13話…映画。
あの告白事件から、数週間が経った。
あれ以降は、特に何かしら事件が起こるわけもなく、平穏に過ごせていた。
まあ、平穏に過ごせていれど、佐藤 希というイレギュラーな存在がいるおかげで、まるで非日常なのだが。
そんな今日は、久しぶりに沙月達と遊びに行くこととなっていた。
結子「あまり遅くならないようにね。」
夢叶「うん!」
結子「それじゃあ、楽しんできてね。」
夢叶「ありがとう!それじゃ、いってきまーす。」
お母さんと挨拶を住済ませ、佐藤 希の用意している車に乗り込む。
今日は普通に、電車を使おうとしていたのだが、佐藤 希が車を出すと聞かないので、渋々車で行くことにした。
希「良かったですね。ご友人と遊べる時間が作れて。」
夢叶「そうね。大学と勉強会以外で沙月達と会うのは、本当に久しぶりかな。」
希「夢叶さんは、働き者ですからね。ですが、今の時間も大事にしないと…」
夢叶「…それもそうね。」
佐藤 希が言うことも、一理あるだろう。私は高校の時から、学業と複数のバイトの両立をしているから、それが当たり前なのだが、沙月達もあと2年もすれば社会に出る。
そうなると、これまでのように皆で集まるのは、もっと難しくなる。そう考えると、私もバイトばかりせず、沙月達と遊ぶ時間を、もう少し作ってもいいかもしれないと、少しだけ思った。
希「着きました。」
夢叶「ありがとう。」
希「また帰る時間がわかりましたら、お母様にご連絡ください。僕がまた迎えに来ますから。」
夢叶「わかった。」
これだけ佐藤 希といるのだから、佐藤 希の連絡先を持っていたって可笑しくはないのだが、佐藤 希はそもそも半年間しかいない。それなのに連絡先を持っていたって、何れは不要になるのだ。
なら、最初から持っていない方がいいと思い、私は彼の連絡先を知らない。
希「それでは、お気をつけて。」
そんな挨拶を済ませ、私は待ち合わせ場所に向かった。
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沙月「あ、来た来た!」
梢「こっちですよ~。」
夢叶「皆早いね!」
莉乃「そりゃ、夢叶と久しぶりに遊べるんだもん。早く来るに決まってるでしょ!」
瑞稀「少しでも早く来て、夢叶と思う存分遊びたいからね。その気持ちは、皆同じよ。」
夢叶「皆…」
その言葉だけで、私は何て幸せ者なのだろうと、感じさせられる。
小学生の頃でこそ、沙月以外には友人に恵まれなかったが、成長して今では、こんなに最高な友達が持てた。
だからこそ…3人を、傷つけたくない。
その為なら私は、嫌いな嘘だって吐く。3人を傷つけない為にも……。
瑞稀「さ!最初は何処行こっか?」
莉乃「見たい映画があるのよね!まずはそれ行こ!」
梢「あ、もしかしてあれですか?」
夢叶「あれ?」
莉乃「佐藤 希主演の、ミステリー恋愛映画!」
ここにきて、また佐藤 希か。あいつは本当何処にでも現れるな。
莉乃「今日が公開最終日なの!もう2回は観たけど、もう1回観たくて!
それで、夢叶に佐藤 希の良さを知ってもらいたいのもあってさ!」
夢叶「あ、ああ…うん…」
瑞稀「よーし、じゃあそうと決まれば、映画館へレッツゴー!」
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映画館へと着き、それぞれチケットを購入。
莉乃と瑞稀は、映画を観る時にはポップコーンが欠かせない派らしく、2人はポップコーンも購入。
残りの私達3人は、とりあえずドリンクだけを購入して、中へと入った。
莉乃「本当これ、泣けるのよ~。」
沙月「へぇ。どういう内容?」
梢「佐藤 希は、ベテラン刑事なんですけど、ある連続自殺事件が起こるんです。」
沙月「うんうん。」
莉乃「そんな中、ある女性と出会い、2人は故意に落ちるの!」
沙月「へぇ。」
瑞稀「あ、ここから先は映画でね。ネタバレになっちゃう。」
それだけ言われ、早速私達は映画を観た。
莉乃達の言う通り、ある不可解な連続自殺事件が起こり、佐藤 希演じる刑事は、その事件を追っていた。
佐藤 希が演じる刑事は…何だか、普通の刑事とは言い難かった。何というか…やさぐれている。
普通の刑事のイメージと言えば、確かに凶悪事件に向き合うのだから、貫禄がある。だが…それとは違った何かを、感じさせられた。
まるで…この世に絶望しているかのような、そんな刑事。
その姿がまるで、普段の彼とは違い過ぎて、矢張り超人気俳優なのだと、思い知らされる。
