10話…お弁当。
佐藤 希がうちに来てから、2カ月が経った。
案外早いものだと思うと同時、たった2カ月の間にかなりうちに馴染んでいた。
お母さんも玲緒も、まるで佐藤 希がはじめからうちにいたかのように、順応している。
そんな私は…未だに馴染めないでいた。朝の新聞配達に、大学や夕方のバイト先までの送迎をして貰ってはいるが…それでも、慣れない。
そんな、ある日。
大学まで送って貰っている途中でのことだった。
希「夢叶さんは、いつもお昼はどうされているんですか?」
夢叶「基本購買のパンとかを食べているわ。あとは…たまに友達と食堂で。」
希「そうですよね。思った通りでした。」
夢叶「思った通り?」
希「はい。ちゃんと栄養が摂れているか、心配だったんです。
学食でなら、栄養は摂れるでしょうが…購買だと、難しいと思います。
なので、今日から夢叶さんにもお弁当を、作ってみました!」
玲緒の中学ア給食制ではなくお弁当制なので、玲緒にお弁当を持たせていたのは知っていた。
だが、まさか私にまで作ってくるとは、思ってもみなかった。
希「お口に合うと良いのですが…」
夢叶「受け取る前提で話を進めてるわね?」
希「はっ!そ、そうでした…。…やっぱり、不都合ですよね…」
夢叶「…まあいいわ。もう作ってしまったんだもの。
それにまあ…節約にもなるし、いいんじゃない?受け取ってやるわよ。」
希「!あ、ありがとうございます!」
大学へと着き、その例のお弁当を受け取る。
夢叶「じゃ、いつも通りの時間で。」
希「はい、お気をつけて。」
そう挨拶を済ませ、佐藤 希と別れる。
周りをキョロキョロと見渡し、沙月がまだ来ていないのを確認。そして、素早くお弁当をリュックの中に入れた。
私が料理下手なのは、沙月達の中でも有名な話だ。
お母さんに負担をかけない為に、お弁当を避けていることを、沙月は知っている。
それなのに、お弁当を持っていたのであれば、不審がられるのは目に見えてわかっている。
…今日のお昼は、1人で食べることになりそうだ。
夢叶「…断れば、良かったのに…」
そう1人呟く。何故私は、断れなかったのだろう。
段々と私も、絆されているのかもしれない。
まあ、もう受け取ってしまったのだから、ちゃんと完食して返さなければ、失礼だろう。
夢叶「…バカみたい。」
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午前の講義が終わり、昼食を1人で食べようと決めていた矢先。
沙月達に声をかけられた。
沙月「夢叶、今日お昼はどうする?」
莉乃「学食行く?」
まさか今日というタイミングで、誘われるとは思っていなかった。
どう断ろうかと悩んでいた時……
梢「あれ?これって……」
瑞稀「お弁当?」
リュックの隙間から、佐藤 希から受け取ったお弁当が、見えていた。
瑞稀「夢叶がお弁当なんて、珍しい…」
沙月「じゃあ私達は、購買で買ってこよ!」
莉乃「そうね。そうと決まれば、早く行かなきゃ!いいのなくなっちゃう!」
夢叶「え、あ、や…そんな、無理して私に合わせなくても…。べつに、1人で食べるのなんて慣れてるし…。」
瑞稀「何言ってんの!夢叶のお弁当の中身が見たいから、合わせるに決まってるじゃない!」
梢「そうですよ!それに、1人で食べるのがいくら慣れていても、寂しいものじゃないですか。
ここは私達に甘えて、ね?」
甘えるとかそんな次元じゃない。
バレないようにする為に、遠慮したわけなのだが…どうやらそれは伝わらないらしい。
私のそんな声も虚しく、沙月達は急いで購買へと向かっていった…。
…………
………………
……………………
莉乃「さてさて、夢叶のお弁当の中身、見せてもらおうじゃない。」
ニヤニヤと、莉乃達は楽しんでいた。
梢「因みに、誰が作ったんですか?」
夢叶「え、えっと…お母さんと一緒に、作ったの…」
沙月「遂に夢叶も、料理が出来るようになったんだね…!」
なんて、沙月は涙ぐんでいた。
沙月とは小学生の頃からの仲で、その頃から私が壊滅的に料理が下手だと知っていたので、まるで親が子の成長を喜ぶような、そんな心境なのだろう。
瑞稀「さあさあ、早く御開帳よ!」
夢叶「うぅ…」
もう、どうにでもなれ!と思いながら、お弁当の蓋を開ける。
すると、そこには……
莉乃「こ、これは…」
恐る恐る、私も目を開けて、見てみる。
そこにあったのは……所謂、キャラ弁だった。
アニメなどのキャラワオ模しているわけではないのだが、ミンスタ映えを狙うかのような、可愛らしいお弁当。
こんなもの、料理が壊滅的に下手な私が、作れるわけがない。
沙月「…本当に、夢叶が作ったの?」
疑問を持たれる。当たり前だ。料理初心者ですらキャラ弁は難しい。それなのに、料理が壊滅的な私が作ったなんて、もっと信じられないだろう。
だから1人で食べようとしてたのに…!
