22話…歌に込められた想い。
希「玄夜、奏。2人に来て貰ったのは、他でもないよ。」
僕は現在、また忙しい日々を送っていた。夢叶さんの働くメイド喫茶へ行ってから、1ヶ月が経ち、そんな中漸く曲が完成した。
メイド喫茶での事件もあり、夢叶さんに守って貰うなどという、男として面目ないこともあったが、それが余計に創作意欲を掻き立てた。
それを、本当は僕だけで披露しようかとも考えたが、2人に手伝って貰った方が、もっと伝わると思い、2人を呼び出した。
奏「どうしたの?」
希「僕の新しい曲を、一緒にやって欲しいんだ。」
玄夜「そりゃ別にいーけどよ。……理由は?」
希「……僕1人だと、彼女に伝わらないと思って。」
玄夜「……成程な。」
2人には、一度振られてしまったことも、話している。だけど、僕は諦めるつもりもないことも、伝えている。
だから、2人は深く聞かずとも、理解した。
奏「それなら任せてよ。」
希「ありがとう。」
玄夜「んじゃ、披露する日は、この日にしよーぜ!
あいつのことだから、この日は絶対に見る筈だ。」
本当どうして、玄夜は彼女の行動を予測出来るのか、不思議だ。
でも、今はそれを聞いている場合じゃない。兎に角今は……彼女に、想いを伝えるんだ。
希「それじゃ、よろしく頼んだよ。」
玄夜「任せとけって!」
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12月31日。
あいつがいなくなって、2ヶ月経った。
まあ、1ヶ月前に私の働くメイド喫茶へと押しかけられたが……。
……別に、寂しくなどない。
ただ少し、家の中が静かに感じる程度だ。
だが、あれから玲緒とはかなり不仲になってしまった。
仕方がない。玲緒は、あいつによく懐いていた。玲緒にとって、本当のお兄ちゃんのような存在だった。
そんな存在を、私は傷つけ、追い出したのだ。玲緒にとってそれは、許し難いことだろう。
例年なら、12月31日は珍しく私のバイトも1日休みということもあり、家族団欒でリビングで年末特番を見ながら、年を越す。
けれど玲緒は受験生で、部屋で勉強している。
……まあ、受験生っていうのは建前で、本当は私と顔を合わせたくないだけだろう。あれから挨拶以外の言葉は、交わしていないのだから。
お母さんは、夕飯の片付けをしている。私も手伝うとは言ったのだが、折角の休みなのだから、ゆっくりしていてと言われ、大人しくお風呂に入り、適当にテレビを見ていた。
家族と見ていたテレビは、何とも楽しいものだったが、1人で見るテレビは、こんなにもつまらないものなのか、と……私は1人思った。
そんな時だった。
私のスマホが震える。
何かと思えば、沙月達とのグループLIMEだった。
開いてみると、グループ通話が始まっていた。
夢叶「なになに、皆どうしたの?」
莉乃「いいから、さっさと紅白見なさい!」
夢叶「紅白?」
瑞稀「早く!」
ただならぬものを感じ取り、私は紅白歌合戦をやっているチャンネルをつける。
すると、そこに映ったのは……
司会者「次は白組で、佐藤 希さんとHOPEのコラボです!」
私が、傷つけてしまった人……佐藤 希だった。
玄夜「今回、俺らがコラボしたのは他でもありません。こいつの……想い人に伝える為です。」
奏「皆さん、困惑されるかもしれませんが、最後まで聴いてください。」
そんな前説を、2人は言う。
そして、それぞれが担当位置につき、曲がはじまった。
ボーカルは、佐藤 希のようだ。
普段のあいつの歌い方などは知らないが、とても……真剣な顔つき。
希「♪僕にとって貴女は特別
幼い頃助けてくれた 孤独だった棒を
だから今度は 僕が助けたい
貴女もまた 孤独と悲しみ 背負っている
僕と貴女は同じだよ
だからそんなに 背追い込まなくていいんだよ
貴女はとても強かで 優しくて 温かい
僕はそれに 甘えていた
今度は僕が 貴女を救うよ……♪」
綺麗な歌声だと思った。
それと同時、それが私に向けての歌だと、気づいてしまった。
