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6.薄情な人達


魔力過多症とは魔力が多過ぎるというよりも、上手く循環させられないことにより体に異常をきたしてしまう病のことです。

魔力が多いだけなら幼い頃の兄達のように余剰分を周囲に放出して体を保つ事ができます。

ですが、ミュリエルのように上手く循環させられない子は放出の仕方も分からないので、普段は内服薬で魔力の生成を抑え、あとは魔力操作が上手い人に発散を手伝って貰うのが一般的です。

ですが、他人の魔力を操作するというのはとても難しく、表面上をサッと布で拭くような程度しか魔力を抜き出すことができないので、子供の死亡率としてかなり上位にあたる病なのです。


でも、本当はもう一つだけ手があります。

それは互いの魔力機関を繋げ、循環の仕方を教えてあげることです。

一度道さえ作ってしまえば、その後は自然と魔力は流れ出し、上手く循環させられる。

ただ、この方法は魔力の近い血縁者で、さらに緻密な魔力操作が出来る者に限ります。下手をすると、施行者にも命の危険が伴う治療法なので、きっとお母様達は行っていないのでしょう。


さあ、ミュリエル。あなたは本当に私の妹かしら。

自分で言うのはなんですが、私は魔力操作がとても上手いと自負しています。

だから暴走することなく、自らの力を石にすることもできる。

あの時は知りませんでしたが、通常の魔石は空の器に力を注いで作るらしく、私のように魔力そのものを凝縮して石に変える方法はかなり難易度が高いのですって。


だから、魔力回路のリンクだって理論上はできると思うのよね。


ゆっくりとミュリエルの心臓にある魔力回路に触れる。

暴発寸前の熱さに思わず手が離れそうになるのを堪えます。


ゆっくり……少しずつよ。


ドロリとまるで溶岩が流れ出てくるような熱さが辛い。

幼い頃から何年も溜め込み凝縮された魔力はひどく淀んでいて、受け入れる私まで腐っていきそうな不快感。


これは確かに、あと少し遅ければ死んでいたわね。


その淀みを一度私の中に受け入れ、少しずつ薄めていく。


痛いし熱いし苦しいし……もう、最低だ。


投げ出したくなるのを必死に我慢して少しずつ循環させる。


「お、おい、お前!何をやっているっ?!」


……うるさいな。無能は黙って見てなさい。


「パスカル、ブランシュはミュリエルを治してくれてるのよ」

「は?こんな小さいのがそんなことできるはずがないでしょう!下手なことをして何かあったらどうするのです!」


ゆっくりと慎重に、癒着している回路を少しずつ剥がし拡げ魔力を流していく。

こっちはミリ単位の仕事をしてるのよ。本当に黙って、息すらするな!


「おい!聞いてるのか!」


突然肩を掴まれて操作がブレそうになる。


「……マルク。これ、邪魔よ」

「畏まりました」

「おいっ?!何でチビの言う事を聞くんだ!」

「チビではなくブランシュお嬢様です」


マルクは役に立つわね。無事に終わったら魔石をあげましょう。

……無事に終われるかな。

頭が痛いし、心臓も苦しい。私の魔力回路が悲鳴を上げています。

いくら魔力操作が上手くても、私自身はそこまで魔力量が多いわけではないのよね。

でも、少しずつ動き出した。淀んでいた魔力が薄められ、澄んでいく。


ガンガンと頭が殴られているように痛む。

心臓がバクバクと暴れて本当に死にそう……


……どう?これ以上は限界だわ。


「お嬢様!」


繋いだ回路を切断した途端、力が抜けて立って居られなくなりました。(くずお)れた私を助けてくれたのはナタリーです。それからマルクも。


「ミュリエル!どう?痛いところはない?!」

「目が覚めてよかった、何か欲しいものはあるか?」


あの4人は私を見ることもなく、ミュリエルを囲んで涙を流して喜んでいます。

片や私は床に(うずくま)り、何とかナタリーに支えられ……いえ、マルクにまた抱き上げられたみたい。


「これはどういうことですかな」

「先生!ブランシュお嬢様を診てください!お願いします!!」


いつの間にか医師がやって来ていたみたいです。


「この子は?」

「ブランシュお嬢様です!ミュリエル様の治療をして倒れられたのです!」

「……治療?こんなにも幼い子供が?」


医師の言葉に、ようやく家族は私のことを見ました。お礼を言うことも、心配する声も無い、薄情な人達。


「ブランシュ様。お話はできそうですか?」


答えたいとは思いますが、上手く声が出ないので、少しだけ頭を横に振りました。


「では、今のようにお答えください。あなたがミュリエル様の治療をしたというのは本当ですか?」


今度は首を縦に振ります。


「その方法は魔力の発散ですか?」


今度は横に。


「……まさか、魔力回路を繋げたのですか」


この医師は優秀ね。すぐに方法に気が付き、こんな子供にできるはずが無いとは考えずにちゃんと聞いてくれるのだもの。

医師の目を見ながら、ゆっくりと頷く。


「……伯爵。この件は魔法塔に報告させていただきますよ」

「先生?!」

「お嬢様はどう見ても10歳以下だ。魔法を使っていい年齢ではないでしょう。さらに、大人であるご自分達ですら難しいと断念した治療法をこんな子供にさせるなど死ねと言っているようなものです」


真っ当な大人ってちゃんといるものね。

……駄目だわ。もう目を開けていられない。


「ブランシュ様、まずはお部屋を移動して治療いたしましょう」


先生の言葉に少しだけ頷き、私は深い眠りに落ちていきました。







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