19話…答え。
今日は私の誕生日だった。それを私はすっかり忘れ、いつも通りの日常を過ごしていた。
けれど、家へと帰ってみれば、沙月達が先回りしており、私の家で祝ってくれると言うので、狭いが私の家で誕生日パーティーをした。そして、これで全員お酒解禁ということで、皆でお酒を飲んだ。
時間はあっという間に過ぎ、気づけば23時。流石にそろそろ解散しようということになった。
それに……まあ、莉乃がかなり酔っ払ってしまったのもあるが。
瑞稀「全く、弱いのにあんなに飲むんじゃないわよ。」
莉乃「い〜じゃん、これで全員20歳になった、目出度い日なんだからさ〜……ヒック。」
梢「目出度いのはわかりますけど、多少は限度を知りましょうね……」
夢叶「大丈夫?送っていかなくて……」
沙月「大丈夫大丈夫!うちの親に頼んであるからさ!
兎に角……夢叶。夢叶はこれから、決断しなきゃいけないでしょ?」
夢叶「!!……どうして、それを……」
沙月は何故だか、私が決断しなければならないのを、知っていた。
多分だが……沙月は、気づいていたのだろう。私の遠い親戚、鈴嶺 和臣と紹介した男が……佐藤 希だと。
そして、どこから漏れたのか知らないが、その佐藤 希が私に告白していたことを。
沙月「ふふ、それは内緒。まあ兎に角、その邪魔はしちゃいけないからさ。
……後悔しない選択を、するんだよ。」
幼馴染だからだろう。沙月はそう、私に念を押してきた。
……後悔しない選択、か……。
夢叶「……努力するよ。」
沙月「宜しい。じゃ、また月曜日にね!」
「「「お邪魔しましたー!」」」
そう言うと、4人は私の家から去っていった。
結子「ふふ、夢叶のお友達は、皆楽しい子達だったわね〜。」
玲緒「なんか、皆性格もバラバラで一貫性がなかったよね。よく友達になれたね。」
夢叶「そこがいいのよ、楽で。」
玲緒「ふーん……」
希「はい、夢叶さん。」
佐藤 希は変装を解き、私にハーブティーを淹れてくれた。
夢叶「ありがとう。」
初めの頃は、疎ましく思っていたが、今では家族の一員のように、彼はこの家に存在していた。
私も、そこまでの拒絶反応が見られることも無くなっていた。
そして……今日で、約束の半年目。私が答えを出さなければならない日だ。
それが私の誕生日だなんて、何とも作為的だなと思った。もしかして、こいつは計算して半年前に現れたのではないかと、思える程。
夢叶「……今日で半年目。約束の日ね。」
希「……はい。」
その場に沈黙が流れる。重い空気だ。
佐藤 希は、表面いつもの表情……笑顔だが、内心は多分気が気じゃないだろう。
私も……緊張している。上手く言えるだろうか。
……上手く、欺けるだろうか。
玲緒「姉ちゃん、勿論OKするよね……?」
結子「……それは、まだわからないわ。」
夢叶「……結論を言うわ。」
希「はい。」
夢叶「……やっぱり私は、貴方とは付き合えない。」
希「……!」
玲緒「な、何で!?」
と、私が答えを出したと同時、佐藤 希は目を見開き固まるしかない。そんな佐藤 希の代わりとでも言うように、玲緒が疑問の声を上げた。
夢叶「確かに貴方は、私の為に色々良くしてくれた。暴漢からも守ってくれたし、料理勉強会で私の友達にも良くしてくれた。
だけど……やっぱり私は、貴方と付き合うことは出来ない。
何故なら、貴方が超人気芸能人だからよ。」
希「じゃあ、僕が芸能界を辞めれば……!」
夢叶「いいえ。辞めたところで私は、貴方を選ばない。
だって、貴方と私じゃ……どうしても埋まらない、絶望的なまでの壁があるのだから。」
希「そんなことありません!夢叶さんは、僕なんかより強くて、とても素敵な人で……!』
夢叶「それは貴方が買い被ってるだけよ。現実を見なさい。
私は、あんなキラキラとした世界では生きられないし、平凡で退屈な日常を生きることしか出来ない凡人。
そんな私が、昔から凄く人気を博している芸能人と、付き合えるわけがないでしょう?」
希「そんなことないです!夢叶さんは、夢叶さんだってとても素敵な才能を、持っていて……!」
夢叶「っ……いい加減にしてよっ!!」
希「!!」
私は大声を出して、机の上に置かれていたハーブティーの入ったティーカップを、薙ぎ倒した。
薙ぎ倒されたティーカップは、机から床に叩きつけられ、割れてしまう。
夢叶「どうしてあんたは、気づかないの?私が迷惑してるってことに。
あんたが来てから、私の生活はめちゃくちゃよ。元から短い睡眠時間だって、眠れなくなっちゃうし、友達に嘘を吐かなきゃいけない生活を強いられて……。」
希「っ……」
今の私は、上手く表情を作れているだろうか。
……泣いて、ないだろうか。
夢叶「もううんざりなの!こんな生活を続けていくことが!あんたの顔を毎日見なきゃいけないことが!
