2.略奪は罪じゃない
最近分かったこと。
それは、いい子は損をするということです。
「でも、大人たちはいい子を望むのよね」
それは都合がいいから。
いい子とは、都合のいい子ということ。
「……ちょっと面白くないわね」
私は8歳になりました。まだ別館で暮らしています。
なぜ私だけこんな扱いをされなくてはいけないの?
トントンと机を指で叩きながら考える。
──私はどうしたい?
とりあえずこのまま都合のいい人間ではいたくない。
これは絶対だわ。
でも、嫌われるわけにもいかないのよね。
だって、嫌われていないはずの今でさえこの扱いなのよ?これで嫌われでもしたら、使用人がさらに減らされたり、教師が来なくなったりご飯が無くなってしまうかもしれないのです。
「私に興味を持たせたらいいのかな」
でも、どうやって?
「ねぇ、ナタリー。あなたはどんな人が好き?」
「えっ?!まさかお嬢様から恋のお話!」
恋って。私はまだ8歳よ?でも、呆れ顔の私に気付くことなくナタリーは理想の男性像を語り始めました。
「やっぱり優しい人がいいですね。私を一途に愛してくれて~、でも強い方も捨て難いです!騎士様が私のことを身を挺して守ってくれるとか~」
ナタリーは恋の話をするとクネクネするのね。でも、身を挺するって。
「あなたを守って死んだら嬉しいの?」
「ぎゃっ!死んだら駄目です!命懸けは本当に命を賭けたら駄目なんですよ。程良く危険な目に遭いながらも無事生き延びて、それくらい私を愛しているって姿を見せるからいいんです。死なれたら私が負担じゃないですか!」
ナタリー、恐ろしい子。あなたってば案外と酷いことを考えるのね。
でも、分かったかも。自分を犠牲にしてまで相手の幸せを願う健気な姿が心に響く。そういうことなのね。
でも、それって上手くすれば恩を売れるかも?
「それでお嬢様はどの本が気に入りました?」
「ナタリー、8歳の女の子に略奪愛の話を読ませるのは間違っていると思うわ」
人のものを取るのはよくないはずなのに、いざ、愛が絡むとなぜか有りになると知れたのはある意味よかったのかもしれないけど。
「あら?そんなお話、混ぜちゃいました?」
「混ぜちゃってたわ。だって王子様は婚約者がいたのに浮気して、さらにその婚約者が意地悪したからって断罪しちゃうじゃない?婚約者が浮気相手に怒るのは当たり前のはずなのに」
「あ、確かに。婚約者が意地悪だから気にしてませんでしたが、あれってヒロインの略奪愛ですね?」
でも、ナタリーのうっかりさんでちゃっかりさんなところが案外好きだったりします。
「ナタリーが私のお姉様ならよかったのに」
「……私が姉だったら毎日めちゃめちゃ可愛がりまくりですよ?きっと邪魔!って怒られる気がします」
ナタリーは本当にお人好しね。私のちょっとした言葉にすぐに涙ぐむのだから。
私はただ、こうして弱みを見せながら味方を作っているだけなんだよ?
「ナタリー大好き」
「私もお嬢様が大好きです!これからもずっとずっとお仕えいたしますね」
「…うん、ありがとう」
そう言ってくれて本当に嬉しいよ。
お父様次第で変えられてしまう程度の絆だけど、それでも、今だけでも。
だってエマがいなくなってから、私を大好きだと言ってくれるのはナタリーだけだもの。
さて。せっかくナタリーにヒントを貰ったのです。お母様達の攻略方法を考えなきゃ。
身を挺する、か。あんな人達にどうして、とは思うけど、このままいい子にしているだけだと、そのうち本当に存在を消されそうでちょっと怖い。
でも、この屋敷に私が助けに行くような危険なんて無いのよね。
じゃあ、魔石をプレゼントする?
でも、下手をしたら一生搾取されることになるかも。
あの人達が極悪人なのか、自分にばかり優しい人達なのか、ただの考え無しなのかが分からないから気を付けないとね。
ん~~~、あ。魔法!
「ナタリー、魔法の教本とかってあるのかしら」
「もちろんありますが、お嬢様はあと2年は習えませんよ?魔法を扱っていいのは10歳からですので」
「うん、ただ予習をしておけたらなと思って。
今から教本を読んでおけば、10歳になってすぐに魔法が使えるかもしれないでしょう?」
「そうですね、お嬢様は偶然だとしても自力で魔石が作れちゃいましたし。分かりました、用意しておきます」
「私が読みたがってるとは言わないでほしいの」
「それはいいですけど、絶対に無茶はしないでくださいね?」
「分かったわ」
もちろん、するけどね。
だって悔しいじゃない?私の家族は物語に出てくる優しい家族とは違い過ぎるもの。
誰も私に愛を与えてくれないのなら奪いに行けばいいのでしょう?
愛のためなら略奪は罪ではないのだから。