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異世界での死と生

閉じていた目を開けると、綺麗に整理された黒曜石の通路に立っていた。

周りを見渡してみるが、誰もいない。

通路の所々が光っていて、薄暗い通路をぼんやりと照らす。

先に転移?された人達は別の所だろう。

完全ボッチの完成である。

突っ立ていてもしょうがないので、前に向かって歩いてみる。

歩き始めて十数分、まったく景色が変わらない。

異世界とかダンジョンとかである、無限ループってやつだろうか?

そんなことを考え始めた時に、分かれ道にぶつかった。

右か、左か……『声』に聞いてみた。


「どっちだと思う?僕は右かな」

《喰らえ》


何時も通りだ。

喰えと言われても、食べられそうな物は何もない。

しょうがないので、右へ行く。

数分歩き続けていたら、広い部屋に出た。

その部屋の真ん中にポツンと置かれた、小中大の宝箱。

なんとなく嫌な予感がしたので戻ろうとしたら、通路が消えていた。

何時の間にか、出入口の無い密室空間に変化していた。

嫌な汗をかきつつ、喉を鳴らして宝箱の前に立つ。

大きい方が良い物が入ってる、そう思うのが普通だ。

だが、物語では大きいのより小さい方が安全だ。

では、中くらいのはというと、大小どちらかを選べないならこれが一番いいだろう。

普通の物が入ってそうだからだ。

なので僕は、中の宝箱を開ける。

そっと宝箱に触れ、意を決して開けた。


「……ん?」


閉じていた目を恐る恐る開くと、中の宝箱の中には一冊の白表紙の本が入っていた。

本に触れてみると、光になって手に吸い込まれた。

ビクッとなったが、あの子供の言っていたインベントリ機能が働いたのだと納得。

で、大小の宝箱が残った。

消えたりしないから、もしかしたらまだ開けられるのかもしれない。

小の宝箱を開けてみる。

中には一粒の種が入っていた。

それを見ていたら『声』が少しだけ強く反応した。


《喰らえ!》


ちょっと嫌だったが、他に食べる物も無いので種を手に取り、口に含んだ。

ヒマワリの種ぐらいの大きさだったので、噛まずに飲み込む。

『声』が数秒止まり、何時もの『声』に戻った。


《喰らえ》


身体に異変とかはないので、大の宝箱を開ける。

中には、テニスボールサイズの真紅の卵が入っていた。

明らかに宝箱の大きさとつり合っていない。

とりあえず卵を手に取る。

何時もなら『声』が喰え喰えと言うのに、今回は黙っている。

何も言わないのはとても珍しい。

掌に乗っけて卵を見ていると、卵が割れた。


「きゅ~」


赤くてもこもこしている雛鳥が生まれた。

くりくりっとした蒼い瞳が僕を見上げる。

小さな翼を広げて、掌の上でピョンピョン飛び跳ねる。


「きゅ!きゅ!」


僕が痩せていれば胸元のポケットに入れてやれたのだが、生憎僕は痩せてない。

なので、頭の上に乗っけて見た。


「きゅ?きゅきゅ!」


頭の上を何かが動いているのがわかる。

大丈夫そうなので、乗っけたまま移動することにした。

でも、移動する前にインベントリから先ほどの本を取り出す。

表紙は真っ白で何も書かれていない。

本を開いてみると、一文だけ書かれていた。


【世界に真理は存在するのか】


たったそれだけしか書かれていなかった。

ページをめくってみても真っ白。

パラパラめくっていって、最後のページを開くとまた一文。


【希望は絶望に、絶望は希望に、全ては想うままに】


僕には意味が分からなかった。

インベントリにもう一度しまって、出口を探し始めた。

本を読むために座っていた宝箱から下り、振り向いてみたら黒い影が立っていた。

見た瞬間、自分が死―――


《喰らえ》


『声』を聴いて正気に戻る。

幻覚か催眠か、ゲームっぽく状態異常かわからないが、何かされたのは分かった。

離れた場所に立つ黒い影から視線を外さないでいると、パッと目の前に移動した。

次の瞬間には腕が引き千切られ、宙を飛んでいた。

何をされたのか、まったくわからなかった。

一瞬過ぎて、痛みすらない。

頭の中で理解した。

僕は、死ぬんだと。


《―――》


『声』が聴こえない。

諦めた僕を見捨てたのか、ただ単に僕が聴けなくなったのか、もうすぐそれさえ考えられなくなる。

黒い影に向かって落ちてく自分を、見ない様に目を閉じた。

頭の上の雛鳥には申し訳ない。

生まれたばかりなのに、死んでしまうだろうから。

僕が宝箱から出さなきゃ、別の人が出していただろう。

その人だったら、きっと外まで行けただろう。

異世界に来る前からそうだ。

僕なんかに優しくしてくれる人と仲良くなれば、その人は酷い目に合う。

その人は気にしてないと言ったけど、僕には耐えられなかった。

だから、誰とも係わりたくなかった。

