18話…約束の日と特別な日。
夏休みも終わり、大学も始まった。
最近は異常気象からか、9月になっても真夏のような暑さは続いている。
気づけば9月も下旬。佐藤 希が家にいるのも、あと約1ヶ月となった。
……つまりそれは、佐藤 希が主催する料理勉強会もあと1ヶ月しかないし、佐藤 希といられるのも、あと1ヶ月しかない。
そして、私が答えを出さなければならない。
あと1ヶ月しかいない、ということに、私の心は何故だか寂しさを覚えた。それが何故だかは、矢張りわからない。
まさか、あいつに惹かれているとでも?……いやいや、まさかね。
莉乃「キャラ弁作りも、結構様になってきたよね!」
瑞稀「そうね。和臣さん教え方上手くて、私達もすぐ上達出来たし。」
梢「感謝しかありませんね!」
3人は、佐藤 希に感謝をしていた。
まあ、私もあの勉強会のおかげで、3人ほどではないが、少しは上達した。
瑞稀の言う通り、佐藤 希の教え方はとても上手で、こんな私でも上達出来るほどなのだ。
だが、そんな日常も……あと1ヶ月で終わるんだ。
莉乃達は、寂しがるだろうか。
………
………………
………………………
そんな残り1ヶ月も、1日、1日と、あっという間に過ぎていった。
気づけば残り10日。残り10日で、佐藤 希とお別れしなければならない。
もし私がOkしたとしても、彼は仕事に復帰しなければならないのだ。これまでのように、ずっと家にいることも出来なければ、頻繁に会うことも叶わなくなる。
でもそれは、半年前の私の望んでいたことだ。だから、哀しむ必要もなければ、寂しがる必要もない……のに。
私は一体、どうしたと言うのだろう。
あと10日で、元の日常に戻れる。平穏な日々が取り戻せる。それは、喜ばしいことの筈なのに、私の心には寂しさが募った。
玲緒「あと10日かー……そしたら、もう希さんと会えなくなっちゃうのかな……」
夢叶「……そうね。」
玲緒「……姉ちゃんはさ、希さんのこと、どう思ってるの?」
夢叶「どう、って……」
玲緒「希さん、暴漢からも姉ちゃんを助けてくれたし、送迎だってしてくれたし、美味しいご飯も作ってくれて……これ以上ないほど、俺らにも姉ちゃんにも、尽くしてくれたじゃん。」
夢叶「………」
私は、苦虫を噛み潰したような表情しか出来ない。
確かにそうだ。本当に私達に、よく尽くしてくれていた。
だけど……
夢叶「……何とも、思っていないわ。」
私は、彼の気持ちに応えるわけにはいかない。
私と彼は、結ばれてはいけないのだ。だって、彼は知らない。私の罪を。
そして、知られてはいけないのだ。知られてしまっては、私だけでなく……お母さんも、巻き込んでしまうことになるから。
だから……。
玲緒「姉ちゃん……」
哀しそうな表情で、私を見つめる玲緒。もしかしたら、玲緒とお母さんにはバレているのかもしれない。私の本心が。だけどそれでも、私は隠す。
私は、幸せになってはいけないのだ。
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10月25日。金曜日。
その日は、毎年特別な日だ。だが、そんな特別な日だろうと、私は例年ならバイトに出ていた。稼ぎ時だからだ。
だが、何故だか沙月達やお母さんから、今年は休んでほしいと頼み込まれ、休んでしまった。
お母さんだけからなら、申し訳ないが断っただろう。だが、沙月達からも頼み込まれてしまった。沙月達の申し出を断るのは、気が引けた。
だと言うのに、沙月達は何故だか午後の講義は休み、何処かへと行ってしまった。まあ、あまり深追いしても、友達だからと言ったって迷惑な話だろう。だから、私は何も言わなかった。
大学が終わり、佐藤 希の迎えで家へと帰る。
希「今日で最後……ですね。」
そうだ。そうだった。今日は特別な日と同時、佐藤 希が家にいられる最後の日だ。
佐藤 希は、哀しそうに、寂しそうにしていた。それは、私といられなくなることに対してかもしれないし、仕事が嫌なのかもしれない。
夢叶「……そうね。」
希「とても……楽しい日々でした。芸能界では味わえないような、そして、僕が手に入れられなかった幸せな空間が、そこにはありました。」
夢叶「………」
希「本当に、夢叶さん達には感謝しています。」
そう微笑む、佐藤 希。それは、本心だろう。この半年間、一緒にいたからこそわかる。テレビで見るこいつの笑顔は、仮面のようだった。だが、私達といる時の……私といる時の笑顔は、無邪気で純粋な、本心からの笑顔。その違いが、わかるようになってしまった。
希「今日は特別な日……楽しんでくださいね。」
夢叶「楽しむ?」
