羨望
イエスはそこらへんにある木を蹴りつける。
「くそっ!」
ミリアムの顔を思いだすと、虫ずが走る。
あの、泣き顔。自分だけが悲劇のヒロインとでもいうような。
どすん。
子供がイエスにぶつかった。イエスより幾分か小さい子供。
「ご、ごめんなさい」
子供はおどおどと謝る。
「トムー!?」
遠くから子供の母親が駆けてくる。
それほど美人じゃないが息子が心配でたまらないという顔。
無性にむしゃくしゃする。
イエスの母親は美人だし、この子供の母親よりもずっと品がいい。なのに、何故、この子供に嫉妬せねばならないのか。
(この子供が死んだら、母親はどういう顔をするだろうか?)
ほんの些細な興味。
「きゃー!トム!」
子供の母親の悲鳴が辺りを包む。
子供は枯れた木のようにしわくちゃになって死んでいた。
同じころ、ガリラヤに一人の少女がいた。
「マリア!待ってよ」
「遅いわよ、ヨハネ」
マリアとヨハネは双子の姉弟。
二人の家はユダヤの古い王家、ベニヤミン族の長の家だった。
だから、家はそれなりに裕福だった。貴族たちとの交流もあり、何不自由ない生活だった。
「早くしないと祭が終わっちゃうわよ」
「お父様とお母様に言わなくても大丈夫かなぁ」
「いいの!お母様へのプレゼントを探すのよ!」
息巻くマリアにヨハネは必死についていく。
この二人が後にイエスの弟子となり聖人として名を連ねることとなるマグダラのマリアとヨハネである。
2010/10/22