小話その1【はつこい】
「ナタリーの初恋は何歳だった?」
「えっ?!」
最近恋について考えることが増えたので、まずは身近な人に聞いてみることにしました。
「聞いたら駄目?」
「いえいえいえ。大丈夫です!」
やりました。まずはナタリーの初恋話です。
「私は10歳の頃でしたよ」
「それって早いの?遅いの?」
「どうでしょうか。まあ、普通?」
ふむふむ。ということは、私もあと一年くらいで恋ができるかもしれません。
「両親が初めてお芝居に連れて行ってくれたんですけど、それに出て来る騎士様が格好良くて!」
やっぱりナタリーは騎士様が好きなようです。それとも、初恋の影響で今でも理想が騎士様なのでしょうか。
「もう、どうしてももう一回会いたいっ!てワガママを言って、最終日に小さな花束を持ってもう一度観に行ったんです」
「まあ。それで?」
「お芝居が終わって。そうしたら突然その騎士様がヒロイン役の女優さんの前で跪いて」
「ん?」
「公開プロポーズをしました……」
「え?!」
「女優さんは嬉し泣きしながら承諾して、観客はスタンディングオベーションでした~。
たった3日間で失恋した苦い初恋です」
そんなことがあるものなのですね。
「まあ残念でしたが、おめでとうございます!って花束を渡したらすっごく嬉しそうに笑ってもらえたんで、今ではいい思い出ですね」
「初恋とはほろ苦いものなのね」
「大人への第一歩かもしれません。なんて格好付けてみました!」
「それでも、おめでとうを言えたナタリーは素敵だわ」
「ホントですか?」
照れ臭そうに笑うナタリーは可愛いと思います。
「じゃあ、マルクは?」
「私もですか」
「死なば諸共です!」
「……初恋を語ると死ぬの?」
いつからそんな危険なお話になったのでしょう。
「いいですけど。私は騎士見習いになったばかりの頃ですね」
「まあ。どんな方だったの?」
「訓練場近くのパン屋で働いている女性でした。いつも元気で明るくていい匂いがする」
「いい匂いって……パンね?」
「そうなんです。彼女が近くに来るとお腹が鳴るから困りました」
「アハハッ!」
駄目だわ。思いっきり笑ってしまったじゃない。
「告白はしたの?」
「いえ。相手は年上でしたし、たまに見かけたりすれ違うだけで。今日も楽しそうだなとか、ただ、その笑顔に元気を貰っていたというか」
何だか素敵なお話です。好きな人の笑顔にはそんな効能があるのですね。
「でも、そうやって遠くから見ていたら」
「見ていたら?」
「だんだんお腹が大きくなってきて」
「え」
「どうやら既婚者でした」
「……まあ」
何ということでしょう。初恋とは叶わぬものなのでしょうか。
でも。ナタリーはやっぱり寡黙な騎士様が好きで、マルクは元気で明るい笑顔が素敵な女性が好きなのね?
それって──
「ブランシュ様の初恋はエルフェ先生ですか?」
なぜここで兄様の名前が?
「だって兄様よ?」
「では、リシャール様は」
「今では兄様ね」
「ロラン様は!」
「…わんこ?」
「あ、一番酷い」
「じゃあ、王子殿下!」
「………イチゴしか出てこない」
「道のりは遠いですぅっ!」
「ごめんね?」