そんな意味深な言葉を言いながら、家へとついた。
そして、扉を開けると……
《パンッ!パンッ!パンッ!》
夢叶「!!」
沢山のクラッカーが、鳴り響いた。
それを鳴らしたのは……沙月、莉乃、梢、瑞稀、弟の玲緒だった。
「「「お誕生日おめでとう、夢叶!」」」
私は、忘れていた。佐藤 希のことがあっただけではない。”あの事件”が起きた後から、私は自分の誕生日も忘れ、家族の為にと働いていた。
自分が生まれた日など、正直どうでもよかった。まあ、バイト先ではイベントとして祝って貰えていたが、それは稼ぎ時だ。なので誕生日などと実感したことがなかった。
なので、唐突のことに私は現実味を感じなかった。
莉乃「ほらほら、何ボケッとしてんの!」
瑞稀「主役が早く座んなきゃ、始まんないでしょ!」
夢叶「え、えっと……」
希「皆さん、夢叶さんの為に集まったんですよ。」
皆は私の手を引っ張り、テーブルへと誘う。そして、椅子へと座らされ、電気が消された。
何があるんだとビクビクしていると、玲緒がロウソクの灯ったケーキを運んできた。
そうだ。誕生日といえば……ホールケーキにロウソクを灯すのが習わしだ。玲緒の誕生日にはいつもしてあげていることなのに、私にまでそんなことしてくれるだなんて、思ってもみなかった。
「「「ハッピバースデー、トゥーユー」」」
皆は声を揃えて歌い、私にロウソクの火を消すよう促す。私はドキドキしながら、ロウソクの火をふっと吹き消した。すると皆が、拍手をした。
電気が点けられ、お母さんがホールケーキを皆の数で切り分ける。その間に、皆が私の為にと誕生日プレゼントを用意してくれており、それをそれぞれが渡してきた。
莉乃「これ、夢叶に似合いそうなピアス!色々迷ったんだけど、これが1番似合うかなって思って!」
梢「私からは手編みマフラーです!心を込めて編んだので、使ってくれると嬉しいです!」
瑞稀「私からはこれ、リュック!夢叶、いつも大学に使ってるリュック、もう結構草臥れてルでしょ?新調した方がいいと思って、これにしたわ!」
夢叶「莉乃、梢、瑞稀……」
沙月「皆、夢叶の喜ぶ顔が見たくて、用意したんだ。」
沙月はそう微笑みながら、私の肩に手を置く。私は既に嬉し過ぎて、泣きそうだ。
玲緒「姉ちゃん。」
夢叶「何?」
玲緒「お、俺は中学生だから……バイトとか出来なくて、全然莉乃さん達みたいな、いいものじゃないんだけど……」
と、玲緒から渡されたのは……ミサンガ。
玲緒「沙月さんと梢さんから習って、頑張って作ったんだ。これで、次の空手大会でも、優勝してよ!」
夢叶「玲緒……ありがとう。」
私は玲緒を抱きしめた。玲緒は照れながら、満更でもないような表情で、私を抱きしめ返した。
沙月「私も、夢叶への誕生日プレゼントがあるんだよ!」
夢叶「そんな……もうこれだけで十分なのに……」
沙月「はい、これ!」
夢叶「これは?」
沙月「ストラップだよ!皆とお揃いの……夢叶、私、莉乃、梢、瑞稀、玲緒くん、夢叶のお母さん……そして、和臣さん。8人とのお揃いのストラップ。
この日をずっと、忘れないようにって思ってね。」
沙月からのプレゼントがなくとも、私はこの日をずっと忘れない。だけど……それでも、嬉しかった。
夢叶「ありがとう……皆。」
希「僕からは、物をプレゼントするより、今日のパーティーでの食べ物を用意した方がいいと思い、手作りのフルコースを用意しました。」
莉乃「このケーキだって、和臣さんが作ったのよ!」
瑞稀「料理だけでなく、お菓子だって作れるんだから……本当凄いわよね。」
希「さあ、皆さん思う存分食べてください!おかわりは沢山ありますからね!」
「「「わーい!」」」
結子「それに、今日で皆20歳だったわよね?お酒も用意してみたわ。」
梢「え、いいんですか?」
結子「ええ。夢叶にも、お酒の美味しさ、楽しさをわかって貰う為にも、皆で飲んで頂戴。」
「「「はーい!」」」
こうして、私の誕生日パーティーが始まった。
佐藤 希が作ったフルコース料理は、本当に見事なもので、見た目だけでなく味も本当によかった。これまで佐藤 希の作るご飯を食べてきたものだが、今日は皆と食べているからか、余計に美味しく感じた。
お酒も……私は、お酒なんか嫌いだったし、絶対飲まないだろうと思っていたが、こういうイベント事でくらいは、飲んでいいかもしれないと思った。
皆で飲むお酒は、何とも美味しく、悪いイメージが払拭されていく感覚がした。
この時間。この時間だけは、私は普通の大学生だと、思うことが出来た。
それは本当に、皆のおかげだ。感謝しかない。
こうして、私の誕生日パーティーは、盛大に行われ、気づけば夜の11時を回っていた。




