1 突然現れた女神
頭の上には、積み上がったアニメ円盤の箱。
横には、三日前に食べたカップ麺の残骸。
そして俺は、スマホの充電コードに巻かれながら、今日も天井を見ていた。
そう、俺は──完成されたニートである。
きっかけは……まあ、あるよ。
ちゃんとある。
──あれは、ちょうど5年前の惨劇。
俺がバイト先に「今日は無理です」と言い、
推しに人生の全てを預ける覚悟で、テレビの前に正座したあの日。
『ユメイロブレンド』最終話。
アユミちゃん。
俺の心の支えであり、希望であり、世界の灯火。
内気で繊細で、自分を出せないけれど、それでも前を向いて生きようとする子。
そんな彼女を、いつも隣で支えていたのは──ユイちゃんだった。女の子の幼なじみ。
言葉にしなくても通じ合ってる関係。
あれはもう友情じゃない。とにかく尊い、あの2人の間は聖域だったよ。
視線。仕草。間。
全部が、愛の証明だった。
なのに──。
アユミちゃんは、ユウトの手を取った。
そう、突然出てきた新キャラ。
文化祭で「俺、お前のこと好きだったみたいだわ」とか急に言い出して告白してきた、まじであいつ誰だよ。SNSでも炎上してたからな?
「嘘……だろ……?」
俺はそのとき、心からそう思った。
そして数秒後には、胃がすべてを拒否した。
「ぅ…ヴォエ……」
ゴミ箱にすべてをぶちまけながら、俺は悟ったのだ。
この世界は、俺の感情を踏みにじって笑う場所なのだと。
◇
次の日から、俺は布団の中で暮らすことにした。
両親には「体調不良」とだけ伝えた。
スマホの通知は切り、SNSでは『ユメイロブレンド』をミュートした。
カップ麺を常備し、現実を断った。学校に最後に行ったのは卒業式の時だけ。就職なんてせずにだらだら過ごしている内に5年の時間が過ぎていた。
そして今、俺はここにいる。
完全体。究極進化。カップリング寝取られ事件を経た末路、それが俺──天野レン。
……まあ、そんな感じで、今日もだらだら過ごしてたんだけど。
天井から、突然光が差してきたのよ。
「へ?」
びっくりして起き上がると、そこには──
「こんにちは〜」
金髪でふわふわした服を着た、どう見ても女神っぽい美少女がいた。
──あれ?
なんか始まる感じ?
これ、もしや異世界転移フラグ??
でも、女神は第一声でこう言った。
「わたし、『ユメイロブレンド』大好きなんですぅ〜」
……なんだこいつ…