ACT.1【PROLOGUE】
この物語はフィクションです。
この物語の舞台は現実の世界とは全く関係ありません。実在もしくは歴史上の人物、団体、国家、領域その他固有名称で特定される全てのものとは、名称が同一であっても何の関係もありません。
カッチコッチ、カッチコッチと時計の針が動く。その音はとある屋敷の一室の中にしか聞こえず、屋敷全体には響いていない。
故に、その一室にいる一人の男にしか針の動く音は聞こえなかった。男は、本棚が並んだ狭苦しい部屋の中で椅子に座っている。すぐ目の前には机があり、その脇にはこの部屋を照らすランプが置かれていた。
ランプの中でユラユラと燃え揺れる炎は男の手元にある資料を明るく照らす。その資料に目をやりながら、男は一言呟いた。次の瞬間、手元にあった資料が一瞬で灰になり崩れ落ちる。
「時は……満ちたか」
ポツポツと、屋敷の外は雨が降り出し、次第に大振りへと変わっていく。恐らく、他にこの部屋に誰かいたとしても、先程の彼の言葉は雨の音で掻き消されていただろう。
それ程、男の呟きは小さかった。男は黒い神父服に身を包んでおり、首には十字架のペンダントをかけている。この格好だけを見ればただ一際に神父だと決めつけるだろうが、彼が先程起こした奇怪な現象を見れば魔法使いや超能力者だと錯覚するに違いない。
「ようやく、私の願いが叶う」
洋館とも呼べる屋敷の一室で男はニヤリと口元を上げ、ガタっと音を立てて椅子から立ち上がった。そしてゆっくりとした足取りで等身大程の大きさである窓に近付き、閉めていたカーテンを思い切り開けた。
外は土砂降りの雨が続いていて、時折雷と思える光と音が響いていた。窓から見える景色は庭園。晴れていたらそれはもう綺麗極まりないだろうが、生憎の土砂降りでその様子は一変し、虚しさと寂しさに包まれていた。
そしてその男は、外で起きている豪雨を一夜が明けるまで見つめ、過ごしていった。
◇◆◇◆
「本当に行くのか?」
「ええ、やっとアイツの居所を知る事が出来たし、急がないと逃げられるかもしれないしね」
二人の女性がビルの一室で話していた。暗がりで容姿は分からないが、声音からして女性だとは聞いて取れる。
クールな性格を予想させる口調の女性はもう一人の女性を心配する様に話しかけた。その声音は本心から心配しているものではなく、ただの確認という意味で尋ねたものだろう。それを理解しているのか、もう一人の女性は軽く受け流す。
「橘町……意外と近い所にいたとはな」
フゥッと煙草の煙らしきものを口から吹き、呟いた。その呟きに答える様にもう一人の女性はフッと相手を認めるような笑みを作る。
口元を緩めながらその女性は両耳にイヤリングを付けると扉の前で立ち止まり、この一室に一言を残す。
「正に灯台下暗しね……。でも、今度こそ終わらせるわ」
バタン! と少し強めに扉を彼女は閉めて去った。残った女性はそんな彼女の様子を見てやれやれと呆れている。
「終わらせるね……終わりは始まりを呼ぶ。それは即ち――――」
最後の声は降り出した大雨によって掻き消された。
◇◆◇◆
「ん?」
夜、一軒の家の一室で一人の少年はふと雨が降り始めた空を見る。しかし、チラッと見ただけで少年は窓から目を逸らし、一人呟く。
「雨だよ――――母さん」
その声もまた、外で降り続いている大雨によって掻き消された。
To be continued.
皆さんはじめまして、霧生と申します。以前もこのサイトでお世話になっていたのですが、ちょっとした事情で一旦抜けた身ではありますが、今後ともご贔屓に。自分が昔何を使っていたのかは秘密です♪
未熟故に、まだまだ至らない所も多いでしょう。しかし、俺は結構打たれ弱いのであまり厳しいご指摘はご遠慮下さい。
あくまでも、ソフトによろしくお願いします。
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2011/05/23 文字修正