父の家
イエスは神殿へと向かった。
イエスはただ自分のルーツを知りたかった。
「開けてください!」
神殿の門扉を叩く。ふいに黄色の髪をした青年が姿を現した。
「イエスかい?」
初めて会う青年に名前で呼ばれて少し驚く。
「なんで・・・?」
「ああ。僕には少し予知能力があるんだよ。僕には見えてたんだ。私の息子が神殿に来るのがね」
「え・・・?」
「君は私の息子だ。そうだろう?イエス」
そういえば、色合いのよく似た黄色の髪。
「お父さん?」
「ああ・・・。さあ、おいで。君は本来ならもう少し早く神殿に来るべきだったのだから」
イエスは神殿の中へと入っていった。
翌朝。ミリアムは顔を青くして、神殿を訪れた。その後ろではヨセフが黙り込みながら、馬を宥めていた。
イエスはラビたちと語らっていた。
「イエス!どういうつもりなの!?」
「何を怒ってらっしゃるんです」
「当たり前でしょう!?」
「ここは父の家だと言うのに?」
ミリアムは息を飲む。
イエスは母を憎んだ。誇り高いラビの子だと教えなかった母を。神殿に預けず、みすみす父の暴力に曝した母を。
「お母さんは僕より、あの男のほうが大切なのでしょう?」
母より女を選んだ、哀れな売女。
「なら、僕なんてほっといてください」
イエスの頬をミリアムの手がはたいた。
イエスはきっ、とミリアムを見る。
ミリアムは泣いていた。
月日が経つのは恐ろしい・・・。