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23話…罰と報い。

 翌日。

 僕は早速、事務所で社長に呼び出された。

 呼び出された内容については……話さずとも、わかるだろう。


社長「全く君は……どうしてくれるんだね?」

希「どうするも何も、辞めろと言われれば、いつでも辞める覚悟は持っています。」

社長「そういう問題じゃないんだよ!」

希「では、どういう問題なんですか?」


社長「幼少期から人気があり、今をときめく大スターの君が、あんな全国民が見ているような番組で、『好きな人が出来た』だの、『半年間休んでいたのは、その人の元へ行っていたから』など言うのは、自分勝手過ぎると言うんだよ。

これまで応援してきた人達を、裏切るような行為。それについては、どう償うと言うんだね?」

希「それは……」


 辞めることが、責任を取ることだと思い込んでいた僕にとって、その質問は想定外だった。


 償い……。

 ファンからしてみれば、その人を諦めて、自分達の為に芸能界に残ることを、望むのだろう。

 だが、それこそ自分勝手ではないかと、僕は思ってしまう。


 そんなの、僕の人権がないも同然じゃないか。

 そんな世界で生きていけなんて……残酷過ぎる。


マネージャー「もう、社長。そんな希をいじめなくったっていいじゃないですか。」

希「いじめる?」

マネージャー「確かに、社長の言うことも一理ある。でも……実際寄せられている声では、希に償いも何も求められていないのは、明白じゃないですか。」


希「……どういう、ことですか。」

マネージャー「実際、希に寄せられている声はね……『その好きな人と、幸せになってほしい』。そういうものばかりなのよ。」

希「……!!」

社長「うぐっ……だ、だがね。これはうちのイメージ問題にも関わって……」

マネージャー「何がイメージ問題ですか。ソレならHOPEの玄夜の方が問題でしょう。」


 まあ、それはそうだ。玄夜はお酒に強いから、色んな関係者や後輩達を、散々飲ませて潰しては、遊んでいるような人間だから……。


社長「………」

マネージャー「現実では希の恋は、応援されている。それなら、私達からも何も言うことはないでしょう。違いますか?」

社長「っ……も、もういい!行きたまえ!」

希「社長……」


社長「だが、これは忘れるなよ。お前は今をときめく人気の芸能人。

……恋人にするのなら、ちゃんと幸せにしてやりなさい。」

希「ありがとうございます……!」


 これで、事務所からも許可を得られた。

 堂々と夢叶さんに……伝えに行ける。


 夢叶さん。待っていてください。

 僕は、過去の夢で貴女に誓った通り……貴女の傍から、離れません。


____________________________


 次の日の朝。沙月が家へと来た。

 昨日の夜、なかなか寝付けない中……私は決めた。沙月にだけは、全てを打ち明けようと。


沙月「あけましておめでとう、夢叶。」

夢叶「おめでとう、沙月。」

沙月「それで、早速なんだけど……」

夢叶「ああ、うん……。……私、沙月に話があるの。」

沙月「だと思った。」


 なんて沙月は、微笑む。


夢叶「……あのね、実は……私、沙月に……沙月達に、隠し事してた。」

沙月「やっぱり。」


 沙月は気づいていた。私が隠し事をしていることに。

 多分、これから私が話すことも、気づいていただろうが……改めて、私の口から話すことにした。


夢叶「あの、鈴嶺 和臣って紹介してた遠い親戚の人、いるでしょ?

あの人……実は、本物の佐藤 希だったんだ。」

沙月「うん。」


 沙月は驚かない。矢張り、気づいていたみたいだ。


夢叶「それで、その佐藤 希が何で、家にいたかなんだけど……あの、佐藤 希に、私告白されてたの。」

沙月「うん。」


 沙月は静かに、私の話を聞いてくれる。


夢叶「佐藤 希は、私と付き合う為に……私に振り向いて貰う為に、半年間私の家でお世話になるってことになったんだ。

それで……私が暴漢に襲われた時、助けてくれたのも佐藤 希だし、大学やバイトへの送迎をしてくれてたのも佐藤 希だし、莉乃達とキャラ弁勉強会をしてくれたのも……」

沙月「うん。」


夢叶「……色々、本当に色々、良くしてくれた。私の為に尽くしてくれた。

でも、私はそれに、応えるわけには、いかなかった。」

沙月「……どうして?」


 沙月は静かに、真剣に、私に問う。

 ……沙月にも、打ち明けなければならない。私の罪を。

 でも、多分大丈夫だ。沙月は、佐藤 希の話をしても、離れなかった。否定しなかった。

 なら、私の罪を話しても……離れていかないだろう。驚きはするかもしれないが。


夢叶「……私のお父さんが、橋から落ちて亡くなったのは、知ってるでしょ?」

沙月「うん。酔っ払ってたからだよね。」

夢叶「でもね、それ……半分嘘なんだ。

確かにあの時、お父さんは酔っ払ってた。橋の老朽化が進んでたのも本当。

だけど、本当は……本当は、私が、お父さんを橋から落っことしたの。」

沙月「……!!」


夢叶「でも!突き落とすつもりなんて……なかったの……。

だけど、お父さん……私のことも、お母さんのことも、玲緒のことも、要らない存在だって言って……私、それに我慢ならなんくて……掴みかかったの……。そして、橋の手摺まで追い詰めて……そしたら、手摺が壊れちゃって……。」

