11話…勉強会。
そして、翌週の火曜になった。
その日の大学の講義は、私達は午前で切り上げ、午後からは佐藤 希主催のキャラ弁勉強会に行った。
佐藤 希から場所は聞いていたので、皆でバスに乗り、その料理教室まで向かったが…まさか、都内の料理教室とは思わず。
莉乃「……本当にここで、合ってんの?」
梢「住所的に、ここで間違いはありませんが……」
地図で案内された場所は、確かに料理教室ではあったが、1度の会場代だけで、ウン十万は飛びそうなくらいの、かなり豪勢な場所だった。
瑞稀「あの親戚の人、転職したばっかじゃなかったっけ…?それなのにこんな場所、よく用意出来たわね…。」
夢叶「貯金してたんだと思うよ。」
沙月「だとしても、私達の勉強会の為だけに、こんな会場用意してくれるなんて…凄い人だね…。」
瑞稀「本当何者…」
私達は場違いじゃないかと思いながらも、その教室の中に入る。
すると、そこにはお洒落ながらも汚れてもいいように、黒い服で決めた佐藤 希がいた。
希「お待ちしてました。」
爽やかな笑顔で、私達を迎え入れる。それだけで、私と沙月以外のメンバーはときめいただろう。
梢「凄く豪勢な場所ですね…」
希「そうですか?」
莉乃「お兄さん、本当何の仕事してれば、こんなとこ用意出来るんですか…?」
希「ふふ、それは内緒です。
さあ、僕のことより、勉強会を始めましょう。」
などとはぐらかし、私達は持ってきたエプロンを身に着け、準備をする。
希「いきなりキャラ弁作り…と言っても、皆さんの料理レベルがわからないので、まずは玉子焼きを作りましょう。」
瑞稀「玉子焼きで料理レベルがわかるんですか?」
希「はい。僕は大体それでわかりますね。」
沙月「じゃ、早速作ろ!」
と、私達はまず玉子焼きを作ることになった。
…………
………………
……………………
莉乃「こんなもんね。」
梢「上手く出来た気がします!」
瑞稀「まあ、玉子焼きくらい簡単に出来るわよね。」
夢叶「………」
沙月「ま、まあ夢叶は…その、独創的で、いいと思うよ…」
私以外のメンバーは、見事な玉子焼きを作った。
だが、私はと言えば……本当に玉子焼きなのかと疑うレベルの、よくわからないものが出来上がった。
希「皆さんお上手です!夢叶さんも、とてもいいと思いますよ。」
夢叶「嘘吐かなくていいわ…こんなの、全然玉子焼きじゃない…」
瑞稀「一体どうやったら、そんな独創的なものに仕上がるのよ…」
夢叶「それは私の方が知りたい…」
気が滅入るばかりだ。皆は料理が出来るから、勉強会も楽しいものかもしれない。
けれど私は、ただただ自分の料理下手を思い知らされるだけで、全く楽しくなんかない。
希「では、早速本題のキャラ弁作りに移っていきたいと思いますが…皆さん、どういうものが作りたいとか、考えてきていますか?」
莉乃「うーん、特に考えてきてなかった…。」
梢「確かに玉子焼きくらいは、上手く出来ますが…キャラ弁ともなると、難しいですから…。」
瑞稀「初心者向けのキャラ弁とか、あったりします?」
希「ありますよ。では、それを作っていきましょうか!」
こうして、本番のキャラ弁作りが始まった。
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莉乃「ふぅ…こんなもんね!」
希「莉乃さん、素晴らしいです!莉乃さんに初心者向けは、簡単すぎたかもしれませんね。」
梢「わ、私も出来ました…けど、ちょっと難しかったです…」
希「大丈夫ですよ。これだけ出来れば上出来です!」
瑞稀「うーん、何だか物足りない気がするのよねぇ…」
希「それなら、ここをこうしてみては如何でしょう?」
