36ゲーム目
目の前にある洞窟はとても大きかった。入口から奥へと続く道には明かりが灯っており、少し先まで照らされていた。
「とりあえず、入ろうぜ」
アリスがそう言いながら先陣を切った。だが、そこで、ラフィネに止められた。
「ちょっと待ってください。まだキングさんとクノイチさんが到着してませんよ」
「え....別に良くない?」
「ダメです」
「....」
ラフィネに説得されて、アリスは渋々と入口の隣に座る。ふと、入口からコウモリが出てきた。
「アルネア....、あれはまも」
「ただのコウモリ」
「....そうなんだ」
フェンはアルネアにくっつき怯えながらも洞窟をちらちらと見ている。
「クノイチさんが来た」
そう言ったソートに反応してアリスが立ち上がる。
「よし来た!行こう!」
それをラフィネは慌てて抑える。
「まだキングさんが来てないです!」
「ぶー」
「お待たせしました」
「悪いな」
そこに王覇とクノイチが到着する。アリスがすかさず言う。
「行こう!」
ラフィネは今回、アリスを止めなかった。全員が頷き、洞窟に入っていった。
暗い洞窟の中に影が7つ。王覇、アリス、クノイチ、ラフィネ、アルネア、フェン、ソートである。
「....なんか踏んだ」
アルネアがそう呟く。
「えっ、何!?虫?幼虫?生き物?」
フェンが慌てて首を周囲に向ける。
「おい、なんか来たぞ」
アリスがそう言って剣を抜いた。
「あれは、ミックラですね」
クノイチが魔物を観察してそう言った。ミックラは生きている物を何でも食べようとする食いしん坊である。見つけた者は倒すか、食われるか、選択肢は2つしかない。逃げようとしても、足の速さで追いつかれて食われてしまう。このミックラは目が輝いており、ナメクジのような形をしている。主に洞窟の中におり、光が苦手だ。そして、ニンニクと十字架も苦手だ。そして、一撃で仕留めたいならば、杭を1発打ち込めば消える。このことから、プレイヤーから『吸血鬼の成れの果て』という二つ名を貰っている。ちなみに、塩は効かない。
「ぎゃー!キモッ!」
大型のナメクジのようなミックラを初めて見たフェンは悲鳴をあげた。
「十字架持ってねえな」
「忘れてましたね」
王覇とクノイチがそう会話する。
「とりま、やるしかないだろ!」
アリスがそう言い、斬撃を飛ばす。それが見事にミックラに命中する。ミックラが一言言って逝った。
「本当は血が飲みたかったのに!!」
「「「....」」」
王覇、アリス、クノイチは無言でそれを見つめた。しばらくしてクノイチが口を開く。
「....なんと言うか、設定通りでしたね」
「声優の声だったな」
「倒す度にこの声が....」
王覇、アリスもそれに続いて呟いた。
「....どういうこと?」
ソートが不思議そうに聞いた。
「えっと、ミックラは倒す度に同じ声で同じセリフを言うんですよ。実際、初めて倒したものでして、まさか本当にこのセリフとこの声を出すのは思いませんでしたね」
「そういうことなんだ」
クノイチが誤魔化し、ソートは納得する。
ミックラは倒す度にこの『本当は血が飲みたかったのに!!』というセリフを言う。なぜか、ボス以外の魔物の中で唯一声優がついているという豪華さでありながら、形、設定が惨めすぎるため、プレイヤーには不評を貰っている。面白いことに、その声優は売れた。
「本当に斬撃をできるんだな」
王覇がそう言えば、アリスが不思議そうに言う。
「おかしいよな 」
「大剣を2本だが、速さ上がったんだろ?」
「そうなんだよ。不思議じゃね?」
「そうだな。まあ、後でステータスでも見ればわかるだろ」
「ちょっと楽しみだ」
「皆さん、ここで分かれ道です。どうしますか?」
クノイチが前を見つめてそう言った。前を見れば、二つの空洞がある。
「あ〜、どっちだったか」
「右じゃなかったか?左は宝だろ?」
王覇が悩み、アリスが答えれば、クノイチがアリスに同意した。
「では、お宝を先にもらいましょう」
そう言って進み出すクノイチ。
「ちょっと待て」
それを王覇が止めた。
「何でしょうか?」
「念のため、二手に別れないか?嫌な予感がする」
「キング....それフラグじゃね?」
「俺の....右目が....そう言っている」
「....キング」
アリスが蔑んだ目で王覇を見た。
「冗談だ。思い出した。確か、宝箱を手に入れるともう一つの穴が閉じる。宝を戻すか、1度帰るかしないと進みなくなる。確か、この洞窟はクリアすれば洞窟内にいる仲間は全員城に転送される。だから、2人と5人に別れよう。2人の方はお宝を貰ったら、待機している。それがお宝を貰える方法だな」
「そう言えばそうでしたね」
クノイチが王覇を肯定した。
「どう分かれる?」
「じゃんけんで負けた2人でいいのでは?」
「「「「じゃんけん?」」」」
キャラ達が首を傾げる。
「知らないのですか」
クノイチが4人にじゃんけんを教える。
「....面白い」
アルネアが教わった後にそう呟いた。
「では、始めましょう」
クノイチがそう言い、拳を握った。