表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

プロローグ


高校の夏、その日は朝からずっと、胸がざわざわしていた。


曇り空。湿気の多い空気。髪はまとまらないし、コンビニのチキンは売り切れていたし。

きっと、嫌な予感というやつだったのだろう。

でも俺は、それを振り払うように、テレビの前に座った。


今日、俺の一年が終わる。

俺のすべてを捧げた、大切な物語──『ユメイロブレンド』。


その最終話が、いよいよ放送されるのだ。


リモコンの電源ボタンを押す手は、少しだけ汗ばんでいた。

部屋の照明は消し、スマホは機内モード、飲み物も準備してある。バイトも休んだ。

万全の布陣。精神統一。


そして画面が映り、物語が始まった。


白瀬アユミ。

彼女はいつも通りだった。

控えめで、繊細で、人との距離に戸惑って、それでも前を向こうとする姿は、やっぱり美しかった。


その隣にいるのは、黒神ユイ。

幼なじみの女の子。アユミにだけは遠慮のない、ちょっと乱暴な子。

でも、アユミが迷えば背中を押し、傷つけば怒り、泣けば黙って寄り添っていた。


そして、如月ミナト。

なんか最終話の3話前ぐらいから急に出てきた。まじでこいつ誰?


言葉にしない分、伝わってくる感情があった。

描写されなくても、そこにあるものが確かにあった。

俺は、そう信じていた。


──だから、その瞬間。


アユミが、ミナトの手を取ったとき。


世界が、止まった。



「あ……?」


声にならない声が漏れた。


画面の中で、ミナト──謎に現れた謎の男が──が、真剣な顔で手を差し出していた。


『俺、アユミのことが好きだったみたいだわ』


なんだお前殺すぞ。百合の間に挟まる気なら斬首されても文句言えないからな。


アユミは、迷ったような目をして、でも結局、その手を──掴んだ。


その光景をユイは、遠くから見ていた。

静かに、寂しそうに、それでも優しく微笑んでいた。


それを見た瞬間、胸の奥がぎゅうっと締めつけられた。


「嘘、だろ……」


俺の中で、何かがぽきんと音を立てて折れた。


最後のエンディングが流れる。

いつも聴いていた、あの主題歌。

なのに今日は、歌詞が何も頭に入ってこなかった。


目の前の“正しい”カップリングは、きっと多くの人が望んだ展開なのだろう。

でも俺にとっては──あまりに残酷だった。


俺が大切にしていたもの。積み重ねてきた感情。

あのふたりの、言葉にならない関係性。


それが、たった一話で、なかったことにされた。


テレビの画面がブラックアウトする。


リモコンを握ったまま、俺は、ただ座っていた。

目は乾いていた。泣けなかった。

悔しいとか、悲しいとか、そういうのを全部通り越して、ただ、空っぽだった。


そして


「ぅ…ヴォエ!!」


ゴミ箱に全てぶちまけた。やばい、胃ですらこの結末を否定している。アユミちゃんは幼なじみの女の子とくっつくはずじゃ??めっちゃ臭わせてただろ!それともなんだ?百合の間に挟まる男は斬首だって義務教育で習わなかったのかよ!


「終わったな……俺の世界」


その翌日から、俺は部屋を出なくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