3話…休業。
朝の講義が終わり、昼食タイムとなった。
沙月に誘われ、たまには学食で食べてもいいかなと思い、食堂へ行く。
莉乃「あ、来た来た!」
梢「こっちですよ~。」
沙月「やっほー!」
瑞稀「夢叶、久しぶりだね。」
夢叶「久しぶり。」
この3人は、私の友達。
莉乃とは高校からで、梢と瑞稀は大学で知り合った。
趣味などはバラバラだが、それがまた楽でいい。
莉乃「またバイトばっかしてんの?」
夢叶「まあ、そんなとこ。」
梢「たまには休まなきゃダメですよ~。」
瑞稀「そうそう。でなきゃいつか、本当に倒れるわよ?」
そう3人は、私の体の心配をしてくれる。本当、私には勿体ないくらい良い子達だ。こんなに私を心配してくれるのだから。
夢叶「生憎、体力には自信がある方だから、大丈夫だよ。」
莉乃「てかてか聞いてよ!今朝のニュース見た!?」
梢「見ました!」
瑞稀「雑誌も見た?」
沙月「何々、何の話?」
と、何やら3人は騒ぎ出した。ニュースや雑誌ということは…芸能人に何かあったのだろう。
…そこで頭に浮かんだ、昨日の佐藤 希。
まあ、まさか…ね。
莉乃「あの人気俳優の佐藤 希が、半年間活動休止だって!」
夢叶「ブフッ!」
沙月「夢叶!?どうしたの!?」
夢叶「い、いや…何でもない…」
案の定、佐藤 希だ。
佐藤 希という名前を聞き、私は昨日のことを思い出して、つい動揺が隠せず、飲みかけていた牛乳を吹き出してしまった。
梢「一体、どうしたんでしょう…」
忘れていた。沙月以外のメンバーは、皆佐藤 希の大ファンなのだ。
佐藤 希のドラマがあれば、全録画は当たり前な上に、DVDやBlu-rayコンプリートも当たり前。
写真集が出れば見る用と保存用の2冊を購入。
かと思えば、佐藤 希は時々歌手もやっており、そのCDだって保存用と2枚買っている。
それくらい、佐藤 希オタクなのだ。
沙月「へぇ、どうしたんだろうね。」
瑞稀「怪我とか病気じゃないみたいだけど…心配だよね。」
莉乃「はぁ~~~、佐藤 希レスだよこんなんもう…」
佐藤 希が昨日言っていた、【考え】って…
まさか……
瑞稀「トゥイッターでもミンスタでも、佐藤 希のことでいっぱいだよ。」
沙月「そうなんだ。全然知らなかった。」
夢叶「わ、私も…」
莉乃「ほんっと、2人ってその辺疎いよね。本当にあたし達と同い年~?」
沙月「だって私、韓流にしか興味ないし!日本人とかどうでもいいんだよね。」
梢「潔すぎですよ…」
瑞稀「で、夢叶は夢叶で、バイトと空手のことしか頭にないからな~。」
夢叶「わ、悪い?」
瑞稀「いや?悪くはないけど、もう少し女の子らしくしたらどうかな~って。
ほら、あんたって恋愛の1つも聞かないじゃない。」
夢叶「うっ…それは…」
莉乃「はぁ~…突然目の前に佐藤 希が現れて、あたしに告白でもしてくんないかなぁ~。」
夢叶「ブッ!」
沙月「わっ!夢叶また?」
これまた動揺が隠せず、私は飲みかけていたスープを気管に詰まらせ、噎せ返った。
夢叶「ごめんごめん…」
瑞稀「本当どうしたの?今日のあんた変だよ?」
夢叶「あはは…ちょっと、今日は嚥下が悪いのかも…」
瑞稀「老人かよ。」
「「「「「あはははは!」」」」」
……言えるわけない。
莉乃が言うように、昨日、佐藤 希に…告白されただなんて……。
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午後の講義も終わり、帰宅時間となる。
沙月「今日もバイト?」
夢叶「いや、夕方のバイトは休み。」
莉乃「ならどっか遊びに行こうよ!」
梢「リフレッシュも大事ですし。」
そう、4人は私を遊びに誘ってくれる。勿論、出来ることなら遊びに行きたいのだが…
夢叶「あ~…そうしたいのは山々だけど、お母さんに早く帰るって言っちゃったから、また今度ね。」
私は、早く帰れる日は家へと帰って、お母さんの手伝いをするのが昔からの習慣だ。
たとえ料理が出来なくても、掃除や洗濯などは、私でも出来るのだから。
お母さんも、パートと内職の掛け持ちをしながら、私達姉弟を育ててくれている。そんな中、私の起きる時間などに合わせて、朝ご飯も用意してくれているのだ。
お母さんだって、相当疲れるだろう。だから、私は早く帰れる日は早く帰って、家事の手伝いをするというわけだ。
瑞稀「って言いながら、ほっとんど遊ばないじゃない。」
夢叶「ごめん…」
