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21話…罪と護身術。

夢叶さんとの時間は、あっという間で、残り時間も僅かとなった。


夢叶「私との時間は、これで終わりね。次、誰か指名はある?」


玄夜「それなら、店長呼んできてくれよ。」


夢叶「は?店長?」


なんと、この店は店長までも指名出来るのか。ということは、店長も現役メイド?


夢叶「悪いけど、店長の指名は……」


店長「良いのよ、夢叶ちゃん。私も丁度、彼らとお話ししたかったから。」


と、夢叶ちゃんの言葉に被せて現れた、緩いパーマがかった髪型をした、若く見える女性。

だが、店長ともなると、多分30代。なのに、この店長は20代と見間違える程若く見えた。


夢叶「店長……」


店長「夢叶ちゃんは、休憩した後に次の指名の席に行ってて頂戴。」


夢叶「……わかり、ました。」


そう言うと、夢叶さんはどこか名残惜しそうに、僕らの席から去っていった。


玄夜「よぉ、元気してっか?」


店長「ええ。元気にしてるわ。玄夜くんも、元気そうで安心した。」


希「え。玄夜、ここの店長とお知り合い……なの?」


玄夜「ああ。まあ……俺の初恋の人だよ。」


希「えぇ!?」


店長「ふふ、ご近所さんだったの。それで、玄夜くんが小学生、私が高校生の頃に、告白されてねぇ。」


玄夜「ほんっと、昔っから変わんねぇよな。その綺麗さ。」


店長「あらぁ。嬉しいこと言ってくれるわぁ。」


奏「それで、僕らに話って……」


店長「ああ、そうそう。えーっと……佐藤 希さん、と言ったかしらね。」


希「は、はい。」


と、店長さんは僕を名指しした。僕、何かしただろうか。


店長「貴方、夢叶ちゃんのことを昔から好きだったそうね。」


希「………」


僕は、玄夜の方をチラリと見る。一体、この店長はどこまで知っているのだろうか。


玄夜「希、大丈夫だ。粗方話してある。……お前が見ていた、夢のことも。」


希「……はい。僕、昔不思議な夢を見ていて……それが、孤独だった僕に優しくしてくれる、夢叶さんだったんです。だから僕は、夢叶さんを好きになりました。」


店長「そう。私もね、本当にそんなことがあるのかと、今でも疑っているのよ。」


玄夜は、粗方話していると言ったが、店長さんは困ったような笑顔で、話した。


店長「玄夜くんに言われた通り、こないだ夢叶ちゃんと飲みに行ったの。」


玄夜「どうだった?」


店長「凄く驚いたわぁ。夢叶ちゃん、凄くお酒に強いのね。

……って、まあそれだけじゃなくて、夢叶ちゃんが打ち明けてくれた話。それにも凄く驚いた。」


希「打ち明けて、くれた……?」


店長「……希さん。驚かずに聞いてね。」


僕は、耳を疑った。現実を、疑った。

だけどこれは……どこまでも残酷で、冷たい現実だった。


店長「夢叶ちゃん、実のお父さんを、殺してしまったみたいなの。」


______________________________


その日、私達はまず居酒屋で飲んで、その後バーに行ったの。

夢叶ちゃんったら、何か悩み事があったのかしらね。まるでヤケ酒をするように、居酒屋でもバーでも、物凄い量を飲んでいたわ。


店長「夢叶ちゃん、そんなに飲んで大丈夫……?」


夢叶「ああ、はい……大丈夫です。

……あまり誇れたことではありませんが、多分、父の血を濃く継いでいるんでしょうね。私、お酒に強いんです。」


そう言う夢叶ちゃんは、本当に嫌そうだったわ。

そういえば、夢叶ちゃんの家はお父さんがいなかったことを、思い出したの。私はその話を聞くまで、離婚したのか、早くに亡くしたものだと思っていたわ。


店長「でも、若いうちからそんなに飲んでいたら、将来体を悪くするわ。」


夢叶「……それも、そうですね。」


夢叶ちゃんはそう言いながら、もう何杯目かもわからないカクテルを、一気に飲み干した。

そして……何か覚悟を決めたのか、私に語り出したの。


夢叶「……店長は、人を殺したことは、ありますか?」


その質問に、戸惑ったわ。人を殺すなんて、まず普通の人生を送っていたら、そんなのないもの。


店長「え……?」


夢叶「普通、ないですよね。でも……私は、あります。

人を……父を、私はこの手で、殺めてしまったんです。」


店長「お父さん、を……?」


夢叶「はい。

あれは、私が中学3年の、卒業を控えた時でした。

