ、あんなに慌ててどうしたんだ?」
ラフィネはそんなことも知らずに言った。
「あ、すみません。私はここまでです。仕事がありますので」
「そんな!?ついてきてくれないのかよ!?」
アリスは涙目だ。
「しょうがありません。これもストーリー通りです」
クノイチがこっそりアリスに言った。アリスは肩を落としてラフィネを見送る。無邪気に微笑むラフィネに若干の涙を流しながら。ラフィネが完全に見えなくなったのを確認した王覇は口を開いた。
「さて、作戦会議といくか」
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