6…未遂事件。
それから、午後の講義も終わり、私は夕方のバイト先に向かった。
店の近くにも従業員用の駐輪場はあるのだが、そこに停めると身バレする可能性がある為、私は少し離れた人通りの少ない駐輪場にいつも停めている。
今日もまた、そこに停めていた。
正直、このバイトは店長がいい人で、給料もいいからやっているだけで……本来の私なら、絶対にやりたくない仕事だ。
でもまあ…段々慣れてきたけど。
夢叶「……今日もまた、猫被り…か。」
佐藤 希も、こんな感じなのだろうか。
ファンを笑顔にする為に、爽やかな笑顔の仮面を貼り付けて、ファンの望むものを届けて……。
私も、もしかしたらそれと何ら変わりないのかもしれないな。
夢叶「…って、何考えてんの!あいつと私は違うっつーの!
あいつは…人気芸能人で、私はただの、大学生……」
と、そんな考え事をしていると…
背後から何か気配を感じ取った。
だが、その時には既に手遅れで。
夢叶「!!」
後ろから羽交い絞めにされ、鼻から口元を、布で覆われた。その布には、薬を染み込ませていたのだろう。
私の意識は、遠退いていった。
夢叶「(あっ…これ、やば……)」
抵抗しようとしたが、もうどこにも力が入らない。
そのまま、私の意識は暗転。
もう、そいつにされるがままだ……。
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希「…!!」
結子「?希さん、どうかされました?」
僕は今、パートの仕事が終わった夢叶さんのお母様の送迎をし、夢叶さんの家で夕飯の支度をしていた。
夢叶さんは、バイトの日は大体バイト先で賄いを食べて帰ってくるそうだが、お母様と玲緒くんのものをと思い、支度をしていた。
だが…なんというか、虫の知らせというものだろうか。
僕は急に、嫌な気配を感じ取った。
そうそれは、夢叶さんに危険が迫っているもの…と、知らせているような。
希「……すみません、お母様。ちょっと僕、出かけてきます。」
結子「?わかりました。」
希「(夢叶さん…!)」
僕は急いで、自分の車に乗り込み、夢叶さんを探しに出た。
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夢叶「……ん……」
目が覚めた。
そこは、どこかの廃屋だった。
私は椅子に座らされ、腕は後ろに縄で縛られており、足も椅子に固定されていた。
状況が、上手く飲み込めない…。
一体、どうしてこんなことに……。
縄が解けないものかと足掻いてみるが、ビクともしない。まあそれもそうだ。いくら空手を習っているとはいえ、女の筋力じゃ、縄など引き千切れるわけがない。
男「ふへへへ…今日も、可愛い子が手に入った…」
夢叶「だ、誰!?」
男「俺が誰だっていいじゃないか…。だって君は、ここで終わるんだから。」
夢叶「っ……」
と、現れたのは、覆面を被った…男。手には刃物を持っている。
夢叶「あんた、何が目的?私は金持ちの娘でも、何でもないわよ。それなのに、こんなことをするなんて…」
男「べつに、金銭目的で君を攫ったわけじゃない。…まあ、目的くらい教えてやってもいいか。
ほら、最近ニュースでよく聞くだろう?『10代から20代女性が、暴行を受けた挙句に惨殺された』って…」
夢叶「まさか…」
男「そう、そのまさか!俺がその犯人さ!
