真っ白な神
ヨハネはその後、イエスに説教めいたことは言わなくなった。
イエスのことに全く構わない。話しかけたりはするのだが、食事や寝床など、イエスは自分で準備せねばならなかった。
「なんなんだ。あいつは!大人のくせにっ」
そう言ってイエスは、はっと気づく。
自分は子供なのだ。何もできない。誰かにすがらなければ、誰かに導いてもらわねばならない子供。
「そうか・・・」
自分は自分が偉いと思っていたが、自分は何か尊敬されることをやっただろうか?
「何もやってない・・・」
イエスはヨハネの隣に座る。ヨハネは目を向ける。
「俺って一人では生きていけない、子供なんだな」「そうだ。けどね、大人だって一人では生きていけない。だってこうやって群れて国を作ったんだからね」
ヨハネは微笑む。
「俺、間違ったことを・・・」
「イエス。君はその罪をいつかある形で償わなければならない。その日までその罪を背負い続けるんだ」
「ある形?」
「君は君のままでいい。真っ白じゃない。黒いところも灰色のところも、全て君だから」
ヨハネは空を見上げる。青い空。
イエスは隣で寝息を立てていた。
久々にご飯をたっぷり食べて眠たくなったのだろう。
「こういうところは子供らしいな」
ヨハネは苦笑する。
「私も間違っていた。君をメシアと知って、間違いだらけの君を見て、絶望した。勝手に君の中に真っ白なメシアを望んだんだ」
人は勝手だ。自分の汚さには目を背け、メシアには白さを求める。
真っ白な人間は既に人間ではなく、人間に絶望を感じる神だということに気づかない。本にも書いてあるではないか。間違った人間に嫌気がさし、神が大洪水を起こし、世界を滅ぼした、と。
ヨハネに二人の男が近づいてきた。
「ヨハネ。ヘロデさまのご命令だ。来い」
ヨハネはにこりと笑った。
ヨハネはイエスを起こす。
「ちょっと行ってくるよ」
「どこに?」
ヨハネは黙って上を指差した。
二日後、ヨハネは胴体だけで帰ってきた。