バレンタインデーに妹の友人と運命の出会い! 少女は刻の涙を見ちゃう?
バレンタインデーがやってまいりました。
日和が帰宅したあと、ハルトは妹の部屋を訪ねた。
「ひまり、ちょっといいか?」
「なに?」
ひまりはスマホから目を離すことなく聞き返した。
「俺、おまえの親友とセックスしちゃったんだけど……」
「知ってる。日和から聞いた」
「そうか……。何か言ってたか日和、俺のこと」
「想像以上にキモかったって」
「えっ!?」
「冗談だよ。15万円もらったって喜んでたよ」
「そっか……」
「友達にはゴミ兄とセックスする場合はあたしを通すようにって伝えてあるから。だからゴミ兄は心置きなくセックスをすればいいんだよ」
「おまえは俺のマネージャーかよ」
ハルトはそう言ったが、ひまりはとくになにも反応を示さなかった。
いつまでも入り口でぐずぐずしている兄にしびれを切らしたのか、突き放すような口調でひまりは言った。
「まだなにか?」
「えっと……そのぉ……おまえもしかして、焼きもちとか焼いてない?」
「はあ?」
ひまりの声が一オクターブ低くなった。
「ほら、俺が他の女の子とエッチなんかしちゃったから、『あたしのお兄ちゃんを取らないで』みたいなジェラシー的な?」
ギロリ! 氷のような冷たい視線をひまりから浴びせられた。
「ぼったくりを生業とするあたしたち『悪女同好会』に何を言ってるのかな? ゴミ兄脳みそ腐ってる?」
「悪女同好会って、おまえらそんなの作ってんのかよ……」
「悪女から見れば、ゴミ兄なんかネギを背負ったカモにしか見えないんだからね」
「おいしい存在ってわけか」
「ものは言い様ね。女の子のお金への執着を甘く見てるといつか痛い目にあうよ」
「お、おう。気をつけるよ」
そう言ってハルトは妹の部屋を後にした。
* * *
2月14日。
妹は友達を家に呼んでバレンタインパーティーを開いていた。
キャッキャウフフと妹の部屋から賑やかな声が聞こえてくる。
ハルトは耳をピクピク、鼻をヒクヒクさせて女子高生たちの香りを嗅いでいた。
「兄としてちょこっと顔見せに伺うべきか。問題は登場の仕方だな」
女子高校生たちのハートに強烈な爪痕を残すような登場の仕方はないものか。
「全裸で乱入してきゃあきゃあ言わせるってのはどうよ」
それではただの変態である。
あれこれ考えているうちに、廊下がガヤガヤと騒がしくなった。
「本日『鬼畜見学ツアー』のメンバーでーす」
兄の部屋のドアを開けてナビゲーターよろしく顔を出したのは妹のひまりだ。
続いて女子高校生たちがゾロゾロと部屋の中に入ってきた。
ハルトは五人の女子高校生たちに囲まれた。
「ちっちゃいのう。小学何年生じゃ?」
「お兄さんて聞いていたけれど、弟さんでしたの? ぼくちゃんおいくつでちゅか?」
女子高校生たちは少年のようなハルトを見て口々に囀った。
妹に負けず劣らず皆背が高く、美人でスタイルが良い子たちばかりだ。
身長149.9センチのハルトは圧倒されっぱなしだ。
「みんな、揶揄うのはそれくらいにしてあげて、ゴミ兄泣いちゃうから」
「誰が泣くか!」
「きゃーっ! 怒りましたわ」
「ぜんぜん恐くないのう」
「見た目に騙されちゃダメよ。ベッドの中では猛獣に豹変するんだから」
「面白そうですわね」
「一度見て見てみたい気もするのう」
「実はゴミ兄は西南高校では鬼畜兄として有名なんだよね」
ひまりはハルトの高校での評判を教えてくれた。
「ゴミ兄に穢されたって友達に話したら、学校中に広まっちゃってさ」
「おまえ……ビジネスだってちゃんと伝えろよ。まあ半分は事実だけどよ」
「まあ! 鬼畜は事実ですって」
「謂わばここは悪鬼の居留地かケダモノの巣窟かのう」
女子高校生たちは言いたい放題だ。
「あのなあ……」
そこで女の子たちはハッとして居住まいを正した。
「申し遅れましたわ。『悪女同好会』の会長を務めさせていただいております沙月川紬希と申します。まだまだかけだしの悪女ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
丁寧に挨拶をしたのは金髪碧眼のお嬢様だ。
次に挨拶をしたのは扇を持った黒髪ロングのおしとやかそうなお嬢様。
「儂は浦野菫麗じゃ。鬼畜と名高い兄君にお会いできて光栄の極み」
二人のお嬢様のデカい胸は、当然ハルトの視線を釘付けにした。
