8話…覚えていた白昼夢。
夢叶「私が父から暴力を振られても、その人がその傷を悲しんでくれて、それを忘れさせるかのような楽しい話をしてくれていた…。
それだけで、私は救われてた。」
なんということだ。夢叶さんは…覚えていた…?
でも、彼は『あいつは覚えていないけど』って、言っていたのに…。
希「……そう、なんですね。
あの、そのことを周りの方に話したりとか…」
夢叶「話したわ、勿論。
でも、お母さんは私がお父さんから受けている仕打ちで、心を病んだのだと思い込み、私を精神科に連れて行った。
そこで医者の下した結果は、イマジナリーフレンド、というものだった。」
そこまで僕と同じなのか…。
夢叶「だけど、私はそれを信じたくなかった。こんなに、私に優しくしてくれる彼が、私の作り出した幻だなんて…信じたくなかった。
でも、周りを心配させるわけにもいかないから…それ以来、その白昼夢のことは誰にも話さないことにしたの。
過去に精神科にかかっていた記録は、残念ながら残ってしまうから…学校の教師達にそれを突っ込まれても、不眠気味だったから、それで通っていた。そういうことにしてる。」
希「………」
夢叶「まあ、今ではもう見なくなったから…もしかしたら、本当にイマジナリーフレンドだったのかもね。あの頃は信じたくなくても…今でなら、そう思えてしまう。」
希「そんなことないですよ!」
と、僕はつい大きな声を出してしまった。
だってそれは…それは、僕と夢叶さんが、昔から繋がっていた証拠だから。
夢叶「びっくりした…急に大声出して、どうしたの?」
希「あ、すみません…つい…。
…でもきっと、それは幻でも、イマジナリーフレンドでもないですよ。
その人は…心の底から、夢叶さんのことが好きで、心配していたんですよ。」
夢叶「…そうだといいんだけどね。まあ、もう何も確かめようもないことだけど。名前だって聞きそびれちゃったし。」
希「あの…その人のこと、どう思っていたんですか?」
僕は、当たり障りのない感じで、そっと尋ねてみる。
もし、僕と同じ気持ちなら……
夢叶「どう思ってた……そうね、物好きな変人だと思ってた。」
と、夢叶さんは答える。
まあ、それだけで好きになってもらえるわけないか…。しかも、僕らの意思に関わらず、お互いの未来の自分が現れていたのだ。
自分の意思で現れていたのなら、もっとアピール出来ただろうが…。
夢叶「でも………たぶん、私もその人のこと、好きになってた。」
希「…!!」
夢叶「馬鹿げてるわよね。幻かもしれない相手を、好きになるなんて。
だけど…それでも、私はその人のこと、憧れてたし好きになってた。」
風がその場に吹き、夢叶さんの綺麗な長い髪が、彼女の横顔を見えなくする。おかげで、夢叶さんが今どんな表情で、そう答えているのかわからない。
でも……でも、僕と同じだった……。
もしここで、全てを打ち明ければ、彼女は僕のものになってくれる…?
いや、でも待て。急にそんなことを言われて、信じてもらえるだろうか。
答えはNOだ。夢叶さん自身言っているじゃないか。周りを心配させたと。それで話さなくなったと。
もし同じ体験をしたと言っても、信じてもらえず、寧ろ心配されるだけだろう。妄想だと思われるかもしれない。
僕らは現実で出会ってから、まだ2週間とちょっとしか経っていない。まだお互いのことを、全て知り尽くしているわけではない。それなのに、そんなことを言ったって…困惑させるだけだ。
希「…そうなんですね。」
僕は、そう答えるのがやっとだった。
言いたい。全てを打ち明けたい。僕が夢叶さんを探し求めていたことを…伝えたい。
過去に僕も、貴女に救われていたことを…伝えたい。
でもそれは、今じゃない…。
夢叶「まあ、もう昔のこと。その人にはきっと、もう二度と会えないだろうし、この気持ちを伝えたとこで、実体がないんじゃ、どうしようもないし。」
希「…じゃあ、もしその人が実体を持って、その…夢叶さんに会いに行ったら…その気持ち、伝えますか…?」
夢叶「…その人が、その記憶を持っているのなら、伝えるかもね。」
その答えに、半分希望が持てたが、半分落ち込んだ。
だって僕は、実体を持っているが、その記憶はない。そうなると、伝えてもらえない……それが答えだ。
それに夢叶さんは、その出来事は覚えているが、相手の顔などは覚えていないと言った。
なら、僕が名乗り出たとこで……。
希「…でもきっと、その方は今でも、夢叶さんの傍に居ますよ。」
夢叶「?何でそう思うの?」
希「僕の勘です。」
夢叶「……あんたの勘は、さっき当たったけど…まさかこれまで、当たるわけないでしょ。」
希「ふふ。さあ、どうでしょう。」
夢叶「何、その含みのある言い方…。変なの。
あ、あんたが変なのは元からだったわね。」
希「え!?ぼ、僕って変ですか!?」
夢叶「こんな平凡な大学生を好きなんて言う、超人気芸能人なんだから、そりゃ変でしょ。」
希「で、でも、芸能人皆が同じ業界の人とくっつくとは、限りませんよ!?
僕の友達だって、一般人の方と付き合っている人いますし…!」
夢叶「それは、お互いきっかけがあって、でしょ?例えば同じ学校の出身だったとか…。
だけど私達は、何のきっかけもなかったじゃない。だから変なのよ。」
希「うっ…」
確かに、打ち明けられない今では、そう思われても仕方のないことだろう。
夢叶「……ま、それがいいとこなのかもね。」
と、何か小さな声で夢叶さんは呟いた。だが、風のせいで僕はそれを聞き取れなかった。
希「?何か言いました?」
夢叶「べつに~。何でもないでーす。」
希「お、教えてくださいよ!」
夢叶「やーだね。」
希「えぇ!」
なんて、僕らは笑いあった。まるで、長年寄り添いあった恋人のように。
もしかしたら、それが答えなのかもしれない。これが、運命の出会いというやつなのかもしれない。
やっぱり僕は…夢叶さん。貴女のことが好きだ。
その可愛らしい声も。悪戯な表情を作る顔も。強がっている悲しい心も。
いつか全て、僕が包み込めたなら。
夢叶「さて、そろそろ帰らなきゃ。お母さん達が心配しちゃう。」
希「そうですね。とても…いい時間でした。」
夢叶「……また、連れて来てくれる?」
希「え?」
夢叶「ここ、私も気に入っちゃった。でも、自転車で来るには結構距離あるからさ。
車を持ってるあんたに、そう頼んでるんだけど?」
希「も、勿論!
まさか、夢叶さんにも気に入ってもらえるなんて…思ってもみませんでした。」
夢叶「何それ。まるで私が星空に感動しない、無情な女だとでも思われてたってこと?」
希「ち、違いますよ!」
夢叶「…ぷ、あはは!冗談よ、冗談。」
希「夢叶さんの冗談…冗談に聞こえません…。」
夢叶「それ、友達にもよく言われるのよね。なんでかな。」
そんな会話をしながら車に乗り込み、帰路につく。
暫くは会話が続いたが、夢叶さんは疲れていたのか、気づけば眠っていた。
希「…夢叶さん。貴女を絶対に…手放しはしません。
過去、未来の僕が貴女に言った通り…ずっと、貴女に寄り添います。」
夢叶さんは、一見強くて弱みなどなさそうに見える。だが、本当は心は悲しみで満たされている。
それを、払拭出来たなら。僕が、払拭してみせるんだ。
僕はそう、決意した。
元から決めていたことではあったが、今日のことでより決意が持てた。