夢叶「あ、あはは…ほら、あの…結局さ、上手くいかなくて…全部お母さんに、任せちゃった…」
沙月「でも、お母さんも大変なんじゃ…」
瑞稀「それにこんなの、夢叶の趣味じゃなくない?」
夢叶「え、えっと…」
梢「あ、わかりました!こないだの親戚の方も、手伝ったんじゃないですか?」
莉乃「親戚の人?…ああ、あの不審者の恰好してた人?」
梢「ほら、初めての送迎の時は、不審者の恰好をしてましたが、あれ以降は凄くお洒落な恰好してましたし。それこそ、ミンスタ映えしそうなくらいお洒落でしたよね?
あの方なら、こういうお弁当作りそうですし。」
夢叶「た、たぶんそう!私、途中で諦めて、キッチンから離れちゃったから、正直誰が作ったかなんて知らなくてさ!
確かにあいつなら、こういうの作りそう~!」
本当、無理のある言い訳だ。表面笑顔を繕ってはいるが、たぶん引き攣っているだろう。
沙月「うーん…まあ、それなら納得…かな?」
莉乃「でも、男でこんなの作れるなんて、あの親戚の人、ほんと何者…?」
夢叶「あいつ、昔から手先が器用でさ~!女の私でも敵わないくらいで…!」
瑞稀「へぇ。じゃあ今度、私達にも教えてって伝えといてよ!」
夢叶「え?」
瑞稀「ほら、将来私達も彼氏とか出来た時、こういうの作れたら最高にいいじゃん?」
夢叶「ま、まあ…そう、だね…」
瑞稀「だから、キャラ弁勉強会をしてって伝えといてね!」
夢叶「わ、わかった…」
断り切れる雰囲気ではなく、私は了承してしまった。
本当に…調子が狂わされっぱなしだ…。
莉乃「それじゃ、いただきまーす!」
夢叶「…いただきます。」
その日のお昼は、あまり味を感じなかった。
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午後の講義も終わり、迎えの時間となった。
あれから事件もなく、無事に過ごせていると言うのに、莉乃達は今日も門までついてきた。
夢叶「えっと…皆、どうしてそんなついてくるの?もうあれから何もないのに…」
莉乃「バカね夢叶!こうやって油断したときに、襲われるに決まってるじゃない!」
梢「いくら校内だからといって、油断していたらそれこそ犯人の思う壺ですからね。」
夢叶「………」
沙月「皆夢叶が心配なんだよ。だからそんな邪険にしないであげて?」
夢叶「邪険にはしてないけど…でも、皆に迷惑かけちゃうし…」
瑞稀「全然迷惑なんかじゃないわよ。友達の為なんだから、当たり前でしょ。
それに夢叶だって、私達の中の誰かがそんな目に遭ったら、同じようにするでしょ?」
夢叶「うっ…まあ、確かにそれはそう…」
梢「あ、いましたよ!」
梢の声とともに、顔を前に向けると……いる。変装した佐藤 希が。
瑞稀「あ、丁度良かった。お昼に伝えといてって言ったけど、私達から直接頼もうよ!」
莉乃「確かに、その方がいいかも!」
夢叶「え、ちょ…!」
私の静止の声も聞かず、梢と瑞稀と莉乃は、佐藤 希の元まで駆けつけ、声をかけ始めた。
莉乃「夢叶の迎えの親戚の人ですよね?」
希「はい、そうですよ。」
梢「今日の夢叶ちゃんのお弁当、見ました!お兄さんがお作りになられたんですよね?」
希「はい!」
瑞稀「とっても凄かったです!あの、良ければ私達に今度、作り方教えてもらえませんか?」
希「構いませんよ。いつにしましょうか?」
莉乃「夢叶!次の休みいつ!?」
夢叶「え?えっと…最短で来週の火曜…」
莉乃「じゃあ、来週の火曜で!」
希「いいですよ!では、料理が出来るような教室も、ご用意しておきますね。」
莉乃「え!?そんなの用意出来るんですか!?」
希「勿論!」
梢「凄すぎです…」
瑞稀「一体何者…」
夢叶「あの…これってもしかして…私も習うことになってるんじゃ…」
莉乃「当り前じゃない!夢叶だって料理出来るようになれば、お母さんの負担も減らせて、万々歳でしょ?」
それは確かにそうだ。
だが…こいつに習うなど…屈辱的だ…!
莉乃「あ、勿論沙月も来るんだよ?」
沙月「だと思った。まあ、夢叶の成長を見る為だもん。行くに決まってるよね!」
私の気持ちなど知らず、佐藤 希を含む5人は、勝手に決めて勝手に楽しみにしていた。
嗚呼…本当にもう…
どうなっちゃうのよ…!!




