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5話…秘め事。

朝のバイトも終わり、無事大学へ着いた。


沙月「おはよう、夢叶!」


夢叶「おはよう、沙月。」


変わらず沙月は、背後から私に抱き着き、朝の挨拶を交わす。

沙月くらいだ。私の背後を取れるのは。いや、気づいていないわけではないが、私が気を許して背後を取らせるのが、沙月くらいということだ。


沙月「どうしたの?何だか元気ないけど…それに、目の下にくまが出来てるよ。」


夢叶「ああいや…気にしないで。ちょっと眠れなかっただけだから。」


沙月「え、それ大丈夫なの!?」


夢叶「大丈夫大丈夫…」


沙月「夢叶…」


夢叶「ほら、早く講義に行こ。」


沙月「夢叶!」


と、いきなり沙月は、大きな声で私の名を呼んだ。


夢叶「な、何?」


沙月「夢叶、昔した約束、覚えてる?」


夢叶「約束……うん、覚えてるよ。」


沙月だけは、知ってる。

私の昔の家庭環境も、私が学校で受けていた仕打ちも……【夢】のことも。


夢叶「『私達2人の間には、隠し事は絶対にしないこと』。」


沙月「そう。

……隠し事、してないよね?」


夢叶「っ……」


真剣な眼差し。それは、約束を破っているいないに関してではなく、純粋に、私を心配してのことだろう。

…ここで話してしまえば、楽になれる…。だけど、あいつが嘘を吐いている可能性が、まだある以上……話せない。


沙月を信じていないわけじゃない。でも、もし話してしまったら…沙月が、離れて行ってしまうかもしれない気がして。

だから私は……隠す。


夢叶「私が沙月に隠し事なんて、するわけないじゃん。

本当にただ…ただ少し、眠れなかっただけだよ。」


沙月「………そっか。それならいいんだ!