父は、私の成長を喜びましたが、それが純粋に、子の成長を喜んでるものではありませんでした。

自分の酒代を増やす為に……私に如何わしい仕事を、早くさせたがってたんです。」


店長「!!」


夢叶「私は、別に私だけが我慢出来れば、それで良いとも思ってました。

けれど……母が、弟が、どんな思いで父を見てきたか。どんな思いで父と過ごしてきたか。それを訴えました。

だから、昔のような優しいお父さんに戻ってって、説得しました。でも……伝わなかった。」


店長「………」


夢叶「父に、聞いたんです。そんなにお酒の方が大事なのか。私達家族の方が、大事じゃないのかって。

すると、父は答えました。『俺にとって……あの女も、お前も、玲緒も、邪魔な存在だ』って。

それに……限界が、来たんです。これはもう、私1人が我慢すれば良いだけの問題じゃないんだって、気付かされました。

だから、私……」


店長「……どうしたの?」


夢叶「……父に掴みかかり、橋の手摺に追い詰めました。まさか、そんなことになるなんて、思わずに。」


店長「そんなこと?」


夢叶「父が背にしていた手摺が、壊れたんです。老朽化が進んでいて。

父は、橋の下に落っこちて、岩に頭を強くぶつけました。もうそこは、血塗れでした。多分……即死だったんでしょう。起き上がりませんでした。」


店長「………」


夢叶「私は、その現実を受け止めきれられず、家まで走りました。そして、母が何かあったのだとすぐ気づき、私から話を聞きました。

……本当なら、その時点で警察に、私は自首しなきゃいけなかった。けれど、母は私の所為じゃないと言ってくれて、警察に偽証しました。『あの人は酔っ払っていて、手摺に凭れ掛かった時、橋も老朽化が進んでいて、それで落っこちたのだ』と……。」


店長「そんな、ことが……」


夢叶ちゃんは、淡々と語ったわ。余計な感情を、交えないように。けれど、わかってしまったの。哀しんでいるのだと。自分を責めているのだと。


夢叶「だから、私は家族を守らなければ、ならないんです。父を殺してしまった、贖罪として……」


店長「………」


私は、何も言えなかった。夢叶ちゃんは、いつも頑張ってくれていた。家族の為だということは知っていたけれど、そんな事情があったからこそ、頑張っているなんて、思ってもみなかった。


夢叶「……だから、断るしかなかったんです。」


店長「え?」


夢叶「店長にだから言うんですけど、私……あの佐藤 希に、告白されていたんです。

でも……こんな罪を背負っている私が、罪も穢れも知らない彼と、結ばれてはいけないんです。

だから……彼が私を諦められるよう、酷い言葉を投げかけて、断りました。」


店長「……!」


夢叶「何も、間違っていない。何も、後悔はない。……筈、なのに……。

どうして私、こんなに哀しいんですかね……。どうしてこんなに、寂しいんですかね……。

私には、わからない感情です。」


店長「夢叶ちゃん……」


もしかしたら、そんな罪がなければ。

夢叶ちゃんは、佐藤 希さんと、結ばれたかもしれないのに。佐藤 希さんの想いに、素直になれたのかもしれないのに。

本当に、夢叶ちゃんは……可哀想な人だわ。


______________________________


希「………」


店長「……これが、この前飲みに行った時の話よ。」


僕は、呆気に取られるしかなかった。そんなことがあったなんて……夢叶さんがあの日言っていた罪が、自分の実の父親を殺していたこと断あんて、思ってもみなかった。


夢叶さんが、家族を守らなければと言う度に、思い詰めた表情をしていた理由は、これかと思い知らされた。


玄夜「……まあ、俺も知ってんだけどさ。

あの日、父親は夢叶のことを殴ったし、そもそも最初に掴みかかったのも、父親の方だ。

だから、正当防衛だって誰だって思うし、警察もそう判断するだろうと思ってたんだが……それでもあいつは、殺したんだともい混んでいる。」


奏「そんな……」


店長「私も、玄夜くんと同じ意見よ。正当防衛だと思うわ。」


希「そんな、ことが……。なのに、なのに僕、そんなこと知らずに……受け止めるなんて、軽率なこと……。」


本当、軽率だった。彼女は、こんな重い過去を、今もずっと背負っている。傷ついている。なのに、簡単に受け止めるだなんて言って、余計に彼女を傷つけたなんて、僕は思ってもみなかった。


