『後ろから…ピチャン…ピチャンと水音がする。え?これっている奴ですよね!?』
…これは…私が実際に体験した世にも恐ろしい……。
……背筋に冷水が伝う様な怖いお話です……。
……あの日。私の後ろから。
…ピチャン…ピチャン…と…水音が聞こえてきた。
ーーえ?これっている奴ですよね!?
私は独りきりの台所で、恐る恐る。振り向いた。
…これは…私が実際に体験した世にも恐ろしい……。
……背筋に冷水が伝う様な怖いお話です……。
初めてこの現象に遭遇したのは五年程前の事です。
私は、とある中部地方の愛を知る県に住んでました。
沖縄出身の私ですが、兎角中部地方の夏は暑い。
その年の夏も例年と負けず劣らず熱い暑い夏でした。
私の住んでいる長屋は築五十年程は経っており。
台所に備え付けられたエアコンも中々のオンボロ具合いでした。
「はぁ〜…ちんちこちんで、あちこーこーさぁ〜…」
その日も茹だる様な暑さでございまして、私は熱中症対策に電気代諸々は気にはなりますが、常に何故か電池が切れ気味の効きの悪いリモコンでーーピッ!と。そのオンボロエアコンを稼働させておりました。
「はぁ〜…ちべたくて(冷たくて)気持ちいい…」
オンボロとはいえエアコンは、まだまだ元気で現役でございます。茹だる様な暑さの台所が、まるで氷魔法にでもかかったのかと言う程にキンキンに冷えてゆきます。
「はぁ〜…これで、今日も何とか生きでるでねぇ…」
私は清々しい心持ちで独り台所で呟いた。
そしてその日の夜までは、何の変哲もない至って普通の日常生活を私は送っておりました。
一つ二つ与太話をさせて頂きますと私自身には、これっぽっちも霊感と言うものがありません。幽霊を見たことも無ければ気配を感じた事もありません。一説によりますと。陽キャ(明るい)人やエロい人(変態)には霊は寄り付かないのだそうでして、根暗な私は完全に後者の方でありました。それと言いますのも常日頃寝ても覚めても推しカプのムフフな変態妄想を頭の中や瞼の裏そして、心の中と繰り広げておりますのですから♡きっと涎を垂らしたキモヲタは幽霊も喰わないと言うものなのでしょう(^q^)
そんな霊感が皆無な私ではございますが、何故か私の周りの友人や実の妹や母に祖母そして、今の家族等周りの人間は所謂幽霊を見る人達。霊感の有る人達が沢山おりまして、そうゆう幽霊等の存在の話は幼い身頃より良く耳にする機会が沢山ありました。
例えば同じ沖縄出身の友人の怖い話。沖縄には《ユタ》と言いまして、青森で言うところの《イタコ》関東だと《ミコ》でしょうか、所謂。民間霊媒師を生業とする人達がおりまして、私の友人の祖母も所謂。《ユタ》と言う沖縄の民間霊媒師をしていたそうです。血筋なのかその友人にも幼い頃から霊感と言うものがございまして、突然何も無い天井の角に向かい『ーうるさい!!出ていけ!!ー』と怒鳴ることがしばしばございました。『どした急に!?』と私がその友人に訊ねるとその友人は『ああー何時もの事だからー気にしないで』と軽く手を振り言います。
『ー小さい頃からずっとだわけさ。アンタには、見えんと思うけど。あそこに髪の長い女の人がいてさぁ…ずっと。『…死ね…』って、暴言吐いてくるわけさぁー』
私は、その友人が指し示す。友人の部屋の天井の角を見るーーが、やはり私には何も見えない。
『でもさぁ。アンタが来るとさぁ。何時もより大人しくなるわけよぉ。たぶんアンタが変態だからだはずww』
と友人は笑いながら失礼な事を言うが、私が変態なのは事実なので致し方無い。麗しく恨めしい高校時代の夏休みの怖いお話である。
そして実の妹からは、実家の寝室の壁を黒猫が通過していっただの。母からは、雨の日になると何時も赤い傘を差した赤いレインコートに赤いレインブーツの幽霊が見えるだの。祖母からは、実家のトイレをオカッパ頭の白い着物を着た少女が覗いているだの。今の家族に至っては、長屋の二階に繋がる階段で大きな釜を持った死神がいただの。兎角もまあ沢山の幽霊話を聞いてきたわけである。そして、幼い頃から幽霊話を聞かされてきた私は何時しかその怖ろしくも魅惑的な世界へ憧れを抱く様になりました。見ることが出来ないモノへの憧憬と言いましょうか、私も一度で良い。幽霊が見たい。そんな思いを胸に秘め丑三つ時まで起きてみたり。暗い隧道で急に振り返ってみたり。天井の角を睨みつけてみたり。コックリさんに一人かくれんぼ等幼い頃から汎ゆる事を試してはみましたが、結局。大人になった今まで幽霊の《ゆ》の字も無い。あるのと言えば家の裏に銭湯の《ゆ》の字くらいの良く言えば穏やかで平和な日々、欲を言えばもう少し刺激があっても良いのでは?と思う日々。を過ごしておりました。
その日も特に普段と変わらず何も起こらない日々を過ごし。晩御飯時に刺激に飢えた私は台所にて少しでも刺激をと鍋に水を張り。具材を入れてカレールーと共に煮込みカレーライスを作っておりました。
ーーグツグツ。ーーグツグツ。
ーーグツグツ。ーーグツグツ。
スパイシーなカレーの香りが台所中に広がり。カレーの煮立つ音が心地よく鼓膜に響きます。
「はぁ〜…良い匂い…」と独り言た時でした。
ーー…ピチャン…ピチャン。
ーー…ピチャン…ピチャン。
とカレーの煮立つ音に紛れて不思議な水音が聞こえてきたのです。最初は鍋の蓋についた水滴が煮立つカレーの中に落ちる音かと思ったのですが、次第にその水音は大きくなり。
ーー…ピチャン!…ピチャン!