でも夢叶、顔色悪すぎるから、午前の講義は休んだ方がいいよ。どこかで仮眠しなよ。」


夢叶「そうだね…そうしようかな。

流石にこの状態じゃ、他の人にも迷惑かけちゃうかもしれないしね。」


沙月「教授には私の方から言っておくよ。」


夢叶「ありがとう。」


ごめんね…沙月。

私、初めて沙月に…嘘、吐いちゃった…。


そうして私は、午前の講義を休み、保健室で少し眠ったのだった。


……………

…………………

………………………


懐かしい夢を見た。

これは…私が、小学生の頃の記憶。


靖文「酒も買って来れねぇグズが!」


結子「お父さん、やめてください!子供に手をあげることだけはっ…!」


靖文「うるせぇ!俺に命令するんじゃねぇ!」


玲緒「うぇええん!」


夢叶「玲緒、大丈夫…私が守ってあげるから、泣かないで…」


父は、リストラされてから可笑しくなった。

毎日毎日、朝からお酒を飲み続け、お酒がきれれば母に買いに行かせ。母がいなければ私達姉弟のどちらかに買いに行かせていた。

だが、法律も変わり、子供はいくら親のお使いであれど、お酒が買えなくなった。

父はそれでも、私達のせいだと、私達に暴力をふるっていた。


母は庇ってくれようとしたが、男と女とでは、力の差がありすぎる。

寧ろ、母が傷だらけだった。

近所の人が助けてくれれば…と思ったが、近所の人達は見て見ぬふりをしていた。

嗚呼、この世はそんなに腐ってるんだなって、絶望したのを覚えている。


そんな、ある日だった。

それは白昼夢だったのかもしれない。


綺麗な金髪に、碧眼の青年が、私に声をかけた。


?「大丈夫ですか…?」


この国…日本ではまず見慣れない髪色に目の色だな、と珍しく思ったのを覚えている。


夢叶「ん…大丈夫、これくらい。私は、お姉ちゃんなんだから、これくらい平気。

そんなことより、玲緒を守らなきゃ。お母さんを守らなきゃ。」


?「偉いですね…。でも、無理しないでください。

痛い時は痛い。悲しい時は悲しいと、言ってください。」


夢叶「んー、だけどさ、それを言ったところで現実は変わってくれるの?」


何とも捻くれた小学生だ。自分でもそう思う。


夢叶「変わらないでしょ?なら、我慢しなきゃ。お姉ちゃんなら。」


?「お姉ちゃんの前に、貴女も1人の人間です。

確かに現実は…変わってくれませんが、僕が、貴女の痛みに、悲しみに、寄り添うことは出来ます。

そうすれば…少しは、楽になるでしょう?」


夢叶「……本当に、寄り添ってくれる?」


?「ええ、勿論!だって、僕は貴女のことが、好きですから。」


夢叶「……変な人。」


私なんかを、好きだというこの人は、相当な変人だと思った。


それから度々、私は白昼夢を見るようになった。

その度、その男の人は私の傍に居てくれた。

私の傷に悲しんでくれて、それを忘れさせるかのように、楽しい話をしてくれた。

気づけば私は、その人と会える時を楽しみにしていた。


だけど…私が中学に入る頃には、もうその人とは会えなくなった。

白昼夢を見ることが、なくなってしまった。


そして……父が亡くなった。

家の近くにあった橋から落っこちて、橋の下にある岩に頭を強くぶつけ、死んでしまった。

その時もどうやら父は、酔っ払っていたようで、橋に寄り掛かった時、その橋も老朽化が進んでいて……『手摺が壊れて落っこちた』。

つまりは【事故死】だ。


そう、誰も悪くない………………

私が、悪いわけじゃない。


______________________


夢叶「ん……」


養護教諭「あら、目が覚めた?」


夢叶「あ、はい。よく眠れた…ような気がします。」


養護教諭「それはよかった。けど、家でちゃんと寝ないきゃダメでしょ?」


夢叶「そう、ですね…」


養護教諭「…貴女の家の事情は、知っているけど…もう、心配することもないでしょ?」


夢叶「まあ、そうなんですけど…」


言えるわけない。

昔の問題とはまた違う、厄介ごとを抱えてしまったことなんて。


まず、沙月なら信じてくれても、他の人が信じてくれるわけがない。

人気芸能人に告白されて、しかも半年間うちにいる…なんて。

それが原因で、眠れないなんてことも、言えるわけない。


養護教諭「貴女、過去に精神科にかかっていたみたいね。」


夢叶「ああ、はい。その頃もあまり眠れなくて…それでかかっていたんです。」


養護教諭「そう。もしこれが続くようなら、また通った方がいいかもね。」


夢叶「あはは…検討します。

それじゃ、午後の講義には出ようと思うので、失礼します。お世話になりました。」


養護教諭「はーい。」


それだけ言うと、私は保健室から出た。


時間的に、丁度昼食時。

沙月は、莉乃達といるだろうか。

…まあ、いてもいなくても、まだ話せるわけではないのだが。


特に、莉乃達に言ったら、大変なことになる。

もしかしたら…過去のようになってしまうかもしれない。


私は昔、いじめを受けたことがある。

何がきっかけだったかはあまり自覚はないが、ある日突然無視されるようになった。

無視だけならまだしも、机に落書き、私物が捨てられる、そんなことすらも当たり前となっていた。

それはたぶん、女子達からの嫉妬だった。


私が特別モテていた、というわけではないが、クラスの中のスターとも言える男子から、好意を寄せられるようになった。

たぶん、それがきっかけだ。


…莉乃とは高校、梢と瑞稀とは大学から、仲良くなった。

私的には、かなり仲がいいと思っているが、もし…もし、自分達の大好きな芸能人が、私に告白してきたなんて知ったら、そんな仲も取りやめになるかもしれない。


そんなの、嫌だ…。

いじめられることが嫌なんじゃない。

彼女達を、傷つけることが…嫌だ。


夢叶「………どうしよう。」


気づけば外は、雨が降っている。

私のそんな苦悩の言葉は、その雨の音に掻き消された。

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