夢叶「どう、して……」
梢「うぅ……いい歌です……」
希「♪貴女にとって 僕は邪魔かもしれない
信じられないかもしれない
けど 信じてほしい
僕は 貴女を裏切らない 傷つけない
貴女はとても強かで 優しくて 温かい
僕はそれに 甘えていた
今度は僕が 貴女を救うよ♪」
ラスサビを歌い終え、曲も終わった。
普通ならば、拍手が巻き起こる筈だ。けれど、拍手は起こらなかった。
希「……この歌は、僕が好きになった人に向けての、歌です。
僕は半年間、仕事を休んでいました。その間に、好きな人と付き合えるようになりたいと、思ってのことです。
けれど僕は、一度振られてしまいました。仕方のないことです。僕は、あまりに無神経すぎたんです。
彼女は、僕が思っているよりも、深い哀しみを背負っていました。深い深い傷を、負っていました。
僕はそれを知らず、彼女を傷つけていました。
けれど、あるきっかけが……玄夜がきっかけを作ってくれて、彼女の傷を、哀しみを、知ることが出来ました。
もう、会いに行くのはきっと無理ですから……疎まれるだけですから、この歌に想いを乗せました。
きっと……彼女がこれを見ていると、信じて。」
莉乃「きっと伝わってるわよ……ね?」
梢「はい……はい……!」
私と沙月以外のメンバーは、涙声でそんな感想を述べている。
希「皆さん驚かれたかもしれません。突然、僕みたいな存在に、好きな人が出来たなんて発表されたんじゃ。
それこそ、僕を応援してくれている人達を、裏切るような行為だと思っています。
でも僕は、今の地位を捨ててまでも、手に入れたいものがある。今の僕を捨ててでも、僕は……彼女と、結ばれたい。
彼女と結ばれる為なら、僕は芸能界だって辞めます。何もかも捨てられます。
だって僕も……芸能人の前に、1人の人間ですから。
きっと明日には、色んな週刊誌やニュースで、騒がれることでしょう。批判も買うでしょう。
それで辞めろと言われれば、僕はすぐにでも芸能界を辞めます。僕にとって芸能界は、その程度のものですから。芸能界に悔いはありませんから。
それよりも僕は……彼女と一緒に、なりたいですから。」
あまりに身勝手過ぎる言葉だろう。それでも、何故か説得力があった。
その言葉を聞き終えると同時、何故だか会場は拍手が巻き起こった。
これまで彼は、これ程強い意志を見せてこなかったのだろう。だから、彼の本心とも言えるものを聞けて、会場は満足したのかもしれない。
夢叶「っ……」
私は、それを聞いて、持っていたリモコンを振り上げた。
……でも、感情に任せて投げ捨てることは、叶わなかった。
ただただ、私も泣いていた。どうしてって思った。
だって、だって私は、あんな酷い振り方をしたのに。彼に酷い言葉を、沢山投げたのに。
なのに、どうして……どうしてそこまで、想ってくれるのか……それが、私には理解出来なかった。
瑞稀「届くといいわね……佐藤 希の想い……」
沙月「夢叶……」
夢叶「………」
どうして……どうして……どうしてあんたは、そんなにも……真っ直ぐに、私に向き合ってくれるの……。
どうしてそんなにも……純粋に、想ってくれるの……。
今すぐにでも問い質したい。でも、出来ない。だって、あれだけ一緒にいたのに、私はあいつの連絡先を聞かなかった。
バカだな。聞いておけば……こんなことにならなかったのに。
こんなにモヤモヤせずに、済んだのに。
沙月「夢叶、明日予定ある?」
夢叶「明日は、お昼からバイトで……」
沙月「じゃあ、午前中は?」
夢叶「何もない……」
沙月「なら、明日朝の9時に、夢叶の家に行ってもいい?」
莉乃「なになに、どうしたの?」
沙月「あ、ごめんね、皆……。これは、私達2人だけで、話したいことだから……」
瑞稀「そう、わかった。」
沙月「で、夢叶。いいかな?」
夢叶「……うん。」
沙月「それじゃ、また明日ね!」
そう約束して、私達は年末の挨拶をして、電話を切った。
もやもやして眠れないが、何だか疲れてしまい、私は年を越すよりも早く、眠りについた。