それにあんたは、知らないのよ!私は、私は過去に罪を犯しているの!
そんな私が、罪も穢れも知らないようなあんたと、付き合えるわけがないでしょ!?」
希「それでも僕は、貴女を受け入れます!」
まるで、沙月達と遊びに行った日に観た、佐藤 希の映画と似た光景だ。
佐藤 希は、罪を犯している私でも、受け入れるなどと言う。本心からだろう。だけど……。
夢叶「煩い!そんな戯言聞きたくない!
私はね、過去に、過去に自分の父親を_____!!」
結子「夢叶。」
夢叶「!!」
どんどんヒートアップしていき、私の秘密……つみまで語りそうになっていた。でもそれを、お母さんが間に入って止めてくれた。
結子「そのことは……秘密、でしょ?」
夢叶「……そう、そうだった、ね……」
結子「……希さん。申し訳ないけれど、これがこの子の答えなの。」
お母さんは私の代わりに、冷静に答えを佐藤 希に伝える。
希「……わかり、ました……」
見るからに元気を失くしている佐藤 希。目からは光が失われている。
……彼の希望を奪ったのは、この私だ。嗚呼、私はどれだけ罪を重ねれば、気が澄むのだろう。
夢叶「……わかったなら、もう2度と……私の前に現れないで。」
私は冷たく、そんなセリフを吐き出す。
彼は今日が約束の日なので、私がどんな答えであれど、一度自宅に戻らねばならなかったのだろう。荷物はもう纏めてあった。
希「半年間……おせわになりました。とても……とても、僕にとっては楽しい時間でした。ありがとうございました。
それでは………お元気で。」
それだけ挨拶を済ませ、彼は去っていった。
玲緒「……………姉ちゃん。」
夢叶「な___」
玲緒に呼ばれ、玲緒の方に向いた途端。
玲緒に頬を叩かれた。
結子「玲緒!」
玲緒「姉ちゃんのバカ!何であんな言い方しか出来ないわけ!?希さんは、姉ちゃんの為に色々してくれたんだよ!?命だって助けてくれたんだよ!?
なのに……なのにっ……!」
結子「玲緒、やめなさい!」
お母さんの制止の声で、玲緒はビクッと体を震わせ、冷静になったのだろう。
それでも、玲緒は私の代わりなのか、目にいっぱいの涙を溜めていた。
玲緒「っ……姉ちゃんのバカ!!」
そう言いながら、玲緒は自室に引き篭もった。
先程まで、私を思ってプレゼントだって渡してくれた玲緒。そんな玲緒のことも、私は裏切り、傷つけたのだ。
嗚呼、私はどれだけ……罪深いのだろうか。
結子「……夢叶。」
夢叶「……はは。私ったら、最悪だね。ごめんね、お母さん……大事なティーカップ割っちゃって……。こんなんじゃ、お父さんと同じ……だね……」
私は、無理やり笑顔を作る。お母さんを心配させない為に。
結子「……無理に笑わなくて、いいのよ。」
心配そうにするお母さん。
夢叶「やだなぁ……無理に笑ってなんか、ないよ。
あれが、本心だったんだから。」
結子「夢叶……」
夢叶「ほら、お母さんも明日早いでしょ?もう寝ちゃお。」
結子「……そうね。」
……これで、良かった。良かったんだ。
そう、自分に言い聞かせながら、私は眠りについた。
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自宅へと辿り着いた。
高層マンションの最上階。1人暮らしには似合わない、広い部屋。
マネージャー「じゃあ、荷物は下ろしといたから。明日から復帰、よろしくね。」
希「……はい。」
マネージャー「……ふられてつらいのはわかるけど、貴方は今をときめく人気芸能人。気持ちを切り替えてよ。」
希「わかってます!!」
マネージャー「……ならいいの。」
それだけ言うと、マネージャーは去っていった。
僕は1人、家の中へと入る。
希「ただいま……って、もう挨拶をしてくれる人は、いないんだったな……」
夢叶さんの家にいた時の癖で、つい挨拶の言葉を零す。だが、それが返ってくることはない。
結局、僕の夢は叶わなかった。
どうして僕の願いは、夢はどれもこれも叶わないのだろう。
普通の人からして、人気芸能人になれたのは『夢が叶った』というべきことだろうが、僕は別に、人気芸能人になりたかったわけじゃない。
元は、ただ両親を笑顔にさせたくて始めたことだった。
両親が離婚した以上、芸能界に留まる理由がなかった。それでも、夢で会った夢叶さんに言われるがまま、続けただけだ。その結果、人気芸能人になれただけで、夢が叶ったわけじゃない。
本当の僕の願いは、どれも叶わなかった。
希「……片付けなきゃ。」
夢叶さんの家に持って行ってた、僕の荷物を片付けようと、スーツケースを持って家へと上ろうとした、その時。
希「あっ……!」
断裁に躓き、派手に転んでしまった。
だけど……
希「……痛い、けど……身体より、心の方が……痛いな……」
そう、1人呟く。誰からも声が返ってくることはない。
気づけば僕は、泣いていた。
大の男が泣くなんて、本当にみっともない。情けない。
好きな人にふられるというのは、こんなにも心が痛いものなのか。そう僕は分析する。少しでも、冷静になる為に。
だが、涙が止まることも、冷静になることも出来なかった。
本当に好きだった。心の底から好きだった。
夢で会っていたという、理想像を超えて……夢叶さんは本当にいい人で、強かで、優しくて、温かい人だった……。
だから余計に、惹かれていった。
だけど結局、僕の一方通行でしかなかった。
夢叶さんには微塵も……僕のことを好きにはなって貰えなかった。
少しでも意識して貰えてるかも、などと考えていた自分が恥ずかしい。
希「……はは。僕は一体……何の為に生きてるんだろうな……」
もう生きる意味すらなかった。これまで頑張ってきたのは、いつか夢叶さんと出逢う為だった。そして、結ばれようとしていた。だけど、そんな願いも夢も、叶わなかった。
それはつまり、僕の生きる意味も理由も、なくなったことを示している。
台所へ行くと、包丁が目に止まった。
……もしこれを、自分のお腹なり心臓なりに突き刺せば……僕の人生は、終わることが出来る。
こんな意味のない人生、夢も何もない人生を、終わらせることが出来る。
そう思い、包丁を握る……が。すぐさま包丁から手を離した。
希「……出来ない……。夢も何もないのに、死ぬことも怖くて……死ぬ勇気すら持てなくて、出来ないっ……」
嗚呼、僕はなんて弱虫なんだろう。死ぬ勇気すら持てないなんて。
これから僕はまた、色のない世界で、生きていくのか。
希「……でも……」
僕は、諦めきれない。
死ねないのなら、まだ足掻くことくらい……許される筈だ。
そう思い僕は、片付けすら放棄して、机に紙とペンを用意して、没頭した。
大丈夫、何度か作詞作曲はやったことある。しかも、どれも大ヒットした。
大ヒットするのが目的ではないが……大ヒット出来るくらいであれば、夢叶さんの心に届く歌だって、作れる筈だ。
言葉で伝わらないなら、歌に乗せればいい。
そう考えて僕は、数日間寝る間も惜しんで、曲を作った。
この痛みが癒えない内にこそ、夢叶さんに届けられると思って。