ーー…ピチャン!…ピチャン!
とカレーを煮込む私の真後ろから聞こえてくるのです。
「後ろから…ピチャン…ピチャンと水音がする。え?これっている奴ですよね!?」私は、背筋を冷水の様に冷たい冷や汗が伝ってゆくのを感じながら震える声で独り言ました。背後から何やら不穏な空気を感じます……。
…昔…祖母が《ユタ》と言う沖縄の民間霊媒師を生業にしていたと言う霊感のある友人が言っていた幽霊と遭遇する時の感覚の話を思い出しました。
『幽霊のさぁ。生前の死に方とかにもよるし感じ方も人それぞれだからさぁ。一概には言えんけどさぁ。大体幽霊が出るときってさぁ。後ろから嫌な空気感じるわけさぁ。何ていうの?冷や汗が背中を伝う感じ?』
「…バヤイ(ヤバイ)…これって、きたんじゃないの?」
ついに私にも幽霊が見える。その時が、今!!
ーーきたんじゃないの!?!?どっ、どうしよう!!
……心のゾンビ…違った…準備が出来て無い!!
幼い頃から幽かに夢見てた。一目で良い。
私も幽霊を見たい。その幽かな夢が今、後ろを振り向けば叶うかも知れない。でも、どうしよ!!
いざとなるとめっちゃ怖い!!これ!!
恐怖が九分九厘いや、十分十厘膝にキテる!!!!
ーーガクガク!!ーーブルブル!!
ーードギマギ!!ーードクドク!!
心の臓が喧々囂々やかましい!!
概ね恐怖と少しの好奇心が胸の中に渦巻いている。
好奇心は人を殺すと言うが、私は今宵恐怖心と好奇心がない混ぜになって死ぬるかも知れない……。
取り敢えず落ち着いて後ろにいるかも知れない。幽霊の事について一度落ち着いて考えてみよう。中部地方と言えば戦国時代の舞台である。やはり此処はオーソドックスに血だらけの落ち武者の亡霊とかだろうか?それとも或いは、井戸の中から這いずり出てきたような白い着物を着た水浸しでずぶ濡れの女の人の怨霊だろうか?
ーー…ピチャン!!…ピチャン!!
ーー…ピチャン!!…ピチャン!!
「ーーひぃ!!」
不意に後ろの水音が激しく大きくなり。私は独り悲鳴を上げるーーヤベェ!!ーー怖ぇええ!!
「神様仏様誰かしら助けて!!アーメン!!ソーメン!!ラーメン!!南無三!!」
私は、決しの覚悟で何かしらに祈りを捧げながら遂に後ろを振り向いたーーバッ!!…………。
ーー…ピチャン!!!!…ピチャン!!!!
ーー…ピチャン!!!!…ピチャン!!!!
そこで私が目にした光景は、どんどん大きくなる水音と凄まじく滴る水滴……そう。台所に備え付けられたオンボロエアコンの口から膨大な涎…もとい…水漏れが怒涛の如く流れ落ちて床やダイニングテーブルにイスを水浸しにしていたのだ……。まさしく水地獄……。
「ーーそれは、それで、怖い!!!!」
私は、独り台所に備え付けられたオンボロエアコンに向かい叫んだのだった。叫ぶ私の後ろでグツグツとカレーが煮零れた……。
その後、帰宅して来た家族にオンボロエアコンの詰まりを直してもらい事なきを得たが、それから毎年。真夏の時期になると晩御飯を作る私の後ろから(それも決まってカレーを煮込んでいる時である)…ピチャン…ピチャン…と…水音がする。その度に私は思うのだ。え?これっている奴ですよね!?と。
本気で毎年…毎回…ちゃんと怖い!!
ホントにいい加減買い換えようかな…エアコン…。
『後ろから…ピチャン…ピチャンと水音がする。え?これっている奴ですよね!?』
エアコン買い替えたい。
……ホラー!?三作目。挿絵と言うか表紙?
は私の家のオンボロエアコンです。
毎年…ピチャン…ピチャン…と。水漏れしております。
とても怖いです……。買い換えようかなホントに……。
お陰様で2025/8/6(水) のランキング
19 位[日間]ホラー〔文芸〕 - すべて
15位[日間]ホラー〔文芸〕 - 短編
97位[週間]ホラー〔文芸〕 - 短編
にランクインさせて頂きました。
とても嬉しいです。これからも小説家を目指して、
創作活動頑張ります。有難うございます♡m(_ _)m♡