瑞稀「ま、あんたの家も色々大変なみたいだし、これ以上は責めないけど…でも!」
夢叶「な、何?」
瑞稀「今度の休みは、絶対に遊んでもらうからね!覚悟しときなさいよ!」
夢叶「瑞稀……うん!約束するよ。」
瑞稀「宜しい。じゃ、またね!」
夢叶「うん、またね!」
そう挨拶を済ませ、私は家へと帰った。
変わらずお母さんが待ってくれているとばかりに思っていた。
だが、莉乃達が言っていたではないか。
あいつが、半年間休業すると……。
家へと辿り着き、玄関を開けると…矢張り、ある。
男物の見知らぬ靴が。
夢叶「……またいるの……」
本当にいい加減にしてほしかった。
何かの冗談だと思いたいのに、思えないこの現実が、何とも腹立たしい。
リビングのドアを開ければ、昨日は帽子を被っていたが、それをやめたのか、もろに綺麗な金髪を露出させている、奴がいた。
結子「あら、夢叶。おかえりなさい。」
夢叶「ただいま。……で、またいるの。」
希「はい!おかえりなさい、夢叶さん。」
夢叶「あんたにただいまは言わないわよ。あんたは家族でも何でもないんだから。」
希「そうですね、今は。」
夢叶「で、何の用?あんたの要望は昨日聞いたけど?」
希「夢叶さん、ニュースや雑誌は御覧になっていないのですか?」
夢叶「見てない……けど、友達が昼食の時騒いでいたわね。
あんた、何でも半年間活動休止するらしいじゃない。」
希「そうです。本当は1年間くらいにしたかったんですけど、流石にそれは無理だと、マネージャーや事務所に怒られちゃいまして。半年間だけ時間を貰えたんです。」
夢叶「それがどうしたの?何か病気でもしたの?」
希「心配してくれるんですか?嬉しいです!」
私が心配しているなどと勘違いした佐藤 希は、嬉しそうに無邪気に笑う。その様子がテレビとは違って、少し驚く。
夢叶「心配じゃないわよ!ただどうしたのかなって、気になっただけ!」
希「そうですね…夢叶さん。」
佐藤 希は私に顔を近づけ、真剣な眼差しを向けてきた。
夢叶「な、何よ…」
希「夢叶さんを僕のものにする為に………半年間、この家でお世話になります!」
夢叶「………」
夢/玲「「はぁあああああああ!?」」
と、突然リビングのドアが開いたかと思えば、学校帰りの玲緒と見事ハモった。
夢叶「玲緒!?今の聞いてたの!?」
玲緒「姉ちゃんが帰ってきた後、すぐ俺も帰ってきたよ。
で、姉ちゃん達の話が気になるから、聞き耳立てて聞いてたんだけど……
希さん、マジっすか!?半年間、この家で暮らしてもらえるんですか!?」
希「はい、そうですよ!」
玲緒「うぉおお!まじか!まじか!こんなラッキーなことある!?」
玲緒からしたらラッキーなのかもしれないが、私にとっては邪魔でしかない…。
夢叶「で、でも待って!この家、そんな広くないから、こいつを泊める部屋だってないし、こいつは芸能人で、いつも高級で美味しいものばっか食べてんのよ?
庶民とは住む世界が違うわけ!だから、この家に置くなんてのは………」
玲緒「じゃあ希さん、俺の部屋で寝泊まりしてください!」
希「いいんですか?」
玲緒「全然いいに決まってる!あ、で、よかったら勉強教えて貰えたらな~…なんて。」
希「任せてください。これでも小中高大学と、どれも成績は良かった方ですから。」
玲緒「まじ?頼りになる~!」
希「あ、あと僕は、そんなに高級な食べ物は食べたことないですよ。いつも自炊でしたし。」
夢叶「なっ…あ、あんた、料理出来るの…?」
希「?はい!」
ま、負けた…男に負けた…。
私は料理が壊滅的に下手だというのに、男のこいつは料理が出来るという。
私は勝手に、敗北感に包まれた。
希「それに勿論、宿泊費や食費は出しますから!
流石に全部は甘えられませんし。」
結子「あらあら、そんなの気にしなくてもいいんですよ。」
希「いえいえ、お世話になるのですから、当たり前ですよ!」
玲緒「じゃあ決まり!いつから泊まります?今日?今日からですよね!?」
夢叶「ちょ、そんなすぐそれ泊まれるわけないでしょ!家具はいいとして、着替えとか、どう見ても持ってきてない感じだし……」
希「ああ、それはマネージャーに持たせてますよ!連絡すれば、すぐ持ってきて貰えます。」
どんだけ準備がいいんだ。
希「では、今日からお世話になりますね。」
これまた爽やかな笑顔で、佐藤 希はそんな挨拶をする。
一体これから、どうなるんだ。