3人は見事綺麗なキャラ弁を作り上げて見せた。勿論、見学と言っていた沙月も、きれいなキャラ弁を完成させていた。
そんな私は……絶賛、落ち込み中だ。
沙月「ま、まあまあ夢叶…そんな落ち込まないで…」
瑞稀「そうよ。予想してた通りなだけじゃない。」
何を隠そう、案の定私の壊滅的な才能が発揮されてしまったからだ。
ハンバーグでくまさんの形を作りましょうと言われ、作ってみればくまさんと言うよりもバケモノみたいなのが出来上がり、コロッケを揚げようとすれば爆発し、ゆで卵を剥けば実までボロボロにしてしまった。
夢叶「だから嫌だったのよ…!私も参加するのが…!」
希「まあまあ。ですが、玉子焼きは上達したじゃありませんか!」
そう佐藤 希は、フォローしてくれる。まあ、確かに言われてみれば…1番最初に作った玉子焼きよりは、玉子焼きらしくなった。
莉乃達はキャラ弁用の為にと、基礎が出来ている為、ハート型の玉子焼きを作ったが、私は基礎を作るべきだと思い、基礎の形をひたすら練習した。
…勿論、佐藤 希に手伝ってもらいながらだが。
希「無理に全部完成させる必要なんてないですよ。兎に角、少しでも成長出来るのなら、それだけで十分です。」
夢叶「……そう。」
沙月「あれ?夢叶、もしかして照れてる?」
夢叶「て、照れてなんかない!」
莉乃「うっそだ~。耳、真っ赤だよ。」
沙月が私の表情の変化に気づき、莉乃もそれに気づいたのか、からかってきた。
弟の玲緒にそんなことされようものなら、空手の組手で黙らせてやるが、女友達相手にそんなことをするわけにもいかず。ひたすら否定するしかない。
希「ふふ。夢叶さんのご友人は、皆さん楽しい方ですね。」
瑞稀「そうでしょ!私達、とても仲がいいんですよ。」
希「羨ましいです。」
沙月「お兄さん、お願いがあります。」
と、落ち込む私を慰めながら、沙月は佐藤 希に声をかける。
希「何でしょう。」
沙月「………夢叶のこと、よろしくお願いします。」
夢叶「…?沙月?」
少し間を空け、沙月はそんな意味深な言葉を、佐藤 希に言った。
…まさか……気づいている…?
希「!…勿論です。お任せください。」
沙月「なら良かった!」
一瞬、哀しそうな表情をしたが、すぐまたいつもの笑顔に戻り、落ち込む私の頭を撫でてくれた。
時々沙月のことが、わからなくなる。沙月の勘は、いつも鋭い。だから、時々沙月が何を思っているのか、何を感じているのか、わからなくなる。
小学生の頃からの仲だと言うのに……。
希「皆さんが思った以上に手際よかったので、時間余っちゃいましたね。」
莉乃「よーし!それじゃあ夢叶の特訓に、付き合おうじゃない!」
夢叶「まだ作るの!?」
瑞稀「当り前よ。玉子焼きだけ上達したって、意味ないじゃない。
くまさんのようなバケモノはいいとしても、せめてコロッケが爆発しないくらいには、上達しなきゃ。」
夢叶「うぅ…もうやだぁ…」
沙月「よしよし。でも、瑞稀達の意見は最もだから、もう少し頑張ろう?私も、見守ってるからさ!」
夢叶「…沙月が…そう言うなら…」
梢「頑張りましょう、夢叶ちゃん!」
夢叶「……うん……」
こうして、その日は夜まで私の料理特訓となり、おかげでコロッケは爆発しなくなった。
それを皆、褒めてくれた。
だけどその様子を、佐藤 希は寂しそうな表情で、見つめていた。
何をそんなに、寂しがっているのだろう。彼だって今この瞬間は、私達の仲間なのに。
彼はもしかしたら、線引きをしていたのかもしれない。私の前では素でいられても、他の人の前では、それが出来なかったのかもしれない。
だから、私達のような、お互いが素でいられる、そんな友達に恵まれているのが、羨ましかったのかもしれない。
……まあ、私には関係のないことだが。