沙月「……そっか。そんな哀しいことが、あったんだね。」


夢叶「私は、そんな罪を背負ってる……。だけど佐藤 希は、罪も穢れも知らない……そして、沢山の人から人気を得てる芸能人……。

そんな私達が、結ばれていいわけがない……そう思った。

だから、私……佐藤 希が私を諦められるように、酷い言葉を投げかけて……断ったの……。」

沙月「……それは、本心だった?」

夢叶「………」


 半年前まで、それは本心だった。だけど……今では……


夢叶「……違う、違うのっ……」


 私は顔を両手で覆った。この涙が、沙月に見えないように。


夢叶「本心じゃ、なかった……。確かに、半年前までは、来たばかりの頃は、鬱陶しかった……。睡眠時間も削られて、心底うざかった……。

だけど、だけど今では……」

沙月「……それが、夢叶の本心なんだよね。

なら、伝えてあげてよ。」

夢叶「でもっ……!」

沙月「なら、希さんは、夢叶が罪を抱えてるって言った時、なんて言った?」


 優しく沙月は、私の顔を覆う手をその手に取り、そう問う。


夢叶「……『受け止める』、って……」

沙月「それは、嘘だと思う?」


 ……あいつは、嘘を吐かない……。私には、嘘を吐いたことがない……。


夢叶「……ううん。本当、だと思う……」

沙月「そうだよ。希さんは、心から夢叶のことを愛してる。たとえ夢叶が罪を背負っていても、受け止める人なんだよ。」

夢叶「……でも、私……酷いこと言っちゃった……」

沙月「それで諦めてるなら、昨日あんな歌を歌わなかったと思うよ?それに、テレビで打ち明けてたじゃん。好きな人がいるって。一度は振られたけど、諦めないって。

だから大丈夫。まだ間に合うよ。」

夢叶「沙月……」


沙月「ね?だから……夢叶の気持ち、伝えてあげて。」

夢叶「……うん。あ、でも……」

沙月「何?」

夢叶「私……あいつの連絡先、知らない……」

沙月「えぇ!?半年間、一緒にいたのに!?」


これまで優しく聞いていた沙月だが、私が連絡先を持っていないと言うと、凄く驚いていた。そこ、驚くんだ……。


夢叶「私、もう2度とあいつと会わないつもりでいたから……」

沙月「夢叶らしいよ……。なら、私が何とかしてあげる。」

夢叶「?何かツテがあるの?」

沙月「うん!とっておきのツテがね!