そして、君はこの俺に選ばれた…つまり、これから同じ目に遭うんだよ。」
夢叶「っ……」
必死に足掻く。暴行されないように。殺されないように。
でも、縄が解けることもなければ、犯人に手を出すことも叶わない……。
男は、段々と距離を詰めてくる。
その度に私の心拍数も上がる。
そして、犯人の男は私の着ていたシャツを破った。
夢叶「っ…!」
男「さぁて…君は、どんな声で哭いてくれるかな…?」
嗚呼…私、こんな最低な男が初めてとなって、しかもそのまま…死ぬんだ…。
どうして…どうして、こんな人生だったんだろう…。こんな最悪な結末なら…生まれてきたく、なかったな…。
ごめんね…沙月。
ごめんね…玲緒。
ごめんね…お母さん。
さようなら……
男「それじゃ、いただきまー___」
?「夢叶さんに手を出すなぁあああ!」
男「ぐほぉ!」
人生の終わりを迎える……その覚悟を決めたとこで、何者かが犯人を蹴り飛ばした。
夢叶「!あ、あんた…!」
そう、それは背が高く、綺麗な金髪で、私が鬱陶しいと思っていた人物……
佐藤 希だった。
夢叶「どうして…!」
希「虫の知らせ…とでも言うんですかね。
兎に角、何か嫌な予感がして、探し回ったんです。
良かった、間に合って……って……」
と。佐藤 希は私の方に振り返ったが、急に顔を赤面させた。
夢叶「?なんでそんな赤くなってん……っ!」
私も、気づいてしまった。
そうだ。私はさっき、そこの犯人に服を破かれたのだった。
おかげで、上半身はほぼ下着姿と言っても過言じゃない状態。
夢叶「い、今すぐ忘れなさい!こんな姿…忘れて!」
希「わ、わかってます!嫁入り前の女性のそんな姿を見るなんて…男として最低ですから…!」
そうは言うが、佐藤 希の顔から赤さが消えることがない。
よっぽど耐性がないのだろう。
夢叶「と、兎に角…警察に連絡…と、この縄を解いてくれない?」
希「は、はい…」
縄を解いてもらい、代わりにその縄で犯人が逃げないよう、逆に縛ってやった。
まあ、先程の佐藤 希からの一撃で、気絶しているから…どちらにせよ逃げられないが。
だけど、たかが蹴り1つで気絶するなんて…弱すぎじゃない?こんなのが連続暴行殺人犯だったなんて…意外だわ…。
希「夢叶さん。」
夢叶「何?」
と、私に声をかけた佐藤 希は、着ていた上着を、私に貸してくれた。
希「いつまでも…その、その格好だと、女性として恥ずかしいでしょうから……ぶかぶかですけど、僕の上着を着ていてください…。
でないとその…僕も、直視出来ませんから……。」
夢叶「案外気が利くのね。」
そんな会話をしていると、サイレンが聞こえてきた。警察が到着したのだろう。
これで、この事件も一件落着だ。
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その後、私は被害者として、警察署に連れていかれ、事情聴取を受けた。
その為、バイトも休まざるを得なくなった。
そして、佐藤 希が助けてくれたことだが……
流石にそれは、世間に公表するわけにもいかず、佐藤 希の事務所が圧力をかけたのか、私の知人が助けてくれた、ということで落ち着いた。
そして今、私は佐藤 希の車に乗っている。
夢叶「それにしても…よくあの場所だってわかったわね。」
希「僕の勘は、昔からよく当たっていたんです。」
夢叶「へぇ…」
女の勘はよく当たるというが、男の彼の勘も、案外捨てたもんじゃないらしい。まあ、おかげで助かったのだから、有難いこと。
だが、代わりに佐藤 希に借りを作ってしまった。私は他人に借りを作ることが、あまり好きじゃない。どう返せばいいのか、悩む。
希「でも、本当に良かったです。間に合って。」
夢叶「そうね…あのままなら私、殺されるとこだったし。感謝するわ。」
希「いえ、好きな人を助けるのは、男として当然のことですよ。」
そんなことを言いながら、佐藤 希は微笑んだ。
その横顔に…少しだけ、胸がときめいた。
私は芸能人だとかに興味はないが、矢張り人気俳優。女をときめかせるのはお得意なのだろう。
希「そうだ。少しだけ寄り道しませんか?」
夢叶「寄り道?べつにいいけど…」
希「とっておきの場所があるんです。僕のお気に入りの場所。そこへ、夢叶さんもいつか連れて行きたいなって、思っていたんです。
こんなことがあった後になんですけど……」
夢叶「へぇ、それは楽しみね。」
そんな、まるで恋人のような会話。
馬鹿げている。そう思うのに、今は何故だか…彼のその優しさに、甘えてみたい気がした。