そんな中彼は、トリマーの女性と出会い、2人は段々と恋に落ちていった。
だが、運命とは残酷で、佐藤 希は段々と気づいていってしまった。
その連続自殺事件の犯人が、その自分が好きになった、トリマーの女性だと。
そのトリマーの女性は、復讐としてこれまで連続自殺(殺人)事件を起こしていた。けれど、佐藤 希と出会ったことにより、多少は揺らいでいた。
それでも…復讐心の方が強かったのだろう。最後まで、やり遂げた。
そして、佐藤 希はそんな彼女でも受け入れようと…罪を償わせた後、結ばれようとしていた。
だけど……
女性は、そんな未来を願わなかった。
女性も悟っていたのだろう。その日のその待ち合わせ場所で、佐藤 希が自分を捕まえること。そして、プロポーズされること。
だから、女性は佐藤 希が来る直前に、被害者に飲ませたものと同じ毒薬を飲み、自殺を図った。
佐藤 希は駆けつけ、彼女を抱きかかえる。女性は苦しそうに、でも、安心したかのような表情で、一方的に想いを告げると……息を引き取った。
莉乃「う、うぅ…何回観ても泣けるわ…」
沙月「確かにこれは、泣けるね…」
私は感動して泣くっていう経験がない。そしてこの映画でも、感動はすれど涙が流れることはない。
…だけど、まるでこの映画が、他人事のようには思えなかった。
私はべつに、復讐心なんて持ってなかった。持ってなかったけど……。
一時は、死ぬことも考えた。でも、あいつがいなくなって、守る意味もなくなったかもしれないが、今度は養うという面で、守っていかなければならないと思った。だから、私は死を選ばなかった。
……もし、佐藤 希が、私の罪を知ったら、どうなるんだろう。
この映画のように、罪を償えって言うのかな。
それとも、嫌いになるのかな。
そんなもしも話が、頭の中を埋め尽くす。
エンドロールが終わり、そこで映画は終わるのかと思われたが、エピローグがあった。
そのエピローグでは、まるであんな事件がなかったかのように、世間は日常を取り戻していた。
あの犯人の女性が働いていたトリマーのお店も、新しい人が入り、まるではじめからそこに、彼女がいなかったかのような、何事もなかったかのように営業されていた。
だけど、ただ1人。
彼だけは、覚えていた。ずっとずっと、覚えていた。
凶悪事件は絶えない。刑事なのだから、そんな凶悪事件を次々と追わなければならない。それでも、彼女のことを覚えていた。
ある夕暮れの時。彼は1人、彼女が死んだ場所に行き、花束を手向けた。
その後ろ姿で、映画は終わった。
莉乃「どうどう?いい映画だったでしょ?」
沙月「うん!思った以上に本格的なミステリーだったし、ミステリーなのに切なさも織り交ぜられてて、初めて日本の映画で感動したよ!」
梢「夢叶ちゃんはどうでした?」
夢叶「え?ああ…うん、良かったよ。」
瑞稀「これで佐藤 希の良さがわかったでしょ!」
夢叶「そ、そうだね…」
苦笑いしながら、私はパンを1口頬張る。
映画が終わり、お昼時となったので、皆でパスタ屋に入った。
そのパスタ屋では、手作りパンもやっていたので、皆でパン食べ放題をつけ、パスタをそれぞれ頼んだ。
それぞれが映画の感想を述べるが、私はどこか上の空だった。それは、他人事のように思えないような、映画を観た所為だろう。
沙月「さ!次は何処行こっか。」
莉乃「そりゃもう、大学生と言ったらショッピングでしょ!」
瑞稀「大学生と言ったら、って意味が分からないけど…まあ、確かにショッピングはしたいわね。」
梢「じゃあ決まりですね!」
夢叶「うん。じゃあ行こっか。
あ、ここは私が出すからいいよ。」
莉乃「え!?で、でも夢叶だって、家庭の為に働いてるのに、いいの?」
夢叶「いいよ、これくらい。
それに、いつも皆には我慢してもらってるからね。」
梢「でも……」
沙月「それじゃあさ、ここは夢叶のお言葉に甘えて、私達はショッピングで、夢叶に服をプレゼントするっていうのはどう?」
瑞稀「いいねそれ!夢叶、いつも地味なパンツスタイルばっかだし。たまには可愛らしい服とか着たら絶対いいよ。」
夢叶「で、でも私、スカートとかそんな好きじゃなくて…」
瑞稀「何言ってんの!好きとか嫌いとかの問題じゃないって!」
莉乃「そうそう。よし、じゃあ早く行こう!」
皆は私の服選びをするのを、楽しみにしていた。
私も楽しみ…ではあるが、たぶん私の好みにはならないというのは、予測出来る。
でもまあ、皆が選んでくれたものなら…仕方ないけど、着ないとね…。