兎に角夢叶は……心の準備をしておいて。」

夢叶「……うん!」


 あいつは、こんな私でも、受け止めてくれるだろうか。罪を知っても、変わらずいてくれるだろうか。

 ……あの映画のように、私のことを、好きでいてくれるだろうか。


____________________________


 4月のある日。その日、僕はある人と待ち合わせをしていた。

 突然のことで驚いた。連絡を貰ったのは1月で、なるべく早く会えるようにしてほしいと、玄夜から言われた。

 だが、僕は4月から主演のドラマがあった為、2月3月は休みがなく、4月の今日、漸く休みが取れた。


希「ちょ、ちょっと早く来すぎた……かな……」


 服装も、ちょっと気合を入れ過ぎたかもしれない。

 そして、彼女に久々に会えるので……僕の気持ちを伝える為に、花束も用意してみた。

 ……彼女が好きだという、白百合の花束。


 何故彼女が白百合が好きなのかを知っているかと言うと……昔、夢で教えて貰ったからだ。

 僕の家では、母がいた頃は花をよく家の中に飾っていた。だから、夢で彼女とも、花の話をよくしていた。

 彼女はあまり花に詳しくはないが……それでも、白百合が好きだと、言っていた。

 だから、気に入って貰う為に……僕の本気度を伝える為に、用意してみたというわけだ。


 時計をチラリと見る。……待ち合わせにはまだ時間がありそうだ。

 ギリギリに来るより、気持ちの整理ができていいかもしれないな、と思いながら、ベンチに座り街行く人々を眺める。


 そんな時……だった。


チンピラ「やっぱ、テメーだったか。」

希「!!」


 僕の目の前に現れた、3人組の柄の悪い男達。そいつらには……見覚えがあった。


チンピラ「変装してるみてーだけど、お前、あの佐藤 希だろ。」

希「……だったら、何だ。」


 あの日。玄夜に連れられ、夢叶さんのバイト先だというメイド喫茶で、働いているメイドに過度な接触をせがんでいた、チンピラ客達。


チンピラ「お前の所為で、こいつ全治1ヶ月かかる怪我したんだけど?どうしてくれんだよ。」


 どうやら、夢叶さんが反撃してくれたが、それは全治1ヶ月かかる怪我を負わせていたらしい。だが、自業自得だろう。それを僕の所為にされても困る話だ。


希「全治1ヶ月なら、もう治っているだろう。それなのに、因縁をつけられても、困る。」

チンピラ「因縁?ちげーよ。復讐だ。

勿論、あの女にも復讐はするが……まずはお前だ!」


 そう言うと、リーダー格の男が何か合図をした。

 何をするんだ、と思った時には既に手遅れ。残りの2人がそれぞれ僕の肩を掴み、僕を跪かせた。


希「くっ……!」

チンピラ「図体だけデカくて、力はねーみたいだな。」

チンピラ「人気芸能人ともなりゃ……やっぱ顔が商売道具。」


 リーダー格の男は、懐からナイフを取り出した。


希「っ……」

チンピラ「顔に傷をつけられりゃ、テメェはもう芸能界に居られなくなるだろ?いい復讐だよなぁ。」


 少しずつ、僕に近づいてくる。足掻いてみるが……肩を掴んでいる男達の力は強く、どうしようも出来ない。


チンピラ「それじゃあな……佐藤 希ぃ!!」

希「っ!!」


 僕は、あの殴られかけた時のように、目を瞑る。

 ……だが、あの時と同様、いつまで経っても痛みはなく。

 相当切れ味のいいナイフだったのか?切れ味がいいと、痛みを感じないと聞く。そう思い、目を開けてみると……


希「………………はぇ?」


 信じたくない現実が、そこには広がっていた。


 綺麗な長い黒髪を、ハーフアップに束ね、可愛らしい白のワンピースを着ている、女性が……腹部から血を流していた。


「キャーーー!!」

「ひ、人が刺されてるぞ!」

「誰か!警察と救急車を!」


チンピラ「て、テメェ……」

夢叶「っ……ったく、あんたはほんっと……厄介事に首を突っ込むのが、好きなようね……」


 その声は……これから、僕と待ち合わせをしていた、僕がもう一度想いを伝えようとしていた、愛しい女性……。


夢叶「あんたらも、あんたらだわ……。あんたに怪我を負わせたのは、この私なのに……よくも、こいつを傷つけようとしてくれたわね……」


 刺されているというのに、彼女は……夢叶さんは、強気なことを言う。


夢叶「復讐だなんて、バカげたことを……。でも、そうね……。私も、復讐しようかしら。こいつを……私の好きな人を傷つけようとした、復讐を。」

チンピラ「っ……!」

夢叶「今度こそ……手加減しないわ。」


____________________________


チンピラ「ぐ、ふっ……」


 またあの時のように、チンピラ達は地面に捩じ伏せられた。

 しかも、今度は腕を折ったのだろう。リーダー格の右腕は、あらぬ方向へと曲がっていた。


 そして、警察が駆けつけた。

 周囲で見ていた人達が、事情を説明し、チンピラ達を確保した。


 僕は、その現実に……追いつけなかった。


夢叶「はぁ……はぁ……っ……!」

希「!!ゆ、夢叶さん!」


 いくらアドレナリンが行き渡っていたとしても、チンピラを倒したことで、それも切れたのだろう。夢叶さんは倒れた。


希「夢叶さん!夢叶さん!しっかりしてください!」

夢叶「……うる、さいわね……大丈夫よ、これくらい……」

希「大丈夫なわけないじゃないですか!血が……血が止まらないっ……!」


夢叶「……はは。これが……報いなのかも、ね……」

希「そんなっ……!」

夢叶「……家族を、守りさえすれば……それが贖罪に、なると思ってた……。でも、違ったかも……これが、本当の報いかも……」

希「っ……」

夢叶「……でも……あんたが、無事で……よかった……」


 そう言うと、夢叶さんは意識を手放した。

 

 どうして。どうして神様は、こんなに残酷なんだ。

 男の僕に、好きな人を守る力を与えてくれず。女性の夢叶さんに、哀しい運命を背負わせて。

 僕が、僕がもっと強かったなら……。


救急隊「すぐ病院へ!」

救急隊「貴方も一緒に。状況を説明してください。」

希「はい。どうか、どうか夢叶さんを……助けてくださいっ……!」


 夢叶さんは担架に乗せられ、僕も救急車に乗り込み、病院へと向かった。

 どうか、どうか夢叶さんが助かりますよう……僕は、神様に願った。

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