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悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜  作者: ましろ
第一章 

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29.謝罪

 

「……意味が分からない。だったら僕のミスだって許されるはずだ!」


 まだ食い下がるんだ。変なところで根性を見せるのね。それともただ、止め時が分からないのかな。


「そうね。許されたからここにいるの。まだ子どもでよかったわね?魔法塔での教育で済んだことに感謝しなきゃ」

「……僕だって初めてのミスだったんだから家を出なくてもいいじゃないか。簡単に追い出すのは阿呆のすることなんじゃなかったの?」

「それはね、あなたの失敗は単純なミスではないからよ。

 これはあなただけの責任とは言えないから、可哀想だとは思っているわ。

 ただ、今のあなたでは、どうしても土台が歪んでいるから、これからどれだけその上に知識を積み上げても滑り落ちてしまう可能性が高いの。

 まずはあなた自身が一度その土台を壊し、一から築き直さないといけないから大変だとは思う。

 でも、魔法塔では魔力の暴走を防ぐために、感情の制御を指導するわ。それはただ押さえ付けるのではなくて、自分の感情や考えを見つめ直して、どうやったら心穏やかにいられるかを学ぶ場だから、今のあなたにはピッタリだと思うわ。

 遠回りに感じるかもしれないけど、大事なことよ。だからちゃんと真剣に学んで来なさい」

「……何それ。やっぱり分からない」


 兄よ。公爵家の方にその話し方はどうなの?

 お願いだからマナーもしっかり学んで来て。


「はいはい、そうね。一回で全てが分かるくらいなら魔法塔には行かないで済むものね。

 こういうのは主人か長男のリシャールが得意なの。私は短気で駄目だわ。

 さっきはごめんなさい、オレリー様に腹が立って言い過ぎてしまったわ。反省してます」


 そう言って双子達に頭を下げたから驚きました。


「でも、これだけは理解してほしいの。

 貴族でも平民でも同じ人間よ。その立場によって頭を下げたり下げられたりはするけれど、それは道具になったわけではないの。

 そうね。あなたの手や足になってくれていると考えて。そうしたらもっと大切にできるのではないかしら」

「……僕の手?」

「そう。手はあなたの望む通りにたくさん動いてくれるけど、もし無くなってしまったらすごく困るでしょう?」

「……うん」

「使い捨ての道具ではなくて、大切な手。いい働きをしてもらうためには、清潔に保ち、あなた自身が栄養を取り、ケアをする。ね?

 そう思うだけでちょっとは大切にしようかなって思えるでしょう?」

「……お母様はそんなこと言いませんでした」

「でしょうね。あの人とは考えが違ってよく喧嘩したもの」


 ああ、喧嘩した仲なのですか。というか、コンスタンス夫人はどかん!と叱ってから優しく諭すあたりが上手いなぁと思います。


「……お母様が間違っていたの?」

「全てがとは言えないわ。さっきの使用人を解雇する話だって、何でも許せばいいわけではないし、見せしめとして重い罰を与える人もいる。方法や考え方は時と場合にもよるし、本当に色々あるのよ」


 そうね。家によって決まりが違うとナタリーが教えてくれたわ。本当に色々な考え方があるのでしょう。


「ただあの時、ブランシュはその使用人のことを幼い頃から大切に自分を育ててくれた人だと言っていたでしょう?とても優しくて優秀だったと」

「…はい」

「ずっと家族と離れて暮らしていた彼女にとって、その乳母がお母様のような存在だったのだと思わない?」

「あ……」

「それなのに、どうしてその方はミュリエルのそばにいたのかしら?」

「え?……分かりません」

「ほら。想像力を働かさなきゃ」

「え、えっと、ミュリエルのお世話が大変だから?」

「そうかもしれないわね。そうして本当の家族だけでなく、母親のような存在まで本館に行ってしまったの。

 そして彼女はいつの間にかクビになっていた。

 さあ、あなたならどう感じる?」


 公爵家には伯爵家のことはすべて連絡済みなのかな。

 さっきは腹が立っていたから絶対に公爵家に行ってたくさん教えを請おう!と意気込んでいたけれど、こうなってくると少し……だいぶやらかした気がするわ。


「それは……悲しいです」

「え?」


 やだ、思わず声が出てしまったわ。

 でも、今、マイルズは悲しいって言ったの?


「想像力が足りないってこういうこと?」

「そうね。じゃあ、あと一つ。足りないのは何かしら?」

「……ブランシュ。酷いことを言ってごめん」


 まさか彼が謝るとは思いませんでした。

 どうせでもだってと続けるものだと……


「まだ許せません。……でも、ちゃんと謝ってくれてありがとうございます」

「そうね、いいのよ。謝罪とは許してもらうためにするものではないの。本当に心から悪かったと思う気持ちを表すものだわ。

 でも、ちゃんと言えたマイルズは立派だし、許せなくても謝罪したことに感謝できるブランシュも素敵よ」


 すると、信じられないことに夫人に抱き締められてしまいました。マイルズも何だか慌てています。


「ちょっ、何?!」

「あら、ただハグをしただけじゃない。なぁに?照れているの?可愛いわねぇ」


 だってお母様はそんなことをする人ではなかったわ。エマだって、お母様に叱られるからあまり抱きしめてはくれなかった。


「さて、宿に移動しましょうか。マイルズとばかり話をしてしまったから、着いたらパスカルとミュリエルとも話がしたいわ」


 優しく誘ってくださいましたが、ミュリエルはパスカルの後ろに隠れてしまいました。


「……やだ。兄様といる」

「あら、嫌われちゃったかしら?まあ、いいわ。ゆっくり行きましょう」


 夫人は特に怒るでもなく、笑顔のままです。

 こちらはというと……ああ、ナタリーが死にそうな顔になってるわ。





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