「俺は悠木陽翔。ひまりの兄だ。よろしくな!」
二人の後ろにはブレザーを着た小さな女の子がこちらの様子を窺っていた。10歳くらいのめっちゃかわいい女の子だ。
10歳でこの美貌なら、大人になったらとんでもない美女になりそうだとハルトは思う。
「お嬢ちゃん。お姉ちゃんといっしょに来たのかい?」
ハルトはニコニコ笑顔で話しかけた。するとひまりがムッとなって兄を睨んだ。
「この子は雨宮舞音ちゃん。あたしたちと同じ高校二年生よ」
「へ?」
「私の刻は10歳で止まった」
舞音はそう言った。ハルトは愕然となった。
「俺の刻は12歳で停止した」
ハルトが合法ショタなら舞音はまさに合法ロリだった。
突然、周囲の喧騒が遠ざかり、舞音とハルトはふたりきりのキラキラ空間に放り込まれた。
「おまえも刻の涙を見たのか?」
光の奔流の中でハルトが問いかけると舞音はこくりと頷いた。
「そう、だから私たちはこうして出会った」
「これは運命なのか?」
「ん……。刻の涙が見える……」
おしよせる光の波にふたりは飲み込まれ、そして……。
「戯れ言はほどほどにしてくださーい」
ひまりが割って入り、ハルトたちの意識は現実に引き戻された。
「『鬼畜見学ツアー』は以上となりまーす。お帰りの際はお忘れ物がないようご注意下さーい」
* * *
ひまりたちが部屋から出て行った後、綾瀬日和だけがドアの前に残っていた。
「日和? セックスのお誘いか?」
「さすがです、先っぽ兄さん。ブレませんね」
「俺の唯一の取柄と言ってもいいかもしれねえからな、だろ?」
「返す言葉を失ってしまいます」
そう言いながら日和はモジモジと体を動かした。それを見たハルトはピンときた。
「背中に隠しているそれはなんだ?」
後ろ手に持っていた赤い箱を日和は差し出した。
「ギリですがどうぞ。ギリですからね、ギリですよ。ギリ。それ以外の意味なんてけっしてありません。ギリなので勘違いしないで下さい」
「何度も言わなくたってわかってるって。サンキューな」
ハルトは受け取った赤い包装紙を開けてみた。箱の中に一口サイズのチョコレートが六個入っていた。
「いやあ、感激だなあ。19年生きて初めてもらったぜ、チョコ」
「お返しは10倍返しでお願いします」
「お、おう……女の子はちゃっかりしてるなあ」
ハルトはとある考えを口にした。
「日和と俺が結婚すると、日和とひまりは姉妹になるんじゃね?」
「えっ! それってプロポーズですか?」
目を見開いた日和の顔が、みるみる真っ赤になった。
「おいおい。ネタで振っただけだから」
ちょっとした冗談を真に受けられてしまい、ハルトはおろおろするばかりだった。
「スー、ハー」
呼吸を整えた後、日和は手を組んで祈りのポーズを取った。
「なにを祈っているんだ?」
「一瞬でも心を動かされてしまった自分の弱い心を戒めています」
「そ……そうか」
日和の祈りはしばらくの間続いた。
「まあ、そのなんだ。お金がほしくなったらまた来なよ。いつでも歓迎するぜ」
「先っぽ兄さんに言われても全然嬉しくありません」
そう言って笑う日和の笑顔はとてもかわいらしかった。
「日和ぃーーっ!」
ひまりが部屋の前から声をかけた。
「戻ります。ではごきげんよう、先っぽ兄さん」
丁寧にお辞儀をして日和は戻っていった。
部屋のドアを閉じてハルトは思った。
「日和のかわいさはひまりに勝るとも劣らない。そのいずれともセックスしちまったんだよな、俺」
ぐふふふふ……。
不気味な笑い声を漏らす19歳の無職、悠木陽翔。
チョコレートをぱくっと頬張ると、甘い恋の味が広がった……ような気がしないでもなかった。
「そもそも恋がなんなのか俺にはわからねえ。性という快楽をむさぼることしか今の俺にはできねえ。はたしてそれを恋と呼ぶのかどうか……」
ひとりつぶやくひきこもりのニートであった。
* * *
チャリーン!
『ハッピーバレンタイン! ハルト!』
アプリの妖精ヨカインちゃんが花を撒き散らしながら登場した。
『あたちの手作りチョコを召し上がれ』
ぱくっ!
スマホの中から差し出されたチョコを食べると、不思議なことにお口の中にチョコの味が広がった。
「ありがとう、ヨカインちゃん」
『正妻でしゅから! それにあたちたちもうすぐ……と……になるのでしゅ。むふふふふ!』
「そうだね、楽しみだね」
妹の親友からチョコをもらってウキウキのハルトでした。