僕は世界にも、神にも、運命にも、嫌われている。

憎んだことだってある、呪ったことだってある、泣き叫んだことだってある……『声』だけが知ってる、僕の醜さ。

それも、今終る。


「きゅ!?」


雛鳥の声が聞こえた。

衝撃が僕を襲う。

身体を貫かれたのだ。

皮膚が抉り取られていく。


《―――え》


心臓をトラレタ。

肉ガ千切レル感覚。


《―――らえ》


生暖カイ血ガ、視界ヲ染メル。

ボクハ、シヌンダ。


《―――喰らえ》


……


《全てを喰い散らせ》



◆◆◆



「きゅ!きゅ!きゅきゅ!きゅ!」


雛鳥の声が聞こえた。

目をゆっくり開けると、赤い毛玉が目に入った。

雛鳥なのだが、ゴルフボールサイズがテニスボールサイズになっていた。

雛鳥に手を伸ばした時、異変に気が付いた。

自分が何故生きているのか、千切られた腕が何故戻っているのか、そして何故何時も見ていた肉厚のブヨブヨした手ではなく細めで綺麗な手になっているのか。

身体の痛みも感じないので起き上がって身体を見下ろすと、痩せていた。

今までぱっつんぱっつんだった服が、だぼっとしていた。

というか、全体的に小さくなっていた。

何かが可笑しい。


「そうだ!ステータス!」


自分に何が起こっているのか、それを確かめるつもりでステータスを見た。



★★★



名前・遠山 深都

職業・未定

LV・48

筋力・55

耐久・25

魔力・5000/5000

闘気・5000/5000

速力・108

幸運・240

それなり:63/100


所持スキル一覧

【魔力操作】0/100

【闘気操作】0/100

【魔力具現化】0/1000

【闘気武器化】0/1000

【暴食】MASTER

喰らった相手の魔力と闘気を手に入れる。

詳細不明。

【運命の種子】MASTER

一日一回何かが起こる。


所持称号一覧

【???の主】

???に主として認められた者の証。



★★★



かなり変わっていた。

僕が痩せたのは、何かが起こった結果なのだろう。

???は今掌に乗って僕を見上げている雛鳥のことだと思う。

何が何だかわからないが、『声』が黒い影から僕を助けてくれたということは分かった。


「……ありがとう」

《喰らえ》


何時も通り過ぎて少し笑ってしまった。

ステータスを見る限り、黒い影の魔力と闘気を5000手に入れたようだ。

レベルが上がっても僕自身の魔力も闘気も上がらないらしい。

ちょっと落ち込む。

いろいろ試したいところだけど、ここから出ることを優先しないといけない。

グルッと部屋を見回すと、黒い影が現れた所の壁の下にダクトのような穴があった。

今の身体なら、ホフクすればギリギリ通れる。

雛鳥を先に行かせ、それについて行く。

ホントにギリギリなので、雛鳥を頭に乗せながら行くことが出来なかった。

数十分モゾモゾ移動した結果、やっと外に出れた。

外の景色を見て、呆然とした。

今僕がいるこの場所は、雲と雲の間(・・・・・)だったのだ。

立ち上がって今までいた場所を見上げる。

黒と白の色合いで威圧感のある城だ。

草の生えた土の上を歩き、下を見下ろせる位置からそ~っと下を見る。

丁度雲の切れ目だったらしく、雲の下が見れた。

海である。

この場所はゲームで言う所の、隠しステージなのだと思い至った。

上と下に雲があり、明らかに存在を隠されている。

この世界がどんな世界かわからないが、この場所が異常なことだけはわかった。

掌の雛鳥と顔を見合わせ、これからどうするか決める。


「どうやって降りる?」

「きゅ?きゅ~きゅ!」

「自分が飛ぶ?いや、大きさ的に僕が置いて行かれちゃうよ」

「きゅ!?……きゅ~」

「ほらほら、落ち込まないの。とりあえず、スキルを使ってみよう。上手くいけば下まで降りられるかも」

「きゅ?きゅきゅ!」


雛鳥と何故か会話できるが、特に気にしない。

異世界だからの一言で片付けられる。

そして異世界だからこそ、黒い影の様な危険な存在がいることを思い浮かべる。

だから僕は、この異世界で生きる為に自分のことを少しでも知る努力を始める。

ステータスでの身体能力の違い、スキルの使い方。

今はこれだけしか調べられないけど、それを調べるだけでこれからが変わっていく。

死を経験し、生を得た。

何も無い、何も残らない、死。

僕はもう、生きることを諦めたくない。

絶対に死にたくない。

どれだけ辛くても、苦しくても、痛くても、生きてみせる。

『声』が生かしてくれた命を、無駄にしない為に。


《喰らえ》

「そうだね……生きる為に、命を喰らおう」

「きゅ!」


僕は、生き抜いて見せる……この世界を。

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