新生
夢を見ていた。
長い夢。
30と幾年かの夢。
思えばつまらない事に拘り前に一歩踏み出せなかった。それは後悔と呼ぶには遠く、諦念と呼ぶには近すぎた。
驚くほど近くに死がいる。いや、俺が死を纏ったのか、あるいは死そのものなのかもしれない。
最初に感覚が消えた。いずれ全てが溶けていく。そんな気がする。
最後に消えるのが感情であると信じていたい気もする。
それは突然始まった。
暗い水底へ沈んでいた身体が勢いよく引き上げられる、そんな感覚だろう。
失われた感覚がものすごい勢いで俺に回帰していく。
水面へ引き上げられる『俺』は、水上にある生の光に眼球を焼かれ必死にありもしない瞼を閉じようとする。
焼けるような光、洪水のように大量かつ短期間で回帰していく感覚に、臆面もなく叫ぶ。
俺の意識の中で虚しい反響を産むだけだったその音のない叫びは、微かに音を伴いだした。
しかし、 音を伴い出した叫びは卵の薄膜のような柔らかい何かに遮られ、本来の音声を失っていた。
(破りたい)
感覚の瀑布の中にいる俺の意識はそこから逃げ出す穴をそこに見出した。
全身でぶつかり、爪を立て、ひっぱり、薄膜に小さな穴ができた。
そこへ叫びをねじ込んだ。ありったけの力で、意識を全て使って。
叫びは薄皮を引き裂き完全な音となった。
「あ゛っ、あ゛あ゛っあ あーー! あーー!」
それは産声であった。
同時に意識は水上に投げ出された。
肉体という形を伴って。