玄夜「あー……お前が思い詰めるのも、わかるがな。

でもこんなの、話されねーとわかんねぇよ。だから、あんま気に病むな。」


希「でも!……もし、知っていたなら、もっと違う言葉をかけられたのに……。傷つけることなんて、なかったのに……」


玄夜「………」


希「夢叶さん……」


だからこそ。僕は、決意した。


希「……僕、夢叶さんにもう一度、伝えます。」


玄夜「え?」


希「今すぐではないですけど、時を見て、もう一度伝えようと思います。

……今度は、夢叶さんのそんな心の傷も、包み込めるような言葉を考えて。」


奏「希……」


僕は本気だ。

そんな罪があったって、僕は夢叶さんが好きだ。その気持ちに変わりはない。

でも、今すぐ伝えたとこで、またあしらわれるだけだろう。だから、もう少し時間を置いてから、伝えよう。

そうぼくは、心に誓った。


そんな、時だった。


メイド「や、やめてください!」


希「……!?」


客「いいじゃねーかよ。ご主人様にご奉仕するのが、お前らメイドの仕事だろ?」


客「そーそー。嫌がってちゃ指名も貰えないぜ?」


僕がそんな決意をした……と、同時。別卓からメイドの嫌がる声が聞こえた。

何かと思い、その別卓の方に視線を移すと……チンピラ客がメイドに、ポッキーゲームをせがんでいるところだった。


ポッキーゲーム……。お互いが端から食べていき、最後にはキスをする……というものだったかな。

だが、さっき夢叶さんが卓についた時、説明していたではないか。『過度な接触はNG』と。

彼らもその説明を受けた筈だ。なのに、これは……。


メイド「で、でもぉ……」


客「あぁ?俺の言うことが聞けないわけ?」


客「高い金払って来てやってんだから、言うこと聞けよ。」


メイド「っ……」


玄夜「あーうぜ……ああいう客がいるから、メイド喫茶も質が落ちるっつーの……」


奏「て、店長さん……」


店長「大丈夫よ。私がおさめて来るから……」


と、僕はその言葉を聞き終わらないうちに、その卓に向かった。


玄夜「お、おい、希!」


希「やめるんだ!」


客「あぁん?何だ、お前。」


希「その人、嫌がってるのがわからないのか!?」


客「テメーにゃ関係ねーだろ!」


希「ああ。確かに僕は、別卓の客だ。だけど、こんなのを黙って見過ごせなんて、出来ない!

今すぐその子から手を離すんだ!」


客「うっせーな!テメーは黙ってろ!」


そう言うとチンピラ客は立ち上がり、僕に殴りかかった。

僕は、確かに運動神経はある方だが、護身術などは一切習ったことがない。なので、目を瞑って殴られるのを待つしかなく……。


……だが、いつまで経っても、痛みは感じなかった。

不思議に思い、目を開けると……


希「!!ゆ、夢叶さん!」


夢叶さんが、片手でチンピラ客の拳を、受け止めていた。


夢叶「……ったく、何厄介事に首突っ込んでんの。」


希「え、えっと……!つい、見ていられなくて……」


客「な、何だお前!」


夢叶「私?私はこの店のNo.1メイドよ。」


客「っ……な、No.1だか何だか知らねーが、客にこんなことしていいと思ってんのか!」


夢叶「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。

……客だからって、何してもいいと、勘違いしてない?」


客「はぁ?メイドはご主人様にご奉仕すんのが、仕事だろ!」


夢叶「ええ、普通のメイドならそうでしょうね。

でも、ここはメイド喫茶。普通のメイドじゃないの。

メイドにだって人権があるのよ。だから、あんた達がしてることは、ただのセクハラ。それは訴えられたって仕方のないことよね?」


客「っ……」


夢叶「ここで手を引いてくれるなら、私もこれ以上は何もしない。お金だって返すわ。

……でも、まだ何かするって言うのなら、私も容赦しない。」


客「お、お前ら!やっちまえ!」


夢叶「あら?私のセリフが聞こえなかった。残念だわ。

……なら、容赦しない。」


そう言うと、夢叶さんは何とも鮮やかに……そのチンピラ客達を捩じ伏せた。

空手で鍛え上げたのだろう。それは本当に、何とも鮮やかに、無駄な動きは一切なく、相手だって手も足も出なかった。


気づけば、そのチンピラ客達は床に寝ていた。


客「く、クソ……お前、何なんだよ!」


夢叶「メイドたるもの、護身術だって身に付けてないとね。」


客「こ、こんなの……護身術なわけ、ねーだろっ……!」


夢叶「あら、バレた?まあいいわ。

『ご主人様』を守る為に、こういう術を学んでいないと、メイド失格でしょう?」


客「くそ!覚えてろよ!」


夢叶「もう2度と来なくていいわよ〜。」


そうして、チンピラ客達は去っていった。


メイド「ユカさん!ありがとうございます!」


夢叶「いいのよ。貴女の方こそ、何ともない?」


メイド「はい!ユカさんが守ってくれたので、何ともありません!」


夢叶「それはよかった。」


希「あ、あの……」


夢叶「……あんたも、何ともなさそうでよかった。

いい?あんたは人気芸能人。その自覚を持って、これからは行動なさい。でないと……いつか、痛い目見るわよ。」


希「は、はい!」


夢叶「……はあ。折角の休憩が、台無しになっちゃった。」


店長「夢叶ちゃん、ありがとう。お礼に、少しだけお手当、出すわね。」


夢叶「そんな、いいんですよ!」


店長「いいえ。これは、私からの気持ちだもの。受け取って頂戴。」


夢叶「店長……ありがとうございます!」


夢叶さんは、僕の方に目もくれず、また休憩する為だろう。裏方へと行ってしまった。


奏「……ほ、本当に強いね、夢叶ちゃん……」


玄夜「まあ、空手大会で全国優勝するくらいだからな……」


希「夢叶さん……」


本当に夢叶さんは、凄い人だ。強い人だ。

僕なんかより……ずっとずっと。

彼女は、守る術を持っている。でも、僕は……。


希「……それでも。それでも僕だって、夢叶さんを守れるくらい、強くなってみせます。」


僕は1人、そう呟いた。

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