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1話…日常の壊れる音。

客「バイバーイ、ユカちゃん!」


客「また遊びに来るね!」


夢叶「はい、お待ちしております。」


夜23時。

やっと繁盛していた時間も終わり、店の閉店時間となった。


店長「ユカちゃん、今日もありがとう。今週も売り上げNo.1よ!」


私の客達は笑顔で帰っていき、私は貼りつけていた笑顔と、甘ったるい声をやめ、元の声色で店長と話す。


夢叶「それはよかったです。」


店長「じゃあ、裏に来てね。今日のまかないも、奮発して作っちゃうから!」


夢叶「やったー!」


そんな会話をして、バックヤードへ行き、服を着替える。

至って普通な、パンツスタイル。

…うん、やっぱり私はフリフリのスカートより、こっちの方が好きだな。


店長「はい、今日はユカちゃんの大好きな豆腐ハンバーグと、白味噌で作ったお味噌汁。」


店では洋食を出すのだが、まかないでは和食も出る。

何故なら、店長がとてつもなく料理上手だからだ。


夢叶「いただきまーす!

……うん、美味しい!やっぱり店長、すっごく料理が上手ですね!」


店長「そんなことないわ~。レシピを見て作れば、誰だって作れるのよ?」


夢叶「そ、そうだといいんですけどね……」


店長「うふふ、でも大丈夫。私だって昔は料理が下手で、苦労したけれど…練習を積み重ねていって、上手になれたの。

だからユカちゃんも、将来は上手くなれるわ!」


夢叶「店長にそう言われると、そんな気がします。」


そんな談笑を食事と共に終わらせ、帰宅の準備をした。


店長「お疲れ様。明日は休みだから、今日はゆっくり休んでね。」


夢叶「はい。そうさせてもらいます。

では、お疲れさまでしたー!」


そんな挨拶を済ませ、帰路へつく。

車の免許は一応持ってはいるが、車を維持するお金が勿体ない為、私の移動手段は大体自転車だ。

たまに徒歩で電車を使うこともあるが、どうも電車にはいい思い出がなく、躊躇ってしまう。


自転車で40分。

家へとついた。


リビングの電気はついているから、お母さんは相も変わらず私の帰りを待ってくれているのだと、確認出来た。

弟の玲緒は……まあ、明日も学校だから、寝ているだろう。

ここ数日顔を合わせていないが、よくあることだ。


寂しい気もするが、仕方のないこと。

私が働いて、家を支えなければ…お母さんばかりに苦労をかけていられない。


そう、私にとって、お母さんも弟の玲緒も、大事な大事な家族なのだ。


それに……あの日、誓ったんだ。

2人を守っていく…って。


夢叶「……早くお風呂に入って、明日に備えなきゃね。」


明日も、朝から新聞配達のバイトがある。

夕方のバイトは休みだが、朝は早い。

だから早く休まなければ。


自転車を停め、玄関を開ける。


夢叶「ただいまー……ん?」


と、玄関にはお母さんと玲緒の靴……と、もう1つ。見覚えのない男物の靴があった。

お母さんの職場の人だろうか。

いや、だとしても、こんな時間にいるなんて、礼儀知らずにも程がある。いくらお母さんが菩薩のように優しくても、常識というものがあるだろう。


だとすると、一体誰が……。


恐る恐る、リビングへと近づく。

それにつれ、玲緒の笑い声と、お母さんの声が聞こえてきた。

何を話しているかは、よくわからない。だが、何とも楽しそうに話している。

こうして聞き耳を立てていても仕方がない。

私は勇気を出して、リビングの扉を開けた。


玲緒「あ、噂をすれば!姉ちゃんおかえり~!」


結子「おかえりなさい、夢叶。」


夢叶「ええ、ただいま。」


?「!!…貴女が…夢叶さん…」


談笑していた相手は、帽子を深く被っており、顔の判別は出来なかった。

だが、私を見るなり急に立ち上がった。身長はかなり高め。

まあ、それだけで男だと決めつけるには早計だが、声も低かった。

それに、玄関にあった靴は男物だ。この人は、男だと断定していいだろう。


だが、私の友人にこれほど身長の高い人はいない。

見知らぬ人だが、それが何故、私の家に…?


結子「そうだ。希さん、紹介しますね。

この娘が夢叶。働き者の大学2年生です。

ほら、夢叶も挨拶して。」


夢叶「あっ…えっと、神崎 夢叶です。」


?「………」


夢叶「…?えっと…」


男は黙り込んで、私を見つめる。私、何かしただろうか。いや、まだ自己紹介しかしていないのに、何かしたもないだろう。


?「……やっと、会えた。」


夢叶「え?」


と、突然。何が起こったのかわからなかった。

だが、身体を包む温もり。


今、私は抱きしめられている。

この正体不明の男に。


夢叶「!?」


結子「あらあらまあまあ…」


?「……あっ!ぼ、僕ったら、つい…失礼しました!」


そう言い、男は慌てて私を離した。


?「自己紹介もなく…本当、失礼しました。

僕は、佐藤 希と言います。」


そう言いながら、深く被っていた帽子を取る。

現れたのは、綺麗な金髪と碧眼。

どこか見覚えのある顔だなと思った。でも、どこで見たんだったかな…。


玲緒「姉ちゃん、驚かねぇの?」


夢叶「驚くって、何が?」


玲緒「はぁ~…だから、仕事ばっかせずテレビも見ろって言ってんじゃん!

希さんの顔、見たことあるでしょ?」


夢叶「そうね。」


玲緒「今をときめく超人気芸能人の、佐藤 希だよ!」


夢叶「成程ね~………って、はぁ!?

な、何でそんな人が、うちにいんのよ!」


玲緒がそう説明してくれたが、テレビで見る以前から、私は彼のことを知っている…何故だか、そう思った。だけど、それが何故だかは思い出せない。


玲緒「なんか、姉ちゃんに用があるって……」


と、玲緒が言い切らないうちに、佐藤 希は私に跪き、私の左手を取りこう言った。


希「夢叶さん。僕と結婚を前提に、お付き合いしてくれませんか?」


夢/玲「「……はぁああああああ!?」」


私と玲緒は、声を揃えて驚きの声を上げた。無理もないだろう。いきなり人気芸能人が目の前に現れたと思ったら、この私に、告白してきたのだから。

しかも、普通の告白ではなく、結婚を前提にときた。

普通の告白でも驚くのに、結婚を前提になどとなれば、もっと驚くに決まっている。


結子「あらあらまあまあ…」


玲緒「希さん、本気で言ってるんっすか!?」


希「当たり前ですよ!こんなとこで、僕は嘘を吐きません。」


玲緒「でも姉ちゃん、料理下手だし、お洒落じゃないし、唯一得意とすれば空手くらいで、女のおの字も当てはまらないくらい女らしくないのに!?」


夢叶「玲緒、あんたあとで覚えときなさいよ。」


希「いいんです、それでも。

兎に角僕は、夢叶さん。貴女に惹かれて、ずっとずっと探していたんです。

嗚呼、やっと会えた…!」


と、また佐藤 希は私に抱き着く。


夢叶「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待って。

え、これなんかの撮影?そうよね、そうに決まってるわ。

だってそうでなきゃ、あんたみたいな人間が、うちに来るわけないものね!

隠しカメラは何処?どうせこんなイケメンに告白されて、私が感極まって泣いちゃうとこを撮りたいんでしょう?

はっ!誰がその手に乗るものですか!ほら、スタッフとかも出てきなさいよ!」


希「残念ながら、そういうんじゃありません。

純粋に、僕の想いを伝えているんです。」


夢叶「……本気?」


希「ええ!」


この時、私は感じ取った。

私の何の変哲もない日常が、壊れていく音を。


希「夢叶さん。貴女を、絶対に僕のものにしてみせます。」


そう言い、私の左手にキスをする。


夢叶「……嘘でしょ……」


神様。あなたがもしもいるのなら

どうして、こんな事態を起こすんです?

私は、私はただ、退屈でつまらないような、平凡な日常でよかったのに